若い億万長者の成功物語がつまらない理由

若い億万長者の成功物語がつまらない理由

Anne VanderMey
2018年7月11日 15:46 JST
  • 古い世代の企業経営者たちは苦境を生き残るために奮闘
  • 現代は無から何かを築くことがこれまでになく困難に
ウォーレン・バフェット氏の幼少期、大恐慌の最中で父親は家業の食料品店で雇ってもらえなかった。仕事がない上、銀行取り付け騒ぎの後で金もない中、一家はテーブルに食料を並べるために一族の店でつけを膨らませた。それでも母親のリーラさんは自分の食事を抜くこともあった。ストレスに苦しみ、子供の頃に吸い込んだライノタイプ鋳植機の煙で精神的に影響を受けたからか、リーラさんは子供2人をひどく叱りつけることも多々あった。
  一家はこのどん底状態から、より確実な財務基盤を徐々に築いていった。父は株式仲買業を始め、最終的には下院議員を4期務めた。若き日のウォーレンは数字に関する才能を見せ始め、あらゆることについて時間を計測。確率を計算することにとりつかれ、さらには聖書に最も頻繁に登場する文字を集計したりしたと「スノーボール ウォーレン・バフェット伝」には記されている。バフェット氏は15歳までには、新聞配達の仕事で稼ぐようになり、その後は周知の通りだ。
Photographer: Daniel Acker/Bloomberg
  伝説の投資家、バフェット氏(87)は今月6日、34歳のマーク・ザッカーバーグ氏に個人資産額で追い越された。フェイスブック株が年初来で15%上昇したことやバフェット氏による慈善事業への資金流出などが要因だ。世界の富豪番付で現在の上位3人であるジェフ・ベゾス氏とビル・ゲイツ氏、ザッカーバーグ氏はいずれも、テクノロジーで財を成した人物だ。
  バフェット氏や同年代の多くに比べて、ザッカーバーグ氏の生い立ちは平凡だった。歯科医と精神科医の息子として生まれたザッカーバーグ氏は、ニューヨーク郊外の中産階級が住む小さな町、ドブスフェリーで育った。幼い頃に父のコンピューターを使い始め、プログラミングの器用さを早くから発揮し、エリート進学校を卒業した。
Photographer: Drew Angerer/Getty Images
  ザッカーバーグ氏の物語は、ブルームバーグ・ビリオネア指数上位に入りたてのテクノロジー業界の億万長者の典型的な例だ。世界の富豪500人を追跡する同指数にランクインしたテクノロジー業界の資産家は64人と、(資産を相続した人を数に入れなければ)業種別で最多。今年だけでもテクノロジー業界は新たに11人のビリオネアを誕生させた。
  しかし、一代で財を成したこの新しい億万長者たちの土台となる物語には何かが欠けている。以前の世代の成長期の体験は新聞配達の仕事が軸で哀愁が漂うが、今の典型的な創業物語は、上流中産階級で子供時代を過ごしてコンピューターを早い時期から利用し、エリート教育を受けた話に関わる。ザッカーバーグ氏はハーバード大学を中退する前、若干12歳で父が営む歯科医院用にインスタントメッセージシステムを開発。ツイッターの共同創業者ジャック・ドーシー氏は15歳の時にプログラミングのインターンシップで上司を驚嘆させた。ウーバーの創業者のトラビス・カラニック氏は中学生でコードを書いていた。
ジャック・ドーシー氏
Photographer: David Paul Morris/Bloomberg
  腕一本で成功した男は、米国の創作の世界で常に大きな役割を果たしてきた。小説家ホレイショ・アルジャーは、下流の勇敢な努力家が正直さと勤勉さの力によって成功していく物語を書いた。ハリウッドは映画の発明以来、弱者をやみくもに崇拝してきた。そして長年にわたり、ビジネスの世界でも、実際にあった話が語られてきた。
  しかし、ハーバード大中退の今の億万長者の台頭(ドーシー氏の場合はニューヨーク大学、カラニック氏の場合はUCLA)は話を複雑にしている。現代の創業者たちは、才気に満ちあふれているが、苦労は足りない。結局のところ、コンピューターなしではコンピューターの天才になるのは困難だ。そうした多少の特権が米経済のより大きなトレンドを物語る。何百万人もの低所得層の人々にとって、ゼロから何かを築くことは一段と難しくなりつつあるということだ。ハーバード大を中退するためには、まず入学する必要がある。