ドローンの脅威に対抗、米兵器メーカーが開発本腰

ドローンの脅威に対抗、米兵器メーカーが開発本腰

空港や戦場での脅威の高まりが背景、防衛市場の新たな収入源に

ボーイングのシステムで撃ち落とされた個人向けドローン。アラブ首長国連邦(UAE)アブダビで最近開かれた武器見本市で展示されたもの
ボーイングのシステムで撃ち落とされた個人向けドローン。アラブ首長国連邦UAEアブダビで最近開かれた武器見本市で展示されたもの Photo: Robert Wall/The Wall Street Journal
 空港や戦場で高まるドローン(無人機)の脅威に対抗するため、武器メーカー各社は新型のミサイルシステムやレーダー妨害装置、レーザー砲の開発を急いでいる。
 米軍や中東の米同盟軍、ロシア軍は敵対勢力からのドローン攻撃にさらされている。またニューヨークやロンドン、ドバイといった世界有数のハブ空港の一部では、付近を飛ぶドローンが危険を及ぼしかねないとして、民間航空機の離陸が中止される事態がここ数カ月に相次いでいる。
 こうした事件の増加はドローンの脅威に対する世間の注目を高め、ドローン対策テクノロジーへの関心を促している。防衛業界関係者によると、支出のほとんどを依然、軍隊が占めている。
 調査会社フロスト・アンド・サリバンの推計によると、ドローン対策市場は2020年には年間売上高が12億ドル(約1340億円)を超え、21年には15億ドルを突破する見通しだ。これは戦闘機関連の年間支出のごく一部を占めるにすぎないが、ドローン対策部門は急成長しており、武器市場の新しい潤沢な収入源になる可能性を秘めている。
 スウェーデンの航空・防衛大手サーブのヘーカン・ブスケ最高経営責任者(CEO)は、ドローンは「実に大きな問題になりつつある」と指摘。ドローン対策機器が「多くの国々や世界中の当局者との間で協議の的になっている」と述べた。
 空港では基本的に無線とナビゲーションリンクの妨害でドローンに対処している。業界幹部によると、現在のところドローン対策テクノロジーに投資しているハイテクサプライヤーはほとんどいない。ただロンドンのガトウィック空港では軍用レベルのドローン対策機器を購入しているという。同空港では昨年12月、悪意のあるドローン使用が原因で3日間にわたり閉鎖に追い込まれた。この間、警察はドローンの狙撃許可を受けていたが、その機会は訪れなかった。
 一方、軍隊は通常、付近の航空機や民間人を心配する必要がないため、もっと自由に殺傷力のある武器でドローンを撃墜できる。そのため、メーカー間に新たなドローン対策テクノロジーの開発競争がもたらされている。ドローンを撃ち落とす機器を売り込んでいるのは、ドローンを販売する企業であることが多い。
昨年の米朝会談でも活躍
 軍事用のドローン対策システムは複雑さに応じてさまざまなものがある。これは、個人向けのドローンを改造したものから高度な軍事システムまでドローンの脅威が多様なためだ。

増えるドローンの軍事使用さまざまなサイズの軍用ドローンを運用する国が過去10年で急増しているSource: Center for the Study of the Drone注:1ポンド=約454グラム
カ国2009年2019年
330ポンド 未満 330~1300 ポンド 1300ポンド 以上 0 25 50 75 100 125 150
 売上高で米国防総省最大の武器メーカーである米ロッキード・マーチンは先月、独ディール・ディフェンスとスウェーデンのサーブと手を組み、ドローンや航空機、ミサイルを撃墜するシステムを販売すると発表した。ミサイルで大型ドローンを撃ち落としたり、レーダーで小型ドローンを探知したりできるシステムだという。
 ロッキードの航空・ミサイル防衛担当副社長スコット・アーノルド氏は最近アラブ首長国連邦UAEアブダビで開かれた武器見本市で、第1弾としてUAEに売り込む意向を明らかにした。
 民間用に開発されたドローン対策システムもある。
 シンガポールの政府系防衛機器メーカー、シンガポール・テクノロジーズ(ST)エンジニアリングの電子機器部門STエンジニアリング・エレクトロニクスは、ドローンの衛星利用測位システム(GPS)信号や操縦者との無線リンクを妨害できるレーダーガンを販売している。1.2マイル(約1.9キロ)圏内の無線周波を探知でき、550ヤード(約500メートル)離れたドローンをカメラで特定できるという。
ロンドン近郊のガトウィック空港の屋根に設置されたドローン対策機器(2018年12月)
ロンドン近郊のガトウィック空港の屋根に設置されたドローン対策機器(2018年12月) Photo: John Stillwell/PA Wire/Zuma Press
 同様のシステムは、昨年シンガポールで開かれたドナルド・トランプ米大統領北朝鮮金正恩キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長の会談の警備にも使用された。STエンジニアリングは輸出向けにも販売しているが、どのような顧客に売り込んでいるかは明かさなかった。
 米国をはじめ、もっと未来的なテクノロジーを既に試している国もある。

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 米航空機大手ボーイングは2015年にレーザーを使用して小型ドローンを撃ち落としており、以来、米陸軍にそのような機器を納入している。米陸軍ではこの機動高出力レーザー(MEHEL)をストライカー装甲車に搭載し、昨年の演習などで使用している。ボーイングによると、システムの出力は最大10キロワットで、溶接トーチのように数百ヤード以上離れた標的に熱を加えることができる。
 中国ではトラック搭載型レーザーが開発されている。国有の軍需企業、保利科技によると、同社の高性能レーザーは最大射程が4キロ。同社はレーザーが中国の軍隊に使用されているかや輸出されているかどうかについては明らかにしなかった。
 現在のところ、明確に抜きんでたテクノロジーはなく、争いは拮抗(きっこう)している。