米FAMGAが描く 似て非なる自動車の未来
米FAMGAが描く 似て非なる自動車の未来
米国では次世代のクルマを巡るイノベーションの発信地が、すっかりデトロイトから西海岸に移った感がある。シリコンバレーでは新技術を武器とするスタートアップが続々と誕生している。一方で存在感が大きいのが米グーグルをはじめとする「テックジャイアント」だ。自社での開発に力を入れる一方、スタートアップへの出資や提携も相次ぐ。ただ、ひと口に次世代自動車といっても各社の注力分野は微妙に異なる。似て非なる自動車戦略の詳細をリポートする。
自動車業界は激変の時代を迎えている。「コネクテッド(つながる)」「オートノマス(自動運転)」「シェアリング(共同所有)」「エレクトリシティー(電動化)」の頭文字をとった「CASE」の進展により、従来のクルマにはない機能が必要となるからだ。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週1回掲載しています。
米テックジャイアントの「FAMGA(フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト、グーグル、アップル)」は、クルマをはじめとしたモビリティー分野の技術革新を推進するため、ソフトウエアや制御装置、バッテリー技術などの強みを生かそうと力を入れている。
さらに、「MaaS(モビリティー・アズ・ア・サービス)」や自動運転、電気自動車(EV)技術、クルマの販売を手掛けるスタートアップ企業への出資も進めている。下の図は未上場市場の取引のみを示している。緑の線は出資、オレンジの線は買収を表す。
アップル、マイクロソフト、アマゾンによる過去5年間の自動車・モビリティー関連スタートアップ企業への直接投資は比較的少ない。3社の取り組みの大半は研究開発プロジェクトや戦略的提携など社内で実施されているからだ。一方、米フェイスブックはこの分野の技術革新に取り組んでいない。
■グーグルは自動運転とシェアリングに注力
グーグルはすでに自動車業界で名声を確立している。自動運転技術の開発を手掛ける傘下の米Waymo(ウェイモ)は、自動運転の実用化を初めて果たした。
ウェイモは自動運転技術のリーダーとして広く認知されている。
最近は進展を疑問視する報道もあるが、ウェイモは走行距離や自動運転車の開発ではFAMGAのライバル各社を大きくリードしている。
ウェイモは10月、米国の公道での総走行距離が前人未到の1000万マイルに達したことを明らかにした。試験場ではなく公道で収集した運転データは、自動運転ソフトの開発や向上に特に有用だ。
ウェイモは、グーグルの親会社アルファベットが傘下に収める各社のテクノロジーを活用できる。特に注目すべきは、グーグルのオープンソースのソフトウエア基盤「テンサーフロー」と人工知能(AI)向け半導体「TPU(テンサー・プロセッシング・ユニット)」を活用し、ニューラルネットワークを訓練できる点だ。
ウェイモはソフトやセンサーを自前で開発しているため、外部サプライヤーへの依存は限定的だ。この自前主義のおかげで効率と統合性を高められると強調している。
さらに、自社技術をライドシェア以外の様々なサービスにも活用したいと考えている。アルファベットのルース・ポラット最高財務責任者(CFO)は2017年1~3月期の決算発表で、「ウェイモは壮大な問題に取り組む研究開発部門『X』から誕生した素晴らしい事例だ。我々はライドシェアや自家用車、物流、配達で自動運転を可能にする多くのオプションについて研究し、公共交通機関に対応するために各都市との提携も検討している」と述べた。
ウェイモは3月、アトランタのデータセンターに荷物を配送する半自動運転トラックの展開に乗り出す方針を明らかにした。
グーグルはここ数カ月、MaaS関連スタートアップ企業への出資にも力を入れている。7月には電動スクーターのシェアリングサービス、米ライムのシリーズCの資金調達ラウンド(調達額3億3500万ドル)に参加した。
グーグルは1月、インドネシアの配車サービス大手ゴジェックが実施したシリーズCの追加ラウンド(15億ドル)にも加わった。11月27日時点では、これはグーグルが参加した今年最大の資金調達ラウンドだ。配車サービスではウーバーテクノロジーズとリフトの米2強にも出資している。グーグルは無人タクシーの商用化を計画しているため、ライドシェア大手へのこうした出資が将来役に立つ可能性がある。
グーグル、ライドシェア分野に幅広く出資(ライドシェアのユニコーン<企業評価額が10億ドル以上のスタートアップ>の評価額と資金調達額)
■車載ソフト「アンドロイドオート」でプラットフォーマーの座を維持
コネクテッドカーの進展に伴い、ソフトはクルマの重要な要素になりつつある。
インフォテインメントに代表される自動車メーカー各社が開発したソフトは、スマートさに欠け、使い勝手も悪かった。
グーグルは車載ソフト「アンドロイドオート」をモバイル向け基本ソフト(OS)の「アンドロイド」と連携。これにより、アンドロイド端末の利用者は自分のクルマのインフォテインメント・センターで自分の端末の情報を閲覧できるようになり、メッセージを送信したり、音楽を流したりしやすくなった。
さらに最近では、音声AI「グーグルアシスタント」をアンドロイドオートに採用し、利用者が運転中に声で操作することも可能になった。
アンドロイドOSをクルマに連携させることで、グーグルは幅広いコネクテッド機器をカバーするプラットフォーマーの座を維持し、アップルやアマゾンの攻勢に対抗できるようになる。
■アップル、自動運転車の自前開発を断念して自動運転ソフトとバッテリー技術に転換
アップルのモビリティー分野での主な取り組みはプロジェクト「タイタン」だ。このプロジェクトは当初、自動運転車とEVを完全に自前で開発する目標を掲げていた。
ところが、リーダーが何人か交代した末、チームは自動運転ソフトの開発に専念することにした。その方が付加価値を加えやすく、数年以内に実用化する可能性も高まるからだ。
アップルは自動運転車の開発計画を公表していないが、最近の多くの提携や特許活動からは、なお取り組んでいることが分かる。
同社は現在、カリフォルニア州に自動運転の試験車両約70台を保有している。このほど、独フォルクスワーゲン(VW)のワゴン車をアップルの社員用の自動運転シャトルにすることでVWと提携した。アップルはソフトとバッテリーを供給する。
アップルはウェイモに後れをとっているが、自動車分野の取り組みを強化しているようだ。ウェイモの上級エンジニアだったジェイミ・ウェイド氏や、米立ち乗り電動二輪車のセグウェイに9年間勤務した経験を持つ米テスラの幹部ダグ・フィールド氏など、この分野の有名幹部を何人も引き抜いている。
さらに、アップルが最近取得した多くの特許は、同社が引き続き自動運転技術の研究開発に取り組んでいることを示唆している。
アップルは8月、クルマの次の動きを、周囲を走るクルマに知らせる外付けの「カウントダウンタイマー」関連の特許を取得した。
同社は他にも自動運転支援システムの開発を進めている。例えば、自動運転ソフトに音声や身ぶりで指示できるようにしようと検討している。これにより、同乗者も指示できるようになる。
アップルはiPhoneを車載システムと連携させる技術も開発している。同社の車載ソフト「カープレイ」はグーグルのアンドロイドオートに似たシステムで、運転手や同乗者はメッセージや地図、音楽に加え、音楽配信サービス「スポティファイ」などの外部アプリも使える。
アップルによるとカープレイは全ての大手自動車メーカーや、一部の後付けヘッドユニットやドングルにも対応している。
■アマゾン、無人配送と補修部品の販売に注力
アマゾンは自動車部門への参入で大きな利益を得るだろう。無人配送でコストを削減できる可能性があり、クルマの部品販売では商機を見込めるからだ。
アマゾンはコストと利便性を重視することで、ネット通販の覇権を握った。だが、これには犠牲も伴っている。同社の小売事業は利益が最も少ない部門だ。
最近の試算によると、自動運転車を導入すれば運転手の人件費が減るため、長距離配送コストを50%も削減できる。商品の輸送コストのほぼ3分の1を占める「ラストワンマイル」と呼ばれる最終配送先までの配送コストも大幅に減らせる。アマゾンは社内の研究開発や提携でラストワンマイルの無人配送に取り組んでいる。
この分野に関する特許には、無人の(移動式)受け取りロッカーやロボットによる配達などもある。
アマゾンはトヨタ自動車が発表したサービス専用EVのコンセプト車「e-Palette(イー・パレット)」にも参加している。イー・パレットは物流からライドシェア、モバイルオフィス、移動診療所に至るまで様々な機能をこなせる。トヨタは20年の東京五輪での実用化を目指している。
アマゾンは17年1月、クルマの補修部品の販売に参入する方針を明らかにした。クルマの耐用年数が延び、補修部品の需要が高まっているため、大きな商機が見込める。
同社は参入を発表して以降、米ペップ・ボーイズや米モンロ・マフラー・ブレーキなど自動車用品小売りと相次ぎ提携している。
さらに、自動車部品をネット通販で購入する場合のネックである「メーカーによって質やデザインが違う」という問題に対処するため、拡張現実(AR)技術の開発も進めている。
アマゾンが4月に取得した特許では、自動車の部品が自分のクルマと適合し、外観も好みに合うかをARで確認できるシステムについて説明している。
■クルマに音声
これまでは、車内の音声アシスタント機能はクルマの製造時点で組み込む必要があった。アマゾンは9月、グーグルのアンドロイドオートやアップルのカープレイとは違い、どんなスマホにも対応できる後付け式の音声コントロール端末「Echo Auto(エコー・オート)」を発表した。
マイクロソフトは主にコネクテッドカーや、自動車の様々な業務で使われるARを手掛けている。
クラウドコンピューティングやARなど最前線の技術では自動車メーカー各社の専門知識が乏しい状況を踏まえ、多くの企業と提携して自社の技術を展開している。
マイクロソフトは17年1月、アジュールを活用したコネクテッドカー向けプラットフォームの提供を開始した。これにより予防的な保守点検や車内での生産性向上、最先端のナビゲーションシステム、顧客データの収集、運転支援機能を備えられるようになる。
さらにここ数カ月は、VWとの戦略的提携を発表。アジュールとプラットフォーム「IoTエッジ」を活用するVWのコネクテッドカー向けプラットフォームを共同開発する。この技術は20年以降、年間500万台以上のVW車をつなぐという。
マイクロソフトは10月、東南アジアの配車大手グラブが実施したシリーズHの追加ラウンド(7億5000万ドル)に参加。グラブがアジュールを導入する戦略的提携も発表した。
同社は中国のネット検索最大手、百度(バイドゥ)が進める130社以上が参加する自動運転の開発連合「アポロ」に名を連ねている。アポロの自動運転ソフトを採用しようとしている中国以外の市場で、クラウドサービスを展開する。
■フェイスブック、自動車分野は二の次
フェイスブックは自動車分野では活動が目立って鈍い。
フェイスブック傘下のオキュラスが手掛けるVR端末は、自動車分野で活用される可能性がある。多くの自動車メーカーは販売代理店でVRを使い、バーチャル試乗や様々な機能のカスタマイズなどのサービスを顧客に提供している。
VRは設計や製造プロセスでも役立つ可能性がある。自動車メーカー各社は車に変更を加えるたびに試作車をつくるのではなく、クルマを可視化できるからだ。