おやじギャグを科学する―その隠れた効能とは

おやじギャグを科学する―その隠れた効能とは

冷たい視線を浴びることも多いが、親子の距離を近づける役割も

白い眼で見られるような「おやじギャグ」は親子の距離を近づけ、雰囲気を明るくする効果もありそうだ
白い眼で見られるような「おやじギャグ」は親子の距離を近づけ、雰囲気を明るくする効果もありそうだ Photo: Getty Images/Image Source
 父親が受けを狙って何か言ったものの、まったく笑えなかったという経験は多くの人があるだろう。父親が発する駄じゃれや陳腐な短いジョーク、いわゆる「おやじギャグ(Dad Joke)」は子供たちから一斉に冷たい視線を浴びることがしばしばだ。
 しかし、子供を持つと急につまらない冗談を言うようになることに生物学的な理由は何かあるのだろうか。ロチェスター大学の教授で精神科医のロバート・ピアース氏は、患者と向き合う時に(そして自分の3人の子供と向き合う時も)ユーモアを多用する。そのピアース氏が、なぜ父親が駄じゃれに引き寄せられてしまうのか、さらに「おやじギャグ」がいかに父親と子供の距離を縮め得るのかについて説明する。
ユーモアのメリット
 心理学研究者らはこれまで、ユーモアに悩まされ続けてきた。被験者を研究室に押し込んで笑わせようとしても、そうした行為がそもそも面白くはないからだ。ユーモアを定義するのは難しく、管理された環境ではなおさらだ。
 ピアース氏は患者と向き合っている時の多くでユーモアが役に立つと考えている。「異なる視点を与えてくれたり、『ここではみんな一緒』というような感覚をもたらしてくれたりする。タイミングが良ければ、言いたいことを強くかつ優しく伝えることができる」というのだ。
 ポジティブ心理学の分野では、ユーモアが親密さ向上やストレス低減に役立つと認められている。だからこそ「おやじギャグ」は一定の市民権を得たのかもしれない。ユーチューブ上には「おやじギャグ」を言い合うだけの動画が数多くあり、再生回数が数百万回を超えるものも少なくない。ツイッター上にも#dadjokesというハッシュタグがある。
 ピアース氏によれば、子育て中もユーモアのセンスや遊び心を保つことは、子供が日々の成長で負うトラウマにどう対処するか学ぶのにも役立つかもしれないことが調査で示されている。
親子の距離を近づける
 男性ホルモンのテストステロンは年齢とともに分泌量が変わるが、ピアースはこれと下手な駄じゃれを子供に発するようになる傾向は無関係だと考えている。むしろ、同氏の考えはこうだ。父親は性的と誤解されたり、攻撃的と思われたりすることのない方法で子供たちとつながりたいと思っている――。「おやじギャグというものは穏やかで、小さな子供でさえも理解できるぐらいシンプルなものだ」
 米国の多くの親が子供にどれほど厳しくするか迷っている時代に、白い眼で見られるような「おやじギャグ」は親子の距離を近づけ、雰囲気を明るくする効果もありそうだ。
 「ひわいな話はしたくないし、良い父親でいたい。偉ぶらずに楽しい父親でいる1つの方法が、ちょっと間の抜けた語呂合わせやジョークだ」とピアースは語る。
駄じゃれと脳の働き
 駄じゃれは聞く相手を「ドン引き」させたり、望むらくは息子や娘との距離を健康的な方法で近づけたりする以外に、研究者に右脳と左脳の働きに関する洞察を与えてもいる。

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 学術誌「Laterality」に掲載された2016年の論文で、研究者らは、駄じゃれがまず左脳で言語として処理され、その二重の意味を右脳が理解するのに少し時間がかかるとした。そのズレが「超気まずい」沈黙を作り出す。子供の反応を待つ父親にはめまいを感じるような時間だ。もし大受けすれば、父親はそのおやじギャグを何度も何度も繰り返すようになる。
 ピアース氏は、子供にとっては恥ずかしいものかもしれないが、おやじギャグには父親が子供たちと健全かつ親密な関係を築く助けになる効果があると考えている。
 「おやじギャグはたいていは駄じゃれだが、それは人を笑わせる最も単純で簡単な方法だ。安全であり、誰も傷つけない」