230億円稼いだ投資家に人生で大切なことを教わった

230億円稼いだ投資家に人生で大切なことを教わった

3/1(金) 16:00配信

アスキー

「一人の力で日経平均を動かせる男」として注目を集める投資家に話を聞いた。

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「230億円稼いだ男」cisさんの話を熱心に聞く人たち
 
 2月17日、東京・八重洲ブックセンターで『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』出版記念トークイベントが開催されました。著者のcisさんは投資クラスタで注目を集める名うてのトレーダー。トークでは株式投資を中心とした資産運用で230億円を稼いだcisさんが普段どんなことを考えながら取引しているか紹介し、会場に集まった人々は熱心にメモをとり、質問をしていました。
 
 そろそろ確定申告の時期ということもあり会場の外でcisさんに税金について聞いてみたところ、「そういえば去年税務署に入られましたよ」という話をさらりと教えてくれました。「まさか脱税が見つかったのか!?」と思いましたが、話は逆。税務調査の結果、本来なら経費にできたはずの不動産が申告されていなかったことがわかり、「税金が払い戻される」という説明を受けたそうです。
 
 その際、税金をとりすぎたことについて5%弱の還付加算金が税務署から振り込まれたのですが「それも所得なので申告してくださいね」と言われ「自分たちでやってほしい。どれだけやりとりするんだ……」と思わされたとか。
 
●税制度シンプルにして
 そもそもcisさんは節税をしていないそうです。理由を聞いて納得でした。
 
 「たとえば会社を作って経費を入れるとか合法的であろう行為で5億円を節税できたとしても、日本はだいたい2~3億円の脱税から一発懲役になるじゃないですか。ぼく自身は犯罪性があることをやらないのに納税関係だけは犯罪者になってしまうリスクが大きいので、むしろ払うようにしています」
 
 さらに現在の税制度について聞いてみると「自分のような投資家には不利になるが、もっとシンプルな形態にするべきだ」という面白い持論が聞けました。
 
 「税金はわかりやすくシンプルに公明正大にとるべきだと思っています。投資の税金ってすごく複雑な形態。株式の分離課税が20%、それと合算できない先物、海外の投資、不動産、雑所得とかいろいろあって、税率も55%くらいから、ものによっては無税だったりする。そうじゃなくて1つの形態、その人の所得をすべて合算して課税する総合課税がいいんじゃないかと。今は抜け道が多すぎて、抜け道をぎりぎりまで攻めると逮捕される、いびつな構造になっていますよね。コストをかけてケイマン諸島に会社を持てば税率がめちゃめちゃ安くなるみたいな。だから、日本居住の人はみんな累進の総合課税みたいな形がいいと思っています。ぼくにとっては不利になるんですけど」
 
 自分には不利益になっても公益を優先させたほうがいいという考えはcisさんの性格をよくあらわしているように思いました。相場において決してずるいことを考えず、つねに真剣勝負をしてきたトレーダーとしての性格です。
 
 税金の話は終わりにしてトークの内容を紹介しましょう。直近の大きな取引の裏話からはじまったお話はcisさんがどんなスタンスで投資をしているかがよくわかるおもしろい内容でした。
 
●値動き順張り 材料逆張り
 値動きを想像して「これは値上がりしそうだ」と思ったときに買い、本格的に値下がりする前に売る。これがcisさんの投資の基本です。
 
 最近の話題でいくと、ソフトバンク子会社上場時に親会社の株を買ったのは子会社の株価が多少ふるわなくても資金調達には影響がないと思ったから。バイオ銘柄サンバイオを買ったのは治験失敗の発表により個人投資家が信用買いを投げる割合が上がり、株価が大きく値下がりしそうだと思ったからです。
 
 どちらも企業の動向がどうかではなく、企業の動向によって相場がどう動くかについてロジックを組み立てて買いつけするのがcisさんの特徴です。会社の業績や製品を研究して投資先を決めるような方法とはほとんど無縁の取引。cisさんは「値動きに順張り、材料に逆張り」という表現を使っていました。
 
 これについて企業研究を徹底していた投資家ウォーレン・バフェットとは真逆のやり方と指摘されましたが、cisさんはやや違った考えをしていました。
 
 「彼は投資で得た利益をもとに投資会社をつくり、持ち株の時価総額で大きな資産をもっている、個人投資家というよりスーパービジネスマンです。まねしたくてもできません。時間と時代と頭のよさはもちろんコミュニケーション能力と体力も必要。孫(正義)さんみたいなものです。孫さんよりすごいけど」
 
 なお『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』によれば、値動きに対する考え方は「上がり続けるものは上がり、下がり続けるものは下がる」。投資で大事なのは損を減らす損切りの判断だといいます。投資をしていて失敗するのは当たり前、失敗をいかに最小限にとどめるかが大事だとしていました。
 
 ではcisさんは具体的にはどんなときにどんなものを買っているのでしょう。また投資の初心者はどんなものを買ったらいいと考えているのでしょうか。
 
●株式現物は一番やさしい
 cisさんが得意なのは株式現物。指数先物金利アービトラージや海外指数との連動性なども織り込まれ、アルゴリズム取引の影響もあり、予想が非常に難しいそうです。cisさん基準の難度は「指数先物>為替>株式現物」とのこと。
 
 好みの投資タイミングは、日銀による上場投資信託ETF)配当金の再投資や海外指数先物への組み入れなど「盲目の資金」とcisさんが呼ぶ巨大資本が投入されるとき。またはトランプショックや有事など政治的なニュースを受け、企業価値と無関係に株価が下がっているとき。さらに大企業の子会社がちょっとした問題を起こして親会社の株価が下がっているときなどが好みだといいます。
 
 投資中に見ている銘柄は30銘柄ごとグループ10個。「金融不動産系30銘柄」など影響しやすい銘柄同士を30銘柄ずつ登録してぽちぽちと見ているということ。時価総額上位500銘柄の約7割をカバーしているということでした。
 
 逆に投資で一番よくないのは、信託報酬のある投資信託などの商品を長く持ち続けることだといいます。信託報酬が3%としたら1万円の所得は9700円に減り、買付手数料や売却手数料もかかります。初心者へのアドバイスは「自分が納得する企業の株式現物を手数料が安い証券会社で買いましょう」というものでした。
 
 しかし言うは易しで、実際に同じことをしてもcisさんのように230億円も稼げない人がほとんどではないかと思います。cisさんは何がすごいのでしょう。
 
●勝負にこだわったら負け
 cisさんのすごさの1つは、一つひとつの勝負に入れ込むことなくトータルの利益を優先できるところにあります。コンピューターのように冷静な判断ですが、その感覚はパチスロや麻雀やポーカーなどギャンブルやゲームを通じて培われたところもあるのではないかとcisさんは振り返ります。
 
 「今となっては投資は守備寄りですが、麻雀やポーカーではリスクに対してニュートラル。期待値の最大化をつねに模索しています。不完全情報ゲームで確率に身をゆだねたものをやりすぎていたので、ブレに対して精神的に鈍感になっているところがあるかなと。勝っても勝っても高揚しない、負けても負けても高揚(落胆)しない。それは投資の世界では強いのかもしれないです」
 
 この話は『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』でも書かれています。子どものころcisさんはファミコンやカードゲームなども好きでしたが、ゲームは勝つことではなく「勝てる確率が高い勝負をすること」を重視していたそうです。そのため勝率7割のゲームで負けたとしても悔しさはほとんどなかったそうです。これがいわゆる天性かと感じるところがありました。
 
 ちなみにcisさんはPCやスマホのゲームなども好き。相場に必要な「いろんなことを瞬時に判断できる力」と「目を疲れさせずに画面を見る力」がきたえられたそうです。ちょっと笑ってしまいましたが、相場はすばやい処理と応答が求められるスポーツのようなものだと考えるととても大事なフィジカル要素なのかもしれないと感じました。
 
 「目が疲れると頭が痛くなって思考力も落ちるし、健康にもよくない。疲れずに見る力というのは現代においてある程度重要だと思います。格ゲーのウメハラくんと話したときも『今は疲れないです』と言っていましたね」
 
 最後に、もう1つcisさんがすごいところは、230億円という大金を稼いでも淡々としていて謙虚なところです。「いくら勝っても高揚しない」という性格から来るものかもしれませんが、これが最大の強みかもしれません。
 
●大切なのは好奇心を持ち続けること
 cisさんが会場の外で記者たちに語った話では、自分は相場とゲーム以外は本当にダメなので、どんな人に対しても敬意を払えるのかもしれないということでした。
 
 通信環境が発達し、個人でも大金を稼げるようになった時代がたまたま自分に向いていただけで、「同じ頭をもっていても生まれるのが50年遅かったら稼げなかったのでは」「ぼくとか、よくてギャンブルくずれみたいな感じなので」などと自虐的といえるほど謙虚なことを言っていたのがとても印象的でした。
 
 「みんなが儲けようとしてやっているところで勝つということは、運か時代か実力がないとダメ。実力なんて言ったって、若くて優秀な人はどんどん流入してくる。ぼくだって実力があるなんてもう思ってないです」(cisさん)
 
 時代といえば、相場の世界ではAIを使った自動取引が増えています。今はまだAIを使っている人間がリスクをとれる範囲に限界があるという弱みがありますが、今後の進化は未知数です。「コンピューターが発達して時代も移り変わる中、勝ち続けられるとは思っていません」とcisさんは言います。自分でAIを使った投資をするかとたずねると「得意分野じゃないのでやらない」と答えていました。
 
 たとえば将棋の世界ではAIの見つけた定石やセオリーを勝負に取り入れて勝つ新世代の棋士が登場しています。おなじことが相場の世界で起きたとしたら、cisさんは今までのようなやり方では勝てなくなるのかもしれません。そのときには潔く勝負から退くと判断できるのがcisさんのすごいところだと感じます。
 
 そんなcisさんは、人よりすぐれているのはどこかと聞かれて「継続性があったことと、知的好奇心がつきなかったから」と答えていました。つきせぬ好奇心があったからこそ労を惜しまず投資を続けてこられたというわけです。
 
 投資をしていても、10億円稼いだ、大きく負けた、事業をはじめたなど、やめるきっかけはいくらでもあります。そんな中、いつまでも相場に対して好奇心を持ち続け、勝っても負けても休まずたゆまず毎日勝負を続けたことで、結果的に高みに登ってきたのがcisさんです。そのエピソードには、投資だけでなく、人が生きていく上で根幹になる大事なことがつまっているような気がしました。
 
 一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学cis(著)KADOKAWA
 
文● 盛田 諒(Ryo Morita)