スマート家電で変わる電力市場、欧州が目指す未来図

スマート家電で変わる電力市場、欧州が目指す未来図

[パリ 2日 ロイター] - 食器洗い機は風が最も強い時間帯に動き始め、洗濯機は太陽が輝き始めると回り出す──。その日の天気で、家事のスケジュールが決まる日が来るかもしれない。

これは、スマート家電に搭載されたアルゴリズムが、風力発電太陽光発電による電力の供給量が上昇し、電力卸取引市場のスポット価格が下落した瞬間に自動的に反応し、家電を動かすことで実現する。家計を節約することができ、電力市場のバランスも保たれる。

実現するのは何年も先の話かもしれないが、これが欧州連合(EU)が描く未来図だ。EUは、化石燃料を燃やして得る安定した発電から、不安定な再生可能エネルギーへの転換を進めるにあたり、電力供給の仕組みの効率化を目指している。

ほとんどの電力会社が以前から夜間割引料金を提供しているが、2020年に導入される見通しのEUの新ルールでは、晴れの時や風が強い時間帯、分散された時間帯や、事業者が休みの週末などの電力使用を利用者に促すような、柔軟な選択肢を提供することが義務付けられる見通しだ。

需給で価格が変動するダイナミックプライシングの電力契約は、すでにスペインやスカンジナビア諸国では広く提供されている。だが英国やフランスのような欧州最大級の市場では導入が始まったところで、欧州の電気小売業界が大きく変化する可能性があると、アナリストは指摘する。

こうした転換は、エネルギー使用パターンを正確に記録できるスマートメーターの普及で可能になる。

再生可能エネルギーの増加と、スマートメーター、ネット接続家電の普及がダイナミックプライシングを後押しするので、これからは、欧州の消費者は電力の卸市場が提供する機会を利用できるようになるだろう」と、アクセンチュア・リソーシズのジャンマルク・オラニエ、グループ最高経営責任者(CEO)は話す。

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新規参入した小規模事業者は、卸市場価格に連動した価格での1時間または30分単位での電気提供など、より実験的な料金を提供する傾向にある。
フランス電力大手EDF(EDF.PA)や英セントリカ(CNA.L)などの伝統的な大手事業者は、時間帯ごとに異なる価格設定を提供するなど、段階的に対応を進めている。
欧州委員会(EC)のクラウスディーター・ボルヒャルト域内エネルギー市場部長は、可変価格設定により、世帯あたりの電気代が年間400ユーロ(約5万2000円)も節約できる可能性があると話す。

欧州や、米国やオーストラリアなど他の先進国電力市場でも、まだこうした変化は緒に付いたばかりだ。ほとんどの場合、電力会社は卸供給の増減や使用時間に関係なく固定価格で電気を売っており、ダイナミックプライシングは市場のほんの一部でしか導入されていない。だがそれは、成長しつつある。

調査会社ナビガント・リサーチのアナリスト、ブレット・フェルドマン氏によると、ダイナミックプライシングを利用する世界の顧客数は、2018年の450万人から2025年までには7500万人になるとみられており、そのうち1500万人が欧州在住になると予測されている。

こうした変化には、オートメーション(自動化)が不可欠だと専門家は話す。
市場データ提供会社スタティスタによると、スマート家電がある世界の世帯の割合は、現在の3.5%から、2022年までには約10.6%に増加するとみられている。
「利便性が鍵だ」と、前出のオラニエ氏は言う。「利用者は、設定したらあとはお任せにできる家電を求めている」