万博の先へ創意結集、私の視点 運営組織発足

万博の先へ創意結集、私の視点 運営組織発足

2025年 万博 関西
2025年に大阪で開く国際博覧会(大阪・関西万博)の運営組織が30日に発足し、開催に向けた準備が本格的に始まった。会場の設計や財源の確保など目の前の課題に対応しつつ、万博後の関西の将来像を見据えた計画作りが求められる。イベントとしての成功の先に、豊かなレガシー(遺産)をどう残すか。05年愛知万博に携わった元官僚や、各地の万博に足を運んできた人らに「私の視点」を聞いた。
25年万博会場のイメージ=経済産業省提供
25年万博会場のイメージ=経済産業省提供
「世界の市民の共感探って」元通産省国際博覧会推進室長の松尾隆之さん(62)
2005年愛知万博通商産業省(現経済産業省)の国際博覧会推進室長として関わった。パビリオン出展など万博に参加する博覧会国際事務局(BIE)の加盟国は当時と比べ、アフリカ・中南米など発展途上国の層が厚い。25年万博では地球規模で市民が参加し、共感できる内容がこれまで以上に求められる。
大企業だけでなく中小企業、NPOも関わる新たな事業モデルを通じ、世界の課題解決への道を提示できれば理想的だ。
世界では途上国の低所得者層の需要を開拓し、貧困問題の解決につなげる「ベースオブピラミッド(BOP)ビジネス」が注目を集める。世界の課題に取り組むベンチャー企業などを政府が支援、参加につなげられれば新しい万博の形を示すことができる。
万博開催にはコストもかかるが、長い目で見れば利益が負担を上回る。愛知万博は産業集積や訪日客増加をもたらした。
25年万博も再生医療やデジタルというような新技術の発展、水素エネルギーの普及など、万博後の新しい産業基盤を育てる足がかりとなり得る。運営組織の「日本国際博覧会協会」は関西、日本全体の将来を切り開くイベントという側面を強調し民間企業の知恵と意欲を掘り起こしてほしい。
「とがった才能 飛躍の好機」デザイン制作会社「BYTHREE」代表の吉田貴紀さん(42)
2025年万博には世界各国の最新技術や文化が集まる。テーマに基づく各展示のメッセージをどのように伝えるかはアートディレクターらの腕の見せどころで、若い世代や無名の人材が飛躍する好機だ。若手が開催前から継続的に万博を盛り上げる仕掛け作りに関わる土壌ができれば、万博後の大阪を才能豊かなクリエーターや芸術家の集積地とする足がかりになると期待している。
誘致段階の18年10月に万博への提言をまとめたフリーペーパーを発行し、開催決定後は19年1月に過去の万博の企画に携わったアートディレクターからその経験を聞くイベントを開いた。
パビリオン展示やイベントの企画など万博を通じ、クリエーターの発想を生かせる機会は無数にある。博覧会協会や出展企業は若い才能を大いに起用してほしい。
開幕までにいかに機運を盛り上げるかも知恵の出しどころだ。その企画などに若手が関わることのできる機会が増えれば、これまで以上に企画やデザインのプロが大阪に根付き、育つことにつながるだろう。
万博後に知恵や人材が集まった大阪から世界の注目を集めるような、さらに新しいアートを発信していきたい。
「全国巻き込む必要性」世界中の万博に足運ぶ 二神敦さん(46)
阪神高速道路の社員として働きながら、2010年の上海万博、15年のミラノ万博など10カ所以上の万博をこれまでに訪れてきた。開催国をはじめ、多様な文化を感じられることが万博の最大の醍醐味だ。
「食」をテーマに開かれた15年ミラノ万博を訪れた際、会場にはイタリア全土からご当地のワインが集められ、その土地ごとの食文化を味わえた。開催地ミラノだけにとどまらず、イタリア全体の魅力を感じられた。
25年の万博は開催地である大阪や関西をやや前面に出し過ぎていると感じる。日本各地には様々な食や祭りもある。多様性を発信することが、より厚みのある日本の姿を海外の人に伝えることになる。
万博後の海外からの観光客の訪問、世界とのビジネスを見据えても有意義なイベントになり得る。多くの地域の人に参加してもらうことこそが、万博による効果の全国の幅広い地域への浸透に結びつくと思う。
万博に向けたムードはまだまだ関西と他地域に温度差を感じる。20年東京五輪の関連イベントが全国で行われている状況とは対照的だ。万博でも関西以外の地域の人を巻き込む工夫を続ける必要がある。