改正債権法これだけは 「時効」「保証人」どう変わる?

改正債権法これだけは 「時効」「保証人」どう変わる?

1896年(明治29年)といえば第1回近代オリンピックがギリシャアテネで開かれた年だ。日本ではこんな大昔に制定された法律がほぼ手つかずでいまも適用されている。民法のうち企業や消費者の契約ルールなど債権関係を規定した「債権法」と呼ばれる法律だ。企業活動や日々の暮らしにも影響するが、時代遅れのルールも多いため、大幅な改正が決まり、2020年4月に施行されることになった。日本経済新聞の法務面(月曜日付朝刊)で連載中の「2020 改正債権法」をもとに約120年ぶりの債権法改正のポイントを探る。(「120年ぶりの見直し」の記事へ
消滅時効は原則5年に
お金を返してもらうなどの権利(債権)を行使せずに一定の期間が経過すればその権利が消滅することを「消滅時効」という。現在の債権法では「権利を行使できる時から10年」と定めているが、改正後は「権利を行使できると知った時から5年」を追加、早いほうの経過で時効が完成するとした。契約で生じた債権では起算点は基本的に同じなので、後者が適用される。お金を貸している人は注意が必要だ。
また現行法では飲食店のツケは1年、小売店などの売掛金は2年など業種別の短期間の時効制度もあるが、改正法ではこれもなくなり、消滅時効は原則5年で統一される。(「消滅時効、原則5年に」の記事へ
一方、義務を履行しない債務者から債権者を守るために時効の進行を遅らせる制度の用語や定義も見直される。現行法では「時効の中断」などとしているが、改正法では「完成猶予」「更新」とすることになった。(「消滅時効の阻止、再定義」の記事へ
■法定利率に変動制
一般的にお金の貸し借りではあらかじめ金利を決めるが、決めておかなかったケースや紛争解決時の遅延損害金などに適用されるのが「法定利率」だ。現在は年5%に固定しているが、日銀の超低金利政策で市中金利がゼロに近いなかで、高すぎるという見方が多い。改正後は変動制に切り替える。改正後はまず年3%で始めて、3年ごとに市中金利にあわせて1%刻みで水準を見直すことになった。(「法定利率に変動制」の記事へ
■包括根保証は無効
借金の返済や代金の支払いなどの義務を負う者(主債務者)が弁済しない場合に、代わって履行する義務のことを「保証」という。保証契約時に将来発生する債務が特定されないケースを「根保証(ねほしょう)」と呼ぶ。子どもがアパートを借りる際に親が賃料を保証するケースなどが該当する。改正後は負担の上限額を定めない形での根保証(包括根保証)は無効となる。

法務インサイド

ビジネスに関係する法律やルールの最新動向、法曹界の話題などを専門記者が掘り下げます。原則隔週水曜日掲載。紙面連動記事も随時掲載します。
実は貸金については、04年の民法改正で上限を設けない包括根保証は禁止済み。当時、商工ローンの強引な取り立てが社会問題化したのに対応した。今回の改正で包括根保証は全面的に禁止されることになる。(「根保証を見直し」の記事へ
今回の改正では、企業の事業資金の借り入れについて経営者以外が保証人になる場合、公証人が意思を確認する手続きも導入された。企業の実態を理解せずに保証人になり、多額の負担をかぶる悲劇を防ぐためだ。(「保証人の意思確認新設」の記事へ
今回の改正では保証人の保護が進んだといえるが、保証人になれば債務を背負うリスクがあるのは変わらない。安易に保証人になるのはやめたほうがいい。
■ネット取引の利用規約にルール
改正債権法の目玉の一つが、約款(やっかん)に関する規定が整備されたことだ。約款とは大量の同種取引を迅速・効率的に行うための定型的な内容の取引条項を指す。鉄道やバスの運送約款、保険契約の約款などが該当する。インターネット取引の利用規約も約款だ。
約120年前にはネット取引の普及などは想像すらできず、約款の規定は債権法にはなかった。改正にあたって、運送約款やネットの利用規約などを「定型約款」と規定。どういう場合に有効で変更できるかなどを明文化した。(「定型約款、規定を新設」の記事へ
例えば企業が約款を契約内容とする旨をあらかじめ相手方に「表示」すれば契約が成立したとみなされることや、契約の相手方の一般的な利益になる場合なら契約後に定型約款の内容を変更できることを明示した。(「定型約款、要件を明示」の記事へ
ほかにも企業が持つ売掛債権などを譲渡しやすくして、中小企業が早期に資金回収できるようにした。(「制限付きでも譲渡有効」の記事へ)さらに引き渡した商品が契約の内容に適合していない場合に、買い手を助けるルールも明確化した。(「瑕疵を契約不適合に」の記事へ)企業も消費者も、施行まで1年半を切った大改正への目配りが欠かせない。