空飛ぶクルマ 欧米に挑む日本、官民に潜む壁 霞が関2018

空飛ぶクルマ 欧米に挑む日本、官民に潜む壁
霞が関2018

 「空飛ぶクルマ」の実現に向けて官民の動きが活発になり始めた。2020年代の実用化を目指して産業界ではここ1、2年で技術開発が急速に進んでいる。安全性や必要性を疑問視して腰の重かった関係省庁も制度整備に前向きな姿勢が強まっている。先行する海外の動きに追いつこうという機運を広げられるか。
■「空の移動革命」協議会で熱気
官民協議会の初会合は関係者で埋め尽くされた
官民協議会の初会合は関係者で埋め尽くされた
 8月29日、都内で開かれた「空の移動革命に向けた官民協議会」の初会合。会場は150人の参加者で埋まり、経済産業省井上宏司製造産業局長は「多くの関係者が集まり関心の高さを感じる」と声を弾ませた。
 経産省の資料によると、空飛ぶクルマは「明確な定義はないが『電動』『自動』『垂直に離着陸するもの』がひとつのイメージ」。日本では、災害時の救急搬送や物資支援、離島や山間部での移動などの新しい手段としての活用が見込まれる。
 先行する国では安全性に定評のある航空機メーカーやヘリメーカーが開発に意欲的だ。欧州ではエアバスが23年に4人乗りの機体を実用化する計画。米国ではベルヘリコプターが高速道路上を飛行するシミュレーターをつくった。民間が政府を引っぱる民間先行型といえる。
 アラブ首長国連邦(UAE)やシンガポールでは国土が小さいことや将来の人口増を見越して政府と民間が開発に協力し実証実験に積極的に取り組んでいる。観光資源としての色合いも強く、官民が強力に連携する形態だ。
 日本はどうか。トヨタ自動車などが支援する有志団体のカーティベーターや、プロドローン(名古屋市)などが名乗りをあげているが、経産省の担当者は「皆が足並みをそろえて、という感じ」とみる。国土交通省の担当者は「海外で実績のある会社が開発を進めているように、日本のメーカーもしっかりとした航空機の安全設計の思想を持ったうえで開発を進めてほしい」と注文をつける。
■「直接支援する予算は…」
日本の有志団体、カーティベーターが開発する空飛ぶクルマ「スカイドライブ」
日本の有志団体、カーティベーターが開発する空飛ぶクルマ「スカイドライブ」
 一方、「資金不足」と嘆く民間にとって省庁側の支援姿勢は心もとない。8月30日、経産省の19年度予算概算要求と税制要望に関する記者会見。空飛ぶクルマの技術開発支援の予算要望額を聞かれると、同省の担当者は「直接支援する予算は今回ありません」。ドローンの運行管理システムの開発や航空機の電動化の試験開発を進めており、これらが結果的に「空飛ぶクルマ」の開発にも役立つという返答だった。
 日本流はまだ暗中模索の状態。企業には社会に受け入れられるような安全性をもつ開発、政府には開発に応じた制度設計や支援がそれぞれ求められる。生半可な協力体制では先行する海外に太刀打ちできない。失敗すれば、欧米メーカーが牛耳る航空機市場のように、海外の「クルマ」ばかりが日本の空を飛ぶことになりかねない。
(亀田知明)