石灰石でプラスチック代替素材 石油樹脂を極力使わず スタートアップのTBM

石灰石でプラスチック代替素材 石油樹脂を極力使わず
スタートアップのTBM

2018/10/8 6:30
日本経済新聞 電子版
NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞
環境汚染につながるとして使用中止の動きが広がるプラスチック製ストロー。廃プラ問題に改めて関心が集まるなか、スタートアップのTBM(東京・中央)が手掛けるプラスチック代替素材が注目されている。石灰石を主原料に石油由来の素材を極力使わない「優しさ」が売りだ。今年度中には植物由来の素材を活用した完全生分解の新素材も投入する計画で、増産にも動き出した。
TBMの独自素材「LIMEX(ライメックス)」で出来たクリアファイルやメニュー表を触ってみた。「少し厚めだな」と感じたものの、一般的なプラスチックと大差なかった。見た目も大きな違いは見当たらない。
石灰石を主原料につくった使い捨て食器
石灰石を主原料につくった使い捨て食器
通常、プラスチックは石油由来の樹脂から作る。自然分解しないため、海などに廃棄物として流出したり、不法投棄されたりすると環境汚染の原因になる。最近では国内外の外食企業などが相次いでプラスチック製ストローの使用中止を打ち出して話題となっている。
これに対して、ライメックスは石灰石が主原料。石灰石は日本国内の埋蔵量も豊富で、安価に手に入る。プラスチック代替として紙製のストローや食器も注目されているが、石灰石を使えば水や木材の使用も減らせる。
■水や木材の使用も減らす
TBMは2011年の設立。山崎敦義CEO(最高経営責任者)はこれに先立つ08年に、台湾メーカーの石灰石で作った紙代替素材「ストーンペーパー」の輸入販売を始めていた。しかし、紙に比べて重いうえ、異物がついていることが多いため印刷もしにくく、思うようには売れなかった。
台湾のメーカーに改善してもらえるように伝えたが対応してもらえない。そこで、自ら解決しようと独自素材の開発に着手。ストーンペーパーの反省から安定した品質と軽さにこだわった。
ライメックスの製造工程はプラスチック製品と似ている。ただ、原料が大きく異なるため、TBM独自の細かい工夫がちりばめられている。
まず、石灰石と石油由来の樹脂を混ぜ合わせる工程だ。タンクに入れて混ぜるだけでは成型後に石灰石が粉状に吹き出したり、形が崩れたりする。同社は均一に混ぜる技術を確立し、形状が安定した最終製品をつくることに成功した。
混ぜ合わせた素材からシート状の製品を作る際にも独自技術を使う。素材に空気を含ませながら高温下で延ばすことで、強度を保ちながら「上質の印刷用紙とほぼ同じレベル」という軽量化を実現した。
ライメックスの製造に関する技術では特許も取得。16年から販売を始めており、メニュー表やポスター、使い捨ての食器など幅広い分野で利用が広がっている。現在では国内3000社以上と取引があるという。
ただ、現在のライメックスの原料は石灰石が6~8割を占めるが、石油由来の樹脂も2~4割含まれており、完全な生分解性素材とは言えない。石灰石の含有量を高めたいが、ただ増やすと耐久性が落ちたり、素材が粉っぽくなったりする。
TBMの笹木隆之執行役員は「どれだけ石灰石の量を増やしながら、質が高い素材を作れるかが現在の研究課題」と話す。シートをより薄くして様々な印刷機に対応できるようにすることも検討している。
■植物由来の素材活用も
一方、石灰石の含有量を増やす研究と並行して開発を進めているのが、トウモロコシなどに由来するポリ乳酸石灰石でつくる新素材「生分解性LIMEX」だ。石灰石の比率を5割以上にしてつくる。製造方法は従来のライメックスと大きくは変わらないという。
生分解性ライメックスは仮に不法投棄されても、微生物や水などで分解される。逆に分解されやすいため、長期間使うものには向いていない。このため、使い捨ての皿やカップのふたなどでの利用を見込んでいる。話題のストローへの活用も検討する。
従来のライメックスもプラスチック製品や紙製品などの代替素材として展開していく考えで、両素材を使い分けながら販売を拡大する。
今後の需要拡大を見込んで増産にも動く。現在の宮城県の工場の生産能力は年6000トン。20年までに同県内に3万トンの生産能力を持つ第2工場を設ける計画も進めている。
環境意識の高まりを背景に、プラスチック代替素材の需要は世界的に拡大する。TBMはライメックスの世界展開も視野に入れており、今年8月には伊藤忠商事と求人広告のディップから計約20億円を調達した。
両社はTBMと海外でのライメックスの販売でも連携する計画で、米国では20年までに現地工場を設ける方針。日本発の環境素材の実力を世界に問う。
(企業報道部 柴田奈々)