中国軍、「コピーのコピー」で急速に近代化 陸軍重視の脱却ともない

中国軍、「コピーのコピー」で急速に近代化 陸軍重視の脱却ともない

Jan 30 2019

 中国人民解放軍(PLA)の近代化が新兵器と組織改編によって着々と進んでいる。アメリカ国防情報局(DIA)が今月発表した年間報告書は、「これまでになく高い対応力と柔軟性、力を獲得した」と、99式戦車、J-20ステルス戦闘機、2隻目となる国産空母・001A型などの新兵器に象徴されるPLAの成長ぶりを強調。一部の兵器は、アメリカを含む競争相手を上回っていると評価している。

◆開発中の新兵器も続々
 PLA最大のライバル、アメリカのメディアも、戦力分析に余念がない。CNNは、米軍の脅威となりそうな中国のさまざまな最新鋭兵器を特集。そのいくつかを紹介しよう。

大規模爆風爆弾兵器「全ての爆弾の母」…アメリカ空軍が開発した大規模爆風爆弾兵器の中国版が開発中だと、今月、中国メディアが報じた。「The mother of all bombs(MOAB=全ての爆弾の母)」の異名を持つこの爆弾は、通常兵器としては史上最大の破壊力を持つとされ、米軍は2017年にアフガニスタンの洞窟地帯で実戦使用した。中国版はより小型軽量で、一般的な爆撃機で簡単に投下できるようになるという。

・地対艦ミサイル「グアム・キラー」…1月10日に米海軍が南シナ海ミサイル駆逐艦を派遣すると、中国国営メディアは、PLAが「中・大型艦を叩く力がある」というDF-26弾道ミサイルを展開したと報じた。2015年に北京で行われた軍事パレードでお披露目されたDF-26は、約5500kmの射程距離を持つ車載型の地対艦ミサイル。米海軍のグアム基地をも射程に収めることから、米専門家は「グアム・キラー」と呼ぶ。
・複座型J-20戦闘機…最新鋭J-20戦闘機の最初のバリエーションは、パイロットが2人乗り込む複座型だと中国メディアが報じている。2018年2月に空軍に配備済みとされ、戦闘爆撃機・電子戦機として運用されるという。
・UFOのようなステルス・ドローン…今月初めの中国の航空ショーで、新型無人機「スカイホーク」が初飛行した。中国メディアは「UFO」、CNNは「米軍のB-2ステルス爆撃機を小型化したような形」と表現。ステルス性能、攻撃力、防御力のどれをとっても、従来のドローンよりも大幅に性能が向上しているという。

◆組織改編や新兵器運用訓練も進行中
 PLAの近代化の動きは、1991年の湾岸戦争で、イラク軍が機械化された巨大戦力を持ちながらアメリカの最新鋭兵器に脆くも完敗したのを契機に始まった。中国経済の成長とともに軍事予算も急増。2000年から2016年にかけては、経済成長率を上回る平均10%ペースで伸びた(米防衛誌ナショナル・インタレスト)。

 2017年からは防衛支出の伸び率は5〜7%程度に落ち、兵員を30万人削減し、200万人体制となった。これでもまだ兵員数では世界最大の軍隊ではあるが、現在は「量から質」へと方針を変えてきている。同年から、組織改編に着手し、陸軍中心の編成から、陸・海・空軍を対等に運用する形に改めた。さらに、新たにロケット軍と戦略支援部隊を創設。ロケット軍は、米本土に届く長距離弾道弾・核を含む1000発以上のミサイルを擁するミサイル部隊で、戦略支援軍は人工衛星の打ち上げ・運用と敵の衛星の破壊任務に加え、敵防衛システムへのハッキング攻撃を行う。軍全体の指揮系統も再整備され、5地区の軍管区方式となった。これにより、現場の判断でより柔軟に対応できるようになったとナショナル・インタレスト誌は評価する。
 最新鋭兵器の配備が進む一方で、PLA全体の兵器の約40%は、59式戦車、J-7戦闘機などの1950年代の骨董品級だとされる。それらに慣れた兵たちが、99式戦車などをまだ使いこなせていない現実もあるようだ。昨年夏に内モンゴル自治区の演習場で行われた大規模演習では、最新鋭99A式戦車を擁する部隊が敗れるという波乱があった。デジタル化・相互リンクされた99式は遠くから敵を叩くことが可能だが、旧来の価値観で戦車部隊を前線にむやみに突進させたのが敗因だとされる。中国共産党系英字紙グローバルタイムズは、こうした反省のもと、PLA全体で今、新兵器を運用する兵員の訓練・戦術の練り直しが進んでいると報じている。

◆低コストという「後発のアドバンテージ」
 これらの戦力強化は、中国の巨額の軍事予算があってこそだが、それでもアメリカの防衛支出に比べれば1/3以下だ。しかし、これをもって米中のパワーバランスを単純比較することはできない。DIAの報告書は、装備のコストや人件費が米軍よりもずっと低い点を「後発のアドバンテージ」に挙げる。

「中国は、(海外兵器の)直接購入、改良、知的財産の盗用により、各国の軍隊で最も効率的な基盤をルーティン化させた」と、DIAは分析する。その顕著な例が空母だ。2012年に就役した中国初の空母「遼寧」は、旧ソ連製の建造途中の空母をウクライナから購入し、改良を加えたもの。今春にも就役すると言われる2隻目の001A型は、初の純国産空母と謳われているが、実際のところは「遼寧」の改良型で、発展的な「コピーのコピー」だと言える。
 1927年に中国共産党の私兵集団として誕生した人民解放軍は、国民党軍との内戦を経て、事実上中国の正規軍として、長年国内の防衛を主任務にしてきた。しかし、2000年代以降は、活動範囲を世界に広げつつあり、先制攻撃を含む予防的防衛任務を新たなドクトリンに掲げている。2017年にはアフリカ北東部のジブチに初の海外基地を建設。パキスタンカンボジアスリランカでも基地開設準備を進めている。
「現在のPLAの戦略目標は国土の防衛から、東アジアと西太平洋の支配、さらにはインド洋への進出に拡大した。北京の最終目標は、グアム、沖縄の基地と韓国・日本との同盟に象徴されるペンタゴンの東アジアの足がかりを削ぎ、その防御力を排除することだ」(ナショナル・インタレスト誌)。日本が人民解放軍の主要攻撃目標の一つであることは、紛れもない事実だ。