空中に画像浮かべるミラー 量産化で価格下げ普及へ

空中に画像浮かべるミラー 量産化で価格下げ普及へ
京都のパリティ 「空中タッチディスプレー」用途拡大

2019/2/15 6:00 日本経済新聞 電子版
スタートアップのパリティイノベーションズ(京都府精華町)は空中に画像を浮かび上がらせる特殊なミラーを量産化する。ゴーグルなどの道具は不要。人の指の動きを捉えるカメラと組み合わせると、空中に浮かべたスイッチの画像で医療機器や家電を操作することが可能になる。ゲームなどエンターテインメント分野への採用も見込む。
2~3月に15センチメートル角のプレート状の「パリティミラー」のサンプル出荷を始める。樹脂(プラスチック)製の板の表面に微細なブロック状の鏡を数十万個配した構造で、パリティミラーの下に液晶を差し込むと、液晶の画像や映像が空中に浮かび上がる。無数のブロック状の鏡が画像を反射し、光を空中の一点に集めることで結像させる仕組みだ。
価格は15センチメートル角で1枚2万円と、従来の半額以下にできるメドがついたため量産化する。従来の試作品は10センチメートル角で4万8千円だった。空中に鮮明な画像を浮かべるには、ブロック状の鏡のサイズを誤差1千分の1ミリメートル程度にする必要があり、量産化が難しかった。安定して高い精度を出せる金型と成型技術を確立し、量産を可能にした。2年後には量産効果で1枚2200円へのさらなる大幅な価格引き下げを目指す。
空中に画像を浮かべる技術を巡ってはパナソニックシャープなどの大手も開発しているが、普及には至っていない。調査会社の富士経済は、空中ディスプレーを作り出す機能を持つ装置の世界市場は2017年で356台にとどまると試算する。パリティ社によると、空中に画像を浮かべる装置の主要デバイスとなる光学素子などの製造コストの高さや用途開拓が進んでいないことが普及への課題になっているという。
「(主要デバイスの素材は)他社が一般的にガラス製なのに対し、当社は樹脂製」(パリティ社)。材料コストは安いが加工が難しい樹脂を精巧に成型する技術力を強みに、いち早い量産化で市場ニーズを取り込む。パリティ社のような技術革新が進むことで、富士経済は25年に世界市場の規模が4万6543台に拡大すると予測する。
人の指の動きを捉えるカメラと組み合わせると、空中タッチディスプレーとして利用できる。手術中にボタンに触れずに操作できる衛生的な医療機器の開発につながるほか、料理中に手が汚れても洗う必要なく操作できる電子レンジなどの家電を商品化できる。カーナビ画面を運転者が見やすいハンドルの奥に浮かべることも可能で、自動車業界からの問い合わせがある。綿毛タンポポの画像に触れると綿毛が飛ぶようにプログラミングすることもでき、ゲームへの利用も見込む。
パリティ社は情報通信分野を中心に先端技術を広く研究する国立研究開発法人の情報通信研究機構NICT)出身の前川聡氏が10年に設立。同機構の研究者時代に開発した結像技術を実用化するために起業した。16年度下期に大阪市のスタートアップ企業育成プログラムに採択された。18年8月期の売上高は約1000万円。光学素子の拡販で2~3年後に売上高20億円を目指す。(黒田弁慶)