遺族の手続き一括で 自治体が専用窓口、負担軽く

遺族の手続き一括で 自治体が専用窓口、負担軽く

家族を亡くした際の様々な行政手続きを、ワンストップでできる自治体の窓口「ご遺族支援コーナー」が広がり始めた。遺族が複数の部署を回る手間を省き、提出書類も簡略に。年間130万人が亡くなる多死社会を迎えるなか、高齢の夫や妻、老親と離れて暮らしていた子供などの負担を軽くする取り組みだ。
10月1日に開設された大和市役所の「ご遺族支援コーナー」を訪れる男性(10月11日)
10月1日に開設された大和市役所の「ご遺族支援コーナー」を訪れる男性(10月11日)
神奈川県大和市役所の1階に10月、「ご遺族支援コーナー」が開設された。2つのブースには「ご遺族支援コンシェルジュ(よろず相談係)」を務める市職員が常駐し、遺族に対応する。
電話で予約をすると、職員が市のデータベースで故人が加入していた保険、受け取っていた手当などを確認。手続きが必要な部署に一斉連絡し、窓口に出す書類に名前や生年月日、住所などが自動的に印字される仕組みを作った。
介護保険証や障害者手帳の返納、世帯主変更届の提出――。家族が亡くなると遺族は多くて10カ所ほどの窓口を訪れ、15種類前後の書類を提出する必要に迫られる。だが同市役所ではコンシェルジュ役の職員が付き添って各課を回り、遺族は窓口で書類の一部に書き込む程度で済む。
これまでは遺族が自ら関連部署を探し、各窓口の担当者に説明して名前や住所を何度も記入する必要があった。階段の上り下りや別館への移動に加えて待ち時間も長く、回り終えるのに半日ほどかかった。高齢の遺族から「必要な手続きが分からない」「窓口を探すのに一苦労」などの声が寄せられ、職員の手間も多かったという。
10月中旬、同コーナーを利用した男性会社員(63)は9月末に同居していた父親(86)を亡くした。気持ちの整理がつかないまま葬儀に追われ、「行政手続きを考えると不安でパニックになっていた」。この日は全ての手続きを1時間ほどで完了。「窓口の場所が分かるか不安だったが、職員が一緒で安心した」と話し、帰宅した。
市の担当者は「家族を亡くした直後は精神的にも大変なので、寄り添って不安を和らげたい。窓口の負担軽減にもなる」と話す。
こうした窓口のモデルとなっているのが2016年5月に大分県別府市が開設した「おくやみコーナー」。市長の意向を受け、行政手続きをワンストップ化する方針を15年に掲げた。職員がプロジェクトチームを組んで議論した結果、関係する課が13と最も多く、手続きの煩雑さに苦情が出ていた死亡手続きを最優先で改革することにした。
利用者は順調に増え、17年度だけで約1500人が利用。これまでに約80の自治体から視察や問い合わせを受けた。大和市のほか、三重県松阪市も17年11月に「おくやみコーナー」を設けるなど、各地に広がり始めた。
厚生労働省によると、17年の死者数は全国で130万人に上り、高齢化は今後一段と進む見込み。一人暮らしの高齢者が増え、離れて暮らしていた家族が、故人が生前受けていたサービスを知らないケースも増えている。同居者がいても高齢の配偶者で、煩雑な行政手続きに対応しきれない事例が目立つ。
高齢社会に詳しい第一生命経済研究所の小谷みどり主席研究員は「多死社会を迎え、行政サービスの見直しが始まっている」と指摘。「高齢の遺族の負担を減らす制度は自治体だけでなく、国や民間の金融機関も考えていくべきだ」と話している。