苦肉のドコモ最大40%値下げ、5G時代に逆行感

苦肉のドコモ最大40%値下げ、5G時代に逆行感
ITジャーナリスト 石川 温

2019/4/17 6:30 日本経済新聞 電子版
NTTドコモが4月15日に、スマートフォンスマホ)の新料金プラン「ギガホ」と「ギガライト」を発表した。6月1日から提供を開始する。2018年8月に菅義偉官房長官が「携帯電話料金は最大4割程度値下げできる余地がある」と発言したことを受けて、「最大4割値下げ」を売りとする。しかし多くのユーザーは安さを実感できない内容だと感じた。今回はこの料金プランを分析しよう。
携帯電話の新料金プランについて記者会見するNTTドコモの吉沢和弘社長
携帯電話の新料金プランについて記者会見するNTTドコモの吉沢和弘社長
基本設計は通信料金と端末代金をわける「分離プラン」である。この設計に基づくプランは、すでに17年にKDDIが、18年にソフトバンクが導入済み。NTTドコモは先行する2社に追随するかたちとなった。これも総務省が導入を推進してきたものだ。分離プランを導入させれば、高止まりしていた通信料金を引き下げられるというのだ。
今までの料金プランだと端末料金が組み込まれていて、端末の代金を2年間、毎月通信料金から割り引いていた。端末の割引原資が、高止まりしている通信料金に含まれていることが問題視されていた。この方法では端末を頻繁に買い替える利用者は毎月割引が受けられるが、1台の端末を長期間使う利用者は割引の恩恵を受けられない。これが利用者の間の不公平感になっていたわけだ。逆にいえば分離プランの導入により、端末を頻繁に買い替えている利用者に割引がなくなる。端末購入時の負担感は増すことになる。
NTTドコモが発表したのは通信料金プランのみで、端末の購入方法や代金などは5月中旬に行われる予定の新製品発表会で明らかにする。NTTドコモの吉沢和弘社長は「端末購入補助が全くないと、利用者が新しい端末を購入しにくくなる。少しでもお求めやすくするアイデアを検討中」と語り、端末割引も用意するという。とはいえその金額はかなり限定的なものになりそうだ。
だが代わりに通信料金が劇的に安くなったとは言いがたい。正直新料金プランはかなり微妙だ。確かに記事の見出し的には「最大4割値下げ」となるが、4割下がったのは、データ容量が月間1ギガバイト未満の部分だけだ。吉沢社長は「スマホ利用者の4割は月間1ギガバイトの利用に収まっている」と語る。しかし20年から高速大容量を売りにする次世代通信規格「5G」が始まるというこのタイミングで、1ギガバイト未満の料金プランを強化するのは理解に苦しむ。菅長官が「4割」という具体的な数字を出して値下げを迫ったため、無理やり「4割下げられる場所を見つけて当てはめた」という印象が拭えない。
楽天の料金プランに期待
NTTドコモが新料金プランに移行した結果、携帯電話大手3社の料金プランはほぼ横並びになった。30ギガバイトや50ギガバイトといった大容量の実質定額制と、使った分だけ請求金額が段階的に上がっていく従量制の2つのプランから選ぶ形だ。設定金額や段階の切り方など、違いは細かいところしかない。
NTTドコモの場合、これまでは家族で大きなデータ容量を契約し、それを家族が共有して使うプランが中心だった。また4万円以下の安価なスマホであれば、端末の割引は適用されないが、毎月1500円が2年以上経過しても割り引かれる「ドコモウィズ」など、他社にはない料金プランがあった。こうしたオリジナリティーが失われたのは残念だ。
また、今回の新料金プランで長期利用ユーザーの優遇も減った。分離プランの導入により、こうした個性的なプランの新規契約を打ち切り、長期利用ユーザーの優遇をなくさなくてはならないのは、NTTドコモにとって痛手のはずだ。
かつて総務省有識者会議では「3社横並びはけしからん。各社でユーザーのニーズにあった多様な料金プランを設定すべし」と語っていた。しかし、多くのユーザーが安さを実感できるか不透明な分離プランの導入を迫ったことで、結果として3社とも似たような横並びの体制を作ってしまった。
確かに3社とも従量制と定額制というプランであり、横並びで比較しやすいメリットはある。総務省は横並びによって料金競争が促進されると信じて疑わないのだろう。だがこれまで3社横並びのプランのときは、どの会社も似たような料金設定に収束し、結局「どの会社も同じ料金設定」になってしまった。

かつて筆者のインタビューに応じたKDDIの高橋誠社長は「NTTドコモが分離プランだけでなく、違った切り口で値下げをしてくるなら対抗せざるを得ない 」と語っていた。今回の料金改定は分離プランがメインで「違った切り口」とは言い難い。KDDIが対抗するとしても、基本設計は変えずに微調整程度で終わりそうだ。

ここで待ち望まれるのが10月に第4のキャリアとして参入する楽天だ。新規参入する楽天が、他社を圧倒するような分離プランを導入すれば、3社の寡占状態に穴が開き、料金競争が起こると、総務省は見ているはずだ。ただ、高橋社長は同じインタビューでこう指摘した。「3社が分離プランになると(料金プランが安く見えるので)楽天が格安スマホと同じ料金プランを提供しても通用しなくなるのではないか。楽天の新規参入へのハードルが上がっているような気がする」
NTTドコモの新料金プランが肩すかしに終わり、3社が横並びでこれ以上の料金値下げを期待するのは難しい。楽天がどんな料金プランで既存3社に切り込み、総務省が望む料金競争に持ち込むのか。楽天への期待はさらに高まりそうだ。

石川温(いしかわ・つつむ)
 月刊誌「日経TRENDY」編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。携帯電話を中心に国内外のモバイル業界を取材し、一般誌や専門誌、女性誌などで幅広く執筆。ラジオNIKKEIで毎週木曜午後10時からの番組「スマホNo.1メディア」に出演(radikoポッドキャストでも配信)。NHKEテレで「趣味どきっ! はじめてのスマホ バッチリ使いこなそう」に講師として出演。近著に「仕事の能率を上げる 最強最速のスマホ&パソコン活用術」(朝日新聞出版)がある。ニコニコチャンネルにてメルマガ(http://ch.nicovideo.jp/226)も配信。ツイッターアカウントはhttp://twitter.com/iskw226