検証・北海道全域停電 周波数の急変動で発電機停止
検証・北海道全域停電 周波数の急変動で発電機停止
北海道を襲った地震の影響で、道内のほぼ全域で停電する「ブラックアウト」が国内で初めて発生した。北海道電力の電力需要の半分をまかなっていた火力発電所の緊急停止が引き金となった。電力網は需要と供給のバランスが崩れると電気の周波数が乱れ、発電機や供給先の工場設備などの故障につながる。日本の電力網が抱える弱点は再生可能エネルギーの普及の足かせにもなっている。
電気の流れ方には、直流と交流の2種類がある。乾電池やバッテリーなどは直流で、電気を電線に流すときに常に一方通行で流れ、電圧はほぼ一定に保たれる。
これに対し、家庭や工場などで使われるのが交流で、電気が流れる向きや電圧、電流は時間とともに変化する。コンセントから流れる電気は常に行ったり来たりをくり返している。1秒間に切り替わる回数を周波数と呼び、単位はヘルツだ。日本では、北海道を含む東日本で50ヘルツ、西日本は60ヘルツに設定されている。
周波数は電気の需要と供給のバランスで変化する。一定に保つには、家庭や工場で消費される電力(需要)と総発電量(供給)を一致させる必要がある。需要が供給より大きいと周波数は下がり、逆に供給が大きくなると周波数は上昇する。
電力の消費量は常に変化するため、電力会社は需要を予測しながら発電量を細かく増減させ、周波数が一定に保たれるように調整している。電力中央研究所研究参事の北内義弘さんは「約10秒以内の時間差で時々刻々と自動調整する必要がある」と話す。
調整役を担うのは火力や水力の発電所だ。発電機を回す蒸気や水を流す量を変え、出力を増減させる。火力の蒸気量は瞬時に変えられ、調整に向く。継続的な調整には、燃やすガスや石炭の量を変える必要があり、出力に反映されるまでには時間がかかる。
需給バランスの乱れによる周波数の変動は、需要や供給のいずれかが急激に増減したときに起こりやすい。発電機は50ヘルツや60ヘルツの周波数のときに最も効率よく発電するように設計されている。しかし、周波数が大幅に変動すると、発電機の回転数も対応するため、振動などが発生し、機器が壊れる恐れがある。そうならないように、発電機には自動停止して故障を予防する仕組みが備わっている。
地震発生当時、道内の電力需要は約310万キロワットだった。このほぼ半分を震源に近い苫東厚真火力発電所(厚真町)の1号機(出力35万キロワット)と2号機(出力60万キロワット)、4号機(同70万キロワット)を稼働させてまかなっていた。地震直後に2、4号機が緊急停止。供給量のほぼ4割が一気に失われた。需要が供給を大きく上回り、50ヘルツに保たれていた周波数が急激に下がった。
北電はさらに、北海道と本州をつなぐ送電線「北本連系線」を通じて東北電力などから供給を受け、バランスの回復を試みた。いったんは持ち直したようにみえたが、周波数の急落を防ぐことができなかった。各地の発電所は周波数低下による故障を防ぐため、次々と自動停止。停電は道内に広がった。
東京工業大学教授の七原俊也さんは「北海道には特有の事情があった」と指摘する。管内の電力需給の規模が小さく、他の地域と交流の送電線でつながっていない孤立した状況だった。発電所停止の影響は相対的に大きくなる。仮に、関東や関西で出力130万キロワットの発電所が急に止まったとしても、管内の電力需要は数千万キロワットに上り、供給の変化率は数%にとどまる。
周波数を変動させる電気の需給バランスの崩れは、供給が需要を上回るパターンでも起こりうる。昼間に電気を作る太陽光発電所の普及で、冷房の電力需要が落ちる秋などに電気が余る恐れがある。
(科学技術部 越川智瑛)
■直流・交流の送電
電気は交流で送るのが一般的で、直流は限定的だ。交流では簡単な構造の変圧器で効率よく電圧を変えられる。大容量の電力を送るには電圧を上げ、電流を小さくすると損失を減らせる。発電所で作った電気は高圧にして送り、段階的に電圧を下げて供給している。
一方、本州と北海道を結ぶ海底ケーブルは技術的な理由から直流で送電し、両端で交流・直流の変換がおこなわれる。東日本と西日本の間で周波数を変換して電気を送る施設でも、いったん交流を直流に変換している。
電気は交流で送るのが一般的で、直流は限定的だ。交流では簡単な構造の変圧器で効率よく電圧を変えられる。大容量の電力を送るには電圧を上げ、電流を小さくすると損失を減らせる。発電所で作った電気は高圧にして送り、段階的に電圧を下げて供給している。
一方、本州と北海道を結ぶ海底ケーブルは技術的な理由から直流で送電し、両端で交流・直流の変換がおこなわれる。東日本と西日本の間で周波数を変換して電気を送る施設でも、いったん交流を直流に変換している。