韓国で「クーデター」の声も。朝鮮半島を襲う「End Games」の結末

韓国で「クーデター」の声も。朝鮮半島を襲う「End Games」の結末

2019.04.15

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物別れに終わった第2回米朝首脳会談以降、在韓米軍では編成の大転換が静かに進んでいるようです。その意味を「朝鮮半島を舞台にしたEnd games」だと読み解くのは、メルマガ『最後の調停官 島田久仁彦の『無敵の交渉・コミュニケーション術』』の著者であり、数々の国際舞台で交渉人を務めた島田久仁彦さんです。島田さんは軍事面だけでなく、経済面でも始まった「韓国からの撤退」は、噂される「クーデター」への備えでもあると指摘。北朝鮮も含む朝鮮半島の動向を注視しています。

アメリカと周辺国が仕掛ける朝鮮半島を襲う“End Games”

国際的な時事問題を見る際、面白いことにどこの大陸のニュースでも、必ずアメリカが何らかの形で絡んでいます。それは、世界全ての大陸に展開し、そしてすべての海に軍事的な拠点を持つアメリカ軍のグローバルパワーとしての証なのですが、最近、その展開にも変化の兆しが見えてきました。
例えば、あまり日本では報道されないリビアでのトリポリの暫定政府とベンガジの軍事勢力との直接対決のニュースでは、直接その“闘い”に関連しているわけではないですが、【アフリカに駐留するアメリカ軍関係者】の存在が明らかになりました。
このケースでは「事態は非常に危険を極めているので、リビアおよび周辺からの撤退を始めた」という内容ですが、「彼らは一体、リビアで何をしているのか?」という疑問を抱きました。結局は、ISISが北アフリカ地域で展開する企みに対する“重し”だそうですが、確実に米軍の世界展開のバランスが変わってきている一例です。
そして、そのバランスの変化が最近、静かに進められているのが、朝鮮半島での米軍に関わる事態の変化です。在韓米軍の存在は広く知られていますが(とはいえ、実は、ソウルの地図には基地の存在は記されていませんが)、アメリカの対北朝鮮戦略の変化と、アジア太平洋地域におけるプレゼンスに占める沖縄米軍基地の戦略的重要性が高まっていることなどを受け、在韓米軍の“中身(構成)”が変えられてきています。その一例は、最新鋭の無人偵察機が沖縄および日本の基地に移動していることでしょうか。そして戦略を担う本部機能も厚木に移されています。
なぜ、今、このような大転換が行われているのでしょうか。関係者に理由を聞いても、うまく答えを濁すのですが、ニュアンス的にはアメリカの韓国離れ」、「朝鮮半島の重要性のグレードダウン」というように読みとけます。同時にある友人の表現を借りれば、朝鮮半島を舞台にしたEnd gamesということです。

End Gamesとはどのような内容を指すのでしょうか?1つ目は、すでに述べている米国の韓国離れです。それは第1回目の米朝首脳会談後から進んでいたようですが、加速し、不可逆的になったのが第2回目の米朝首脳会談直後からのようです。
第2回米朝首脳会談が物別れに終わった理由は、いろいろな形で語られていますが、大きな要因の1つが、韓国の文政権のアメリカと国際社会への『裏切り行為』だとされています。その内容は、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議を無視する形で北朝鮮に対して瀬どり行為をしていたことに始まり、文大統領がはしゃぎ過ぎて、米国からの再三のストップ要請にも関わらず、独自に海外を回り、ローマ法王にまで訪朝を促すなど、完全に欧米諸国をあきれさせたことにあります。
第2回米朝首脳会談の“成功”を信じて、いろいろと水面下で北朝鮮に“空約束”をしていたようですが、会談が“失敗”に終わったことを受け、完全に国際社会では四面楚歌の状況になりました。それを受けて、韓国国内でもバッシングが激化し、今や政権内部でも「現政権に対するクーデターやむなし!」という声が上がってきているようです。
今回のアジア太平洋地域での米軍展開の大転換の背景には、この“クーデター”に巻き込まれたくないとの思いもあるのでしょう。実際に駐韓米国大使が、トランプ大統領に進言し、軍の再編成と韓国からの撤退開始を勧めているようです。
2つ目は、韓国をターゲットとした経済的なEnd Gameです。こちらについては、「不穏な動きを感じて…」ということで、アメリカのビジネスが最近、次々と韓国から撤退するか、規模を大幅に縮小していること(ほとんどが撤退前の処理のための部隊が残っているのみ)から読み解けます。
そして同じ動きが日本、中国、ロシアのビジネスにも見られるようになってきました。次々と韓国企業とのパートナーシップを切り、投資を引き上げる動きに出ています。日本の報道では、徴用工問題を始めとする日本に対する挑発を受けて、ついに!といった感じで伝えられていますが、ロシア企業も、どこにでも進出していくといわれる中国の資本も相次いで韓国離れを進めています。
その煽りでしょうか。世界に誇る(!?)韓国企業サムソンの業績も大幅に悪化しているようです。また韓国離れは、中国、アメリカ、ロシア、そして欧州各国の国内・域内市場でも進んでいるようで、事態は深刻だと思われます。

その影響を受けて、韓国ウォンに対する“攻撃”も活発化しています。「攻撃」というとアクティブなイメージを与えてしまうかもしれませんが、どちらかというと、「一切のコミットメントを絶つ」というように表現したほうが実情にあうかもしれません。
日本の報道でも伝えられる円とウォンの緊急時のスワップ協定も延長されないことになりましたが、同じことは、米ドルや中国元との間でも起きているようです。“離れ”というよりは、もしかしたら“ネガティブな包囲網”でしょうか。
国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁委員会のあるメンバーの表現を借りれば、「対韓国の経済制裁と言えるのではないかとさえ思います。それは、「恐らく、瀬どり行為をはじめとする北朝鮮経済制裁違反に対する報復・戒め」との見方もできるでしょう。
ソウルの情報筋によると、「その元凶は文政権であり、そのために国内でクーデターの声が公然と出てきているのではないか」とのことでした。実際にこの「クーデター」に関する声が届いているのでしょうか。ここ数週間、韓国各地での治安部隊の活動が活発化していると言われており、それがどのような方向に発展するのか、とても気をもんでいるところです。
そして3つ目は、やはり北朝鮮をターゲットとしたEnd Gameです。こちらは軍事面と国の存亡という両面で語られています。
軍事面については、以前より何度か触れている「アメリカによる北朝鮮攻撃」の可能性です。これについては、ロシアゲートを巡る疑惑が一応米国内で“一段落”したこともあり、時期的には少し遅れたかもしれません。とはいえ、全くなくなってはいません。
これは、1つ目のポイントにも、そして2つ目のポイントにも繋がるのですが、基本的に、朝鮮半島から一旦“アメリカ”は撤退し、負の影響を最小限に抑えたいとの思惑が透けて見えます。
アメリカが北朝鮮を攻撃することを計画する際に、必ず語られるのは「北朝鮮から同盟国韓国への報復攻撃」の脅威でしたが、トランプ政権下ではすでにその“脅威”は意思決定の場から外されているようで、今後の北朝鮮の出方次第では、踏みとどまることはない、との意思があるように見えます。
それが可能になるのは、同じく以前から語られていた「中国の参戦の可能性(北朝鮮側に立っての参戦)」がほぼゼロであると思われるからです。その理由については、これまでに何度も書いていますので、ここでは再び述べませんが、アメリカが軍事作戦に出るためのハードルは、過去に例をみないほど、低くなっているといえます。

そしてもう1つは、決して終わることのない経済制裁北朝鮮経済にとどめを刺す可能性です。すでにお話したとおり、どうも韓国による裏切り行為はあるようなのですが、北朝鮮の後ろ盾となっている中国もロシアも北朝鮮経済制裁については、国際社会と足並みを揃え、過去のケースとは一線を画す結果になってきています。
もちろん、北朝鮮の状況が悪化していると伝えられる度、人道的な見地から「人道支援を実施するべきではないか」との声は必ず挙がるかと思いますが、それをもしかつての様に北朝鮮が拒むようなことがあれば、それこそ本当にend gameになってしまいます。
そして、これまで軍事的な面でも協力しており、経済制裁下の共通の立場へのシンパシーからイランからの支援がある、と言われてきましたが、そのイランも、トランプ大統領から標的にされたことで、恐らく自国の経済を防衛することに必死で、北朝鮮にまで手は届かないでしょう。
多面的にKorean Peninsulaへの締め付け、End gameが進められている様子が垣間見られたかもしれません。
では、日本は? メディアや一部のグループからは「近々北朝鮮からSOSが寄せられた際、見放さないことで拉致被害者の問題が好転するのではないか」との論調が挙がっていますが、残念ながら、仮に助けたとしても期待するような結果はもたらされないと見ています。
しかし、その“期待の表れ”なのか、金正恩氏への秋波なのでしょうか。日本政府は今年3月、昨年まで11年間続けた国連人権理事会での対北朝鮮非難決議案の共同提出を見送り、拉致問題を巡る北朝鮮との対話実現へ一定の融和姿勢も示しています。 ですが、それが本当に正しい道なのか、様々な状況、特に周辺国および国際社会が進んでいる方向に鑑み、対処方針を再考してみることも必要ではないでしょうか。
今は、北朝鮮制裁については国際社会と歩調を合わせて厳格に実施し、拉致被害者の問題については声を挙げ続け、その上で、すでに動き出しているEnd gamesの帰結に備えておくべきではないかと私は考えてみます。
皆さんはどうお考えになるでしょうか?
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島田久仁彦(国際交渉人)この著者の記事一覧
世界各地の紛争地で調停官として数々の紛争を収め、いつしか「最後の調停官」と呼ばれるようになった島田久仁彦が、相手の心をつかみ、納得へと導く交渉・コミュニケーション術を伝授。今日からすぐに使える技の解説をはじめ、現在起こっている国際情勢・時事問題の”本当の話”(裏側)についても、ぎりぎりのところまで語ります。もちろん、読者の方々が抱くコミュニケーション上の悩みや問題などについてのご質問にもお答えします。