こんな幹部社員がいるから「炎上プロジェクト」は生まれる

こんな幹部社員がいるから「炎上プロジェクト」は生まれる

馬鹿なことばかりやる、頭のいい人たちが集まっているはずの組織論

2018/12/20

 本稿前編では「なんで炎上するプロジェクトは上手くいかなかったのか」と「炎上後に何を考えるべきか」というメソッドを併せてお伝えしたわけなんですが、なんでこんな話があるあるとご共感を戴くかというと、意外と普遍的に「上手くいかないこと」って共通しているからなんです。
 みんな、だいたい似たようなことでつまずいたり、悩んだりしているんですよね。
 そしてまあ、かくいう私も「なんか人生上手くいかんなあ」と嘆くことも少なくないわけですけど、ここで上手くいかないことを適切に反省できておるのか? というのは重要なチェックポイントなわけですよ。実は、上手くいったことを続けていってより成功するというよりは、上手くいかなかったことを反省して同じ失敗をなるだけ繰り返さないことが大事だ!! ということになるわけであります。
©︎iStock.com

丸投げ幹部の皆さんの問題

 偉い人の思いつきに振り回される系のトラブルに続く項目は、やはりミドル層からアッパーミドル層の幹部社員の皆さんの問題です。
B 「なぜこんな仕様になった?」となりがちな丸投げ幹部の問題
 部下に言うことを聞かせて統制しようというトップと幹部社員は、まさに煮える鍋とその蓋という関係にあります。煮られる現場は堪ったモノではありませんが、実際そういうことばっかりなので、コンサルとして現場を拝見するとオリエンテーション開始10秒ぐらいで「あー、まーたそういう話か」と思ったりするわけであります。
 一番多いのは、営業系の幹部の方に多い「ノルマだけブレイクダウンしてくる上司」とか「ちゃんとイメージが共有できないので何を目指して指示しているかさっぱり分からなくなる上司」であります。偉い人が経営会議で来期は売上20%増だと言えば、各エリアに20%ぶん来年の売上増を分配するだけのノルマ使者みたいなのが上司にいると大変です。
©︎iStock.com
 そもそも「どうやって売上を20%引き上げるのか」という構想なり新サービスなり増員なくして、いまの手持ちの人員と武器装備だけで「売上を20%増やしてこい」というだけのミドルが多いのが問題なのです。
 そして、炎上しているプロジェクトの資料とかよく読むと、目標が「来期20%の売上増を目指す」とか書いてあります。まだ完成してないプロジェクトに売上ノルマ負わせてるんじゃねえよ。お前は未来から来たのか。しかし、多くの会社では、日本の会社か外資かは問わず売上を増やすための予算は簡単には捻出できないようになっています。なので仕方なく、新規プロジェクトを作りそのプロジェクト予算が増えることでようやく人員や予算がキープされるという本末転倒な事態となります。

誰も完成形をイメージできない

 本来が売上を増やすためのアリバイのようなプロジェクトだったり、逆に収益には直接貢献しない社内のシステム開発などの場合、何を作るのかはっきりしないまま「きっと将来このぐらい売上に貢献するはずだ」「このぐらいコストカットに役立つはずだ」という漠然とした雰囲気でプロジェクトスタートしてしまうことも多く、結果として執行役員などの経営幹部は数字だけ“管理”して中身を部下に丸投げしてしまいます。部下は部下で、明日会議だからと前日徹夜残業して適当に会議用資料をまとめただけの掘り下げで説明することになりますので、誰も完成形をイメージできないままプロジェクトが立ち上がってしまうのです。
 本来であれば、会社全体の方針にそって「こういうシステムが必要だ」という目的がなければなりません。でも実際には「同業他社がオンラインでのサービスを拡充しているから、うちもやらなければならない」というクソどうでもいい理由でプロジェクトが立ち上がり、しばらく経ってから執行役員などから「おいこれオンラインにしたはいいけどどうやって儲けるんだ?」という素朴な質問が飛び交う修羅に陥ります。突然の質問に呆然とする現場。「やれ」ってお前が言ったんだよ。
©︎iStock.com
 つい先日も、グループ会社全体で複数のサービスが並行して走っていては非効率極まりないので、せめてお客さまのIDとパスワードぐらいは統合しようという謎のプロジェクトが炎上したというので呼ばれて行ってみたら、統合後のIDとパスワードと各々のIDとパスワードを最低2つ以上お客さまに入力させなければログインできないとかいうピラミッドの秘密の扉みたいな仕組みが堂々と稼働していて鼻水が出ました。馬鹿なのかな。これ、見て誰も「おかしい」とか言わなかったんでしょうか。

数字だけではなく、仕事の流れを良くすること

 また、店舗系でもすでに走っている取引先の台帳サービスと全く同じ台帳サービスを自前で始めようとして、まったく同じ機能の台帳サービスに同じ予約情報を複数入力しなくてはならなくなるという苦行のような仕組みを投入していて現場が大火災を起こしていました。どっちかやめるとかしろよ。それもこれも、自前で始めれば台帳サービスの利用料を総取りできて売上が増えるに違いないと馬鹿なことを考えた経営幹部が現場に相談せずに決めた案件なのだろうと思うわけであります。
©︎iStock.com
 つまり、プロジェクトというのは単に数字を目指すのではなく、現場の仕事の流れを良くし、稼ぐための仕組みがどれだけしっかり効率的に回せるようになるかを考えて進める必要がある以上、現場のことが分からずに数字や人員だけ管理していることで仕事をしているフリをしている経営幹部は一番大事なところを丸投げしてしまっていることになるわけです。

「外部」を頼るときに発生する問題

C 外注は取り換えの利くパーツではないのだぞ
 結果として、うまくいかないと外部を頼ることになります。
 まあ、綺麗な組織、でかい看板、立派な偉い人が高額のギャラをふんだくって思いつきのようなプロジェクトで炎上した後をどうにかするのは、結局は海千山千で経験豊富な私らのようなコンサルタントがプロジェクトの仕切り直しをして敗戦処理専門で馬力の利く開発会社の組み合わせが起用されることが多いわけなんですが、単純な話、ドキュメントの見直しから仕様の仕切り直しまで、炎上しているプロジェクト参画者の皆さんが4カ月、5カ月かけて右往左往しているモノでも、消火活動慣れしてしまうと2週間ぐらいでだいたい整理がつきます。
 変な言い方ですが、人間真面目に考えてきちんとヒヤリングして整理整頓していけば、およそ10営業日以上かけて収拾がつかないものなどないのです。逆に、次の会議まで1週間だ、経営者の予定が取れるのが来月だとかいう会社だと、その間ずーーーっとアイドリング状態になるわけですから、レビューもできず仕様の仕切り直しもできないで待つことになるわけであります。
©︎iStock.com

「値切り」にかかる経営者が後を絶たない

人工知能」やら「サイバーセキュリティ」などビッグワードに憧れて、自社にあるデータを使えばきっとすごい需要予測ができて、商品開発に生かせるに違いないと思い込んだ経営者を説得して「お前の時代遅れな感覚が誇大妄想のような新技術で夢のように社内が効率化してヒット商品連発すると信じ込むからM資金に引っかかって週刊誌ネタにされるんだ」と理解させなければなりません。
 また、経営者によっては、外注やフリーランスを「使ってやっているんだ」という態度を崩さずに平気でパワハラしたり、契約書で決められた金額を途中で勝手に減額してきたりして、貰ったいちゃもんメールがそのまま弁護士経由で公正取引委員会行きになることもしばしばあります。困ったから頼んできたはずなのに、どうにかなったら値切りにかかる経営者が後を絶たないのはどういうことなのでしょうか。

プロジェクトとは、経営者の人格そのものだと思います

 先日も、なぜか「どうしても新たに建設したサポートセンターの開場式に同席してほしい」というので厳しい介護日程をやりくりして訪問してみたら、テープカット後にすべてのパソコンが立ち上がり華々しく営業開始セレモニーを行うはずが、全部の電源を入れた瞬間ブレーカーが落ちたらしく集まった来賓を照らす電気ごと落ちて真っ暗になるとかいう壮大な自爆ギャグを引き起こしていました。そこで想定外のハプニングだと笑って場を和ませれば器の大きさぐらいは示せるのに、部下呼びつけて叱り飛ばす経営者の醜態を見せられると「ああ。この人の下についていったら、不都合なことが起きるたびに叱責されて嫌な思いをするのだな」という未来予想図だけが突き付けられることになるのです。
 翻って、プロジェクトというのは会社の社風、ひいては経営者の人格そのものだと思います。スピード命でタイミングよく事業展開を進めたいと考える経営者が、何を犠牲にして前に進もうとするのかがハッキリ分かるのが新規プロジェクトなのです。先進性を謳うはずの経営者が型落ちのパソコンに古いOSを入れて技術者をこき使っていたり、曖昧な指示を出して思ったような成果が上がらないと部下の責任にしたりする事例が後を絶たないのは、万能ではない人間が不得手なことをどのように他人に任せるのかという非常に根本的なところにみなウィークポイントを抱えているからに外なりません。
©︎iStock.com

「自分は無知である」という謙虚さを欠くから起こる炎上

 そして、頭のいいはずの人たちの組織が、往々にして頭の悪い決定を下すのも、知らないこと、分からないことに対して「自分は無知である」という謙虚さを欠くからなのだろうと思うのですよ。大胆に意志決定を行うことがカッコいいと思い込んだり、ピカピカの経歴の持ち主の営業トークに乗せられてデカいことをやってしまうのは、単なる頭の良し悪しではなく迂闊さ、隙を示していると思います。経営者はイエスマンに囲まれがちで、太鼓持ち茶坊主選手権をしている状況で合理的な判断を下すためには、やはりアンテナを高くし、平常心で物事を見ていくしかないのではないかと感じます。
 炎上プロジェクトというのは、不幸にして燃えてしまったというよりは、みんなどこかしら危ねぇ危ねぇと思っていて、あー、ヤベえこりゃ燃えるぞ、となって、結果としてやっぱり燃えました、あーあ、ということがとても多いのです。無謀な計画、はっきりしない仕様、誰が責任を取るのか決まっていない組織、飽きっぽい経営者……。いずれもその組織の特徴を表すということも含めて、皆様の年末がキャンプファイヤーによって慌ただしいこととならぬよう心よりお祈り申し上げております。
http://bunshun.ismcdn.jp/common/images/common/blank.gif