トランプ関税攻撃、中国の致命傷にならない訳

トランプ関税攻撃、中国の致命傷にならない訳[18日 ロイター] - トランプ米大統領が仕掛けてくるいかなる関税戦争に対しても、中国は勝利を収める準備が万端整っている。その戦略はいたってシンプルで、「独裁資本主義」という同国の伝統に集約される。

米国市場が17日に引けた後、トランプ大統領は中国からの輸入品2000億ドル(約22兆4000億円)相当に10%の関税をかけると発表した。予想されていた税率の半分だが、これには中国を2国間交渉のテーブルに着かせる狙いがある。

交渉のさらなるインセンティブとして、大統領は年末商戦後の年内に税率を25%に引き上げると発表した。
だが、中国が効果的に取り入れている独裁資本主義は、トランプ大統領が、自国に勝利をもたらすような経済的苦痛を中国に与えることを困難にさせるだろう。
米政権内ではほとんど、あるいは全く注目されていないが、目からうろこが落ちる瞬間にたどり着く重要な要素がいくつかある。
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筆者自身にそのような瞬間が起きたのは、自宅キッチンにある新しい用具を調べていたときだ。「中国が関税を発動する前にこのハイアール製レンジを買い換えた方がいいかな」と、電化製品のセールスマンに聞いた。すると、彼は心配無用だと笑って答えた。ハイアールは値上げしないと保証したというのだ。

この営業担当者はただ自分が勤める店のセールストークを繰り返していただけかもしれない。だが翌日、学生時代の友人で、クリスタル・ソーラーの最高財務責任者(CFO)を務めるデービッド・ボストウィック氏は、それこそまさに中国が米国の太陽光パネル市場に拠点を築いたやり方だと指摘した。

価格を下げ、米国の太陽光パネル産業を骨抜きにした。「価格を2割下げれば、中国人は支障なく米国で製品を売り続けることが可能だ」と同氏は言う。
こうした変化の一部によって、中国企業は一段と効率を上げ、長期的に競争力が強まる可能性がある。同時に、利ざやが薄いせいで卸売価格から1割値下げしたがらない、あるいはそれが不可能な企業は、中国の国内外で他の創造性に富んだ選択肢を見つけ出すかもしれない。
中国は長年、経済成長を促進するため輸出に依存する経済からの脱却を図ってきた。そうした政策はうまくいっている。

世界的なリセッション(景気後退)の真っただ中だった2009年を除き、国内総生産(GDP)に占める輸出の割合は過去10年、毎年低下している。輸出部門の割合は昨年18.5%を占めるにすぎず、2007年の35%と比べて大幅に低下した。また、昨年の対米輸出は全体のわずか18%にすぎなかった。

言うまでもなく、習近平国家主席支配下で台頭する中国国有企業の役割も、関税に対するカウンターとして使われるかもしれない。中国政府は思いのままに利益水準を調整したり、大量の労働者を雇用し続けたりすることが可能だ。
その一方で、自国通貨の人民元を10%切り下げる可能性もある。人民元に対する米ドル高の影響も踏まえると、新たなトランプ関税の効果の大半は無力化される可能性がある。
加えて、多くの中国民間企業は、中国からの輸入を減らそうとする米国の試みによって恩恵を受ける可能性がある。

東南アジアへのマーケティングや販売を増やすことができるからだ。同地域は経済成長の伸びが堅調であり、 経済協力開発機構OECD)は今後何年も「国内需要はレジリエント(回復力がある)」と予測している。ほかにも、とりわけ中国が活発に活動しているアフリカや中南米といった地域での販売増を狙うことも可能だ。

一部の中国企業は生産拠点を海外に移転さえするだろう。例を挙げると、ハイアールは米ゼネラル・エレクトリック(GE)から家電事業を買収後、すでに米5州に生産拠点を置いている。同社はまた、ニュージーランドの大手家電メーカー、フィッシャー・アンド・パイケル・アプライアンシズ(F&P)の買収を通して、メキシコからニュージーランドに至るまで生産拠点を構えている。F&Pはメキシコやイタリア、タイで生産している。

「メキシコは(かつて)生産拠点を構えるにはコストが割高だった。だが今では中国の労働者の方がメキシコのそれよりも高い。したがって、変化が起きる可能性はある」と、米商工会議所のアジア担当シニアバイスプレジデントのチャールズ・フリーマン氏は指摘した。

また、いかなる段階においても、トランプ関税の影響から中国の企業や経済を守れる方法もある。コスト削減や生産拠点の移転を望まない多くの企業は、中国政府に人民元を切り下げて影響を相殺するよう求める可能性が高いと、フリーマン氏は言う。「政策面で、それは(米国側に)多大な問題をもたらすことは言うまでもない。人民元の切り下げはすでに神経質な問題となっている」

だが本格的な貿易戦争のさなかで、中国が米国の感情にどれだけ配慮するというのだろうか。

最後の、そして今なお予想だにしない中国にとっての恩恵は、これが長期戦だということかもしれない。「関税は、中国の企業と経済が合理化し、一段と競争力と収益力を高める助けとなる可能性がある」と、米中商工会議所(シカゴ)のシバ・ヤム会頭は言う。要するに、ホワイトハウスにとって、あらゆる面で勝ち目がない、ということだ。

途中で多少の痛みは伴うかもしれないが、中国指導部の多くはトランプ氏が2020年の米大統領選挙で敗北するか、今年11月の中間選挙民主党が圧勝すると予想しており、米次期政権が関税を削減し、通常の自由市場の現実に戻るまでやり過ごすことができると考えている。
もちろん、習主席は選挙に勝つ必要などない。「終身国家主席」の同氏は、独裁資本主義システムを完全に手中に収めている。

*筆者は、米紙ニューヨーク・タイムズや米CBSテレビの元特派員でフォーダム大ロースクール国家安全保障センターの客員教授。著書に「A Shattered Peace: Versailles 1919 and the Price We Pay Today」がある。

*本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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