日本で強まる米国への不安

日本で強まる米国への不安

中国の台頭や米国のプレゼンス後退、台湾・韓国の情勢を懸念

日米同盟の弱体化は米国が主導する世界の終わりを示す兆候となる
日米同盟の弱体化は米国が主導する世界の終わりを示す兆候となる Photo: KAZUHIRO NOGI/AFP/Getty Images

――筆者のロバート・カプラン氏はユーラシア・グループのグローバルマクロ担当マネジングディレクター。最新の著作は「The Return of Marco Polo’s World: War, Strategy, and American Interests in the Twenty-First Century」

***
 米国と中国は、今後何十年にもわたり世界の地政学を決定付けるかもしれない持久戦を始めた。それは、アジアの安定を支える日米同盟の重要性をかつてなく高めている。朝鮮半島での米国のプレゼンスを損なういかなる状況も、日本にとって、ひいてはアジア全域にとって痛手となることをドナルド・トランプ米大統領は認識すべきだ。
 日本は米国にとって、アジアの同盟諸国の中で際立った存在だ。韓国は北朝鮮の脅威にさらされており、中国からの圧力を極めて受けやすい。フィリピンは統治がうまくいっておらず、制度的にも脆弱(ぜいじゃく)だ。オーストラリアはアングロスフィア(米英と同様の価値観を持つ国)だが、人口わずか2500万人に過ぎず、軍事的・経済的影響力は限られる。ベトナムは民主主義国ではなく、日本のような米国との歴史的つながりに欠ける。
 1億2700万人の人口を持つ日本は、世界第3位の経済大国であり、世界有数のハイテクで装備された機動的な軍隊を持っている。英海軍の2倍の規模を持つ日本の海上自衛隊は、アジアの軍事バランスを保つ上で極めて重要だ。そして、米軍が5万人の人員と唯一の前方展開空母打撃群を日本に駐留させていることも忘れてはならない。
 日本は、米国と同盟関係にある欧州諸国と比べても好ましい状況にある。日本の国内政治は安心できるが、英国やフランスはもはやそのような状況にない。ドイツはロシアとのエネルギー交渉で弱みがある。日本はナショナリズムが復活しているが、一部の欧州諸国に見られるような、たちの悪いポピュリスト的なものではない。
 最も重要なのは、日本が極めて孤立した国であるという点だ。これは米国にとって有利に働く。同じように地域的に孤立している国は、やはり米国の頼れる同盟国であるイスラエル以外にない。東アジアには日本にとっての真の友好国はない。第2次世界大戦時の日本の武力侵略による傷は完全には癒えていない。日本の人道に対する犯罪は、大規模な残虐・殺害行為ではあったがジェノサイドとまでは言えず、ナチス・ドイツほどひどいものではなかった。これが、日本に戦争犯罪を完全に清算させるのを妨げている。それが済むまでは、日本がアジアの近隣諸国から完全に許されることは決してないだろう。
 中国は日本の存在を危うくする脅威として立ちはだかり、周辺の海域や通商ルートを支配しようと脅しをかけている。朝鮮半島も日本を悩ませている。北朝鮮の崩壊や南北の再統一、ないしその両方が起きれば、日本の力は劇的に弱まるだろう。
 35年(1910~45年)にわたった日本による朝鮮半島支配は、主としてその過酷さによって記憶されている。北朝鮮と韓国は日本人に対する不信という点で一致しており、南北が再統一されれば、相当に反日的な情勢になることは必至だ。日本は2万8000人の在韓米軍が永遠には駐留しないことを分かっている。中国からの脅威と並び、朝鮮半島における大規模政変への懸念は、日本の再軍備を加速させる主な要因である。
 中国と日本が将来の朝鮮半島に及ぼす影響を比較すると、中国に軍配が上がる。中国は北朝鮮と陸で接する国境があるほか、既に韓国の最大の貿易相手国となっている。日本の戦略家は、中国が半島に権勢を振るう未来について考えざるを得ない。
 これまで、トランプ氏ほど日本を神経質にさせた人物はいない。トランプ氏は日本の自衛の必要性を尊大に話す一方で、ときに混とんとした北朝鮮との交渉プロセスに着手し、南北を接近させている。昨年10月に米国が下した米韓軍事演習中止の判断は、日本をさらに心配させているに違いない。たとえ日本自身が、リアンクール岩礁(訳注:日本名「竹島」、韓国名「独島」)の領有権や第2次大戦中に虐待された「慰安婦」をめぐり、韓国と衝突しているとしてもだ。米国がある同盟国との軍事関係を弱体化させれば、米国が他の同盟国に対してもそうする可能性があると日本は認識している。加えて、トランプ氏が突如、環太平洋経済連携協定(TPP)を離脱して以降、日本は米国のリーダーシップの未来を疑問視してもおかしくない状況にある。
 そして台湾の存在がある。日本の近くにある台湾は50年間(1895~1945年)にわたって日本の統治下にあり、日本にとって最初の海外植民地だったことから、日本は常に台湾の命運に強い関心を払ってきた。米国がもはや中国の攻撃から台湾を十分防衛できなくなる日が到来すれば(日本はその日が近づいていることを恐れている)、日本は一段と包囲され危ういと感じる一方だろう。
 この地域を見渡してみよう。中国、朝鮮半島そして台湾における動向は日本にとってもはや頼る相手が米国しかいないことを意味する。米国が一層弱体化したり、予測不能になったりすることは、日本を不安にさせ、危険な存在にする恐れがある。日本が核爆弾を開発する可能性はほとんどない。しかし、日本は最先端の科学的基盤と民生用原発を持ち、その気になれば容易かつ迅速に開発することができるだろう。日本の核武装化が専門家の間で話題になっていることは、東アジア情勢が深刻な状態にある可能性を示している。
 ネオ孤立主義者たちは、日本は米国の他の同盟国と同様、自立すべきだと考えている。しかし、軍事面での不安感の高まりを受け、日本は既に防衛力を強化しつつある。欧州諸国と異なり、日本にレクチャーする必要はない。日本のリーダーたちは平和憲法という足かせから逃れることや、現在の各種部隊の連携を強化すること、また水陸両用強襲車両(AAV)や空母、その他装備の調達を求めている。
 こうした動きは厄介な問題を生じさせる恐れがある。日本が、現在依存している米国との同盟システムから解放されることは、日本および地域にとって危険である。日本はアジアにおいて米国の影響力をつなぎ止める役割を果たしている。日米同盟の弱体化は米国が主導する世界の終わりを示す兆候となる。したがって、北朝鮮金正恩キム・ジョンウン朝鮮労働党委員長へのいかなる譲歩も高い代償を伴う恐れがある。米朝首脳会談の決裂は災い転じて福となすかもしれない。