俳句と宇宙のコラボ、難解な論文を五七五に
俳句と宇宙のコラボ、難解な論文を五七五に
科学に親しんでもらおうと17音節の「サイク」が数多く生み出されている
見よ、空から降る石
はるか遠い大きな赤い岩より来た
生命の痕跡探して
このままだと舌をかみそうなため、オブライアンさんは俳句形式で、間近に迫った研究発表の内容を言い表した。
米テキサス州ヒューストンで開催される世界最大級の天文会議「月惑星科学会議」では、研究論文の要約を1文にまとめて提出しなければならない。これを「詩」にする研究者が増え、今年は過去最高の335作品が提出された。オブライアンさんもその1人だ。詩の大半は17音節の俳句で、一部の作者はこれを「sciku(サイク)」(=サイエンスと俳句の混成語)と呼ぶ。
日本で生まれた俳句を利用するのは、型破りな方法で科学に親しんでもらおうとするトレンドの一環で、ソーシャルメディア(SNS)も一役買っている。昨年11月には米航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所が、小学校の先生に向けて詩を題材にした惑星科学の授業プランを提案。科学誌「サイエンス」は最近、周期表に関する俳句選集を掲載した。
海洋大気局(NOAA)も俳句をツイートすることがある。例えば「夜の雷雨/危険でも作物には恵み/何がきっかけ?」
「既成概念とは裏腹に、科学者の多くは陽気で想像力に富んでいる。彼らは折に触れてこの種の句作に興じる」。ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所の惑星科学者、ラルフ・ロレンツ博士はこう話す。
選考プロセスを監督するトレイマン博士によると、優勝者には10ドル(約1100円)から20ドルのギフトカードが贈られる。それ以上に、流星のごとくきらめく栄誉を手にできる。
バーバラ・コーエン博士は先週、満員の聴衆を前に月の標本に関する研究を発表したが、その冒頭で自作の句を紹介。NASAの研究者である同博士は2位に選出された。
1位を受賞したのは、火星の谷で見られる地すべりの地形マッピングに関する発表をしたカッツタウン大学のエリン・クラール博士だ。「突然壁が崩れ/破片の花びらが舞い落ちる/谷はもう姿を変えた」
クラール博士は優勝について「私のキャリアのハイライト」だと語った。
科学的手法が染みついた研究者は、芸術作品にもそうした手法を取り入れる。ブラウン大学大学院生のアシュレー・パランボさんとその研究仲間は、昔からある「手をたたく音節カウント法」を使って正しい数に整えたという(英語の俳句はふつう三行詩で、1行目と3行目には5音節、2行目には7音節を含む)。
宇宙開発企業オービットビヨンドと共同で進める月面の平原(「雨の海」)の探索ミッションを表現するのがその狙いだ。「雨の海/探検の新しい波/軌道のさらに向こうへ」
前出のオブライアンさんはボーイフレンドの助けを借りて15分で俳句を完成させた。その際、英語で使用頻度が高い上位1000ワードだけを使うと決めた。「火星」も「惑星」もそのリストに入っていなかったため、「赤い大きな岩」といった平易な言葉を用いたという。
「サイク」の作者たちは、複雑な科学をかみくだいて説明したり、新しい人々に出会ったりするのに役立ったと話す。植物生物学や遺伝学といった他の学術会議でも、人々の関心を高める活動の一環でサイクを取り入れている。「サイク・プロジェクト」と題するウェブサイトには、科学をテーマに世界中の人が多様な言語で書いた俳句が集められている。