元旅行誌編集長が明かす「源泉かけ流し」と「循環温泉」の違いは

元旅行誌編集長が明かす「源泉かけ流し」と「循環温泉」の違いは

2019.03.21

こう書いてくると、「循環温泉」は何だか不潔な気がしてしまうのだが、そうとも限らない。前述のような濾過・消毒をしているからこそ、湯が清潔に保たれている場合だってある。源泉の湯量が少ないのに大きな浴槽で多くの人が入浴するような場合だと、かけ流しでは清潔感が保持できないから、加水して湯量を補い、なおかつ循環して湯を再利用するわけである。

しかしながら、湯を再利用するためにはぬるくなった湯を加温して温度を保つ必要も出てくる。いずれにしても循環するとなれば、消毒はまず欠かせない。つまり「源泉かけ流しでは湯の汚れを取りきれない場合がある」から、循環・濾過・消毒システムが生まれてきたのである。
ただ、この「消毒」と「対になっている」ところが「循環(・濾過)温泉」の「難」だとも言える。というのも、現在の温泉水消毒のほとんどが「塩素消毒」になってしまっているからだ。消毒に使う塩素材は「次亜塩素酸ナトリウム」など強力な酸化剤がほとんどで、この場合、湧き出したばかりの源泉が持っている「還元性」が失われてしまうことが多い、というのが問題なのだ。
昨今では「酸化還元電位」という概念で、源泉と浴槽での湯の変化を把握することもお馴染みになりつつあるが、この「酸化還元電位」(ORP値)を、“絶対的な”湯の鮮度を表す数値だと勘違いしている人も多い。この辺りはかなりややこしい話になってしまうので割愛するが、簡単に言うと、塩素消毒をしていない源泉100%かけ流し温泉は「還元系」の湯であって、すごく大雑把に言えば「抗酸化」(「=」ではないけど)のような力があるのだ。
一方、消毒した(=ほぼ循環温泉)湯は「酸化系」の湯であり、還元力が「かけ流し温泉」よりも大幅に劣っていると言える。詳しく知りたい方は、温泉ソムリエ協会のHPなどから「水・温泉ORP評価協会」のHPへ飛んで、アドバイザーの講座を受講するのがオススメだ。

実は僕、この業界ではおそらく最も「循環・塩素消毒」の温泉に寛大な人間だと思うが、それでもやっぱり源泉かけ流しが良いことは間違いない。 なんだか禅問答のようだが、僕のこうした立場に関しては、拙著『温泉失格』をお読みいただけると、ご理解いただけると思う。と、ちゃっかり自著の宣伝をして今回は終わりにします。