F35墜落 原因は「米軍も未解決の問題」か

F35墜落 原因は「米軍も未解決の問題」か  編集委員 高坂哲郎

ニュースこう読む
日本の守り
コラム(国際・アジア)
北米
2019/4/23 5:50
航空自衛隊が導入した最新鋭のステルス戦闘機F35Aが青森県三沢市沖の太平洋に墜落して2週間が経過した。搭乗員と機体の捜索が続いているが、発見には至っておらず、原因究明もできていない。ただ、F35Aには以前からある深刻な問題点があった。
■米軍で相次ぐ酸素供給装置の不調
F35の操縦席。OBOGSは座席の下にある=ロイター
F35の操縦席。OBOGSは座席の下にある=ロイター
その問題点とは、戦闘機の搭乗員に酸素を供給する装置の不調だ。

F35には、地上の航空基地から発進するA型、短距離離陸・垂直着陸のB型、空母から発進するC型の3種類があるが、いずれにも、戦闘機が飛行中に取り入れた外気から酸素を分離し、飛行高度に応じた適切な濃度にしたうえで搭乗員に供給する「機上酸素発生装置」(Onboard Oxygen Generation System 略称OBOGS、オボグス)が取りつけられている。

米軍の空軍と海軍、海兵隊はこの装置をF16やFA18といった戦闘機や一部の練習機に搭載し、30年以上にわたり運用してきた。
ところが2008年以降、米国初の第5世代ステルス戦闘機F22にOBOGSを搭載したところ、同装置の異常による低酸素症の事例が20件以上も発生。10年11月には1機が墜落する事故を起こしてしまった。
酸素供給装置の不調で墜落事故を起こしている米空軍のF22ステルス戦闘機=AP
酸素供給装置の不調で墜落事故を起こしている米空軍のF22ステルス戦闘機=AP
低酸素症になると、発汗や頭痛、めまいなどの症状が表れ、進行すると視力や判断能力が低下し、最悪の場合、意識を喪失する。米軍は墜落事故を受け、F22の運用をいったん中止し、OBOGSの部品を交換するなどの措置をとったうえで運用を再開した。
ただ、その後もF35Aを含む数種類の戦闘機や練習機で低酸素症の事例が発生した。米軍は原因の究明を続けているが、特定には至っておらず、OBOGSの故障が発生した際に使う緊急時用の酸素の搭載を増やすなどして対応しているとされる。有り体にいえば、「だましだまし」運用しているというのが実情なのである。
今回の航空自衛隊の事故では、F35A搭乗員が「訓練を中止する」と通信したのちに墜落している。搭乗員が何らかの異変に気づいた後、急速に状況が悪化して墜落に至ったようで、仮にOBOGSの不調による低酸素症が起きていたとすれば辻つまが合う。
ちなみに、航空自衛隊が現在も主力戦闘機として使っているF15戦闘機は、OBOGSではなく、あらかじめ液体酸素をためた特殊な容器を載せ、そこから搭乗員に酸素を供給している。
■現代の戦闘機の宿命
米国でライト兄弟が初の動力機つきの航空機を発明してから100年以上が経過した。当時とは大きく異なり、現代の航空機は軍民の別なく、さまざまな部分に電子機器が入り組み、その運用には複雑なソフトウエアが要求される。そしてそのソフトには開発した時点では製作者も気づけない欠陥が潜み、テスト飛行などを経ながら逐次、欠陥を発見・改良しているのが実情だ。
このため、新たに開発された航空機のテストパイロットや、機体が正式に運用を開始して間もない時点で操縦する搭乗員たちは、どこに欠陥が潜んでいるかわからない状態での飛行をせざるを得ない。文字通り、危険と背中合わせの任務についているわけだ。
墜落事故後、空自のF35Aはすべての機体の運用を停止している。今回の墜落事故とOBOGSの関連性は現時点では断定できないが、米国で同装置の不調が相次いでいるのが事実である以上、墜落事故との関連の有無にかかわらず、日本も強い問題意識をもつ必要がある。
ただし、F35AのOBOGSを取り外し、F15が搭載している液体酸素容器を取りつけるなどの改良を日本が独自にすることは米国との約束で許されない。外国製戦闘機を買うということには、こんな深刻なデメリットがある。
気がかりなことがもう一つある。
17年6月、米イージス駆逐艦フィッツジェラルド伊豆半島沖で民間商船と衝突し、乗組員7人が犠牲になるという事故が起きた。艦長らが過失致死などの罪で米海軍の軍法会議にかけられていたが、海軍はこのほど「訴追取り消し」との異例の決定を出した。
戦闘機と同様に電子機器のかたまりであるイージス艦の衝突事故をめぐっては、「外部からハッキングや電磁波攻撃などを受け、艦の電子機器が正しく作動していなかったのではないか」との見方がささやかれている。ただ、軍事機密の壁もあり真相は闇の中だ。それでも、7人もの犠牲者を出したにもかかわらず、訴追取り消しという今回の動きはどこか不自然であり、ハッキングの事実関係が判明し、当時の乗組員らを訴追するのは筋違いとの判断を米軍が固めたのではないか、とも思えてくる。
F35AやF22などの戦闘機も、ソフトウエアの更新などの際に、外部からハッキングを受け、システムエラーの種を植えつけられるおそれがある。OBOGSの不調に関しても、当然、米軍はそうしたリスクをめぐる調査をしているとみられる。
F35Aの墜落後に会ったある安全保障関係者は、4月13日公開の筆者の記事「F35墜落で始まった日米vs中ロ『海中の攻防』」について「同意するが、事態はもっと深刻だ」とだけ話してくれた。「事態はもっと深刻」の意味を考え続けている。
高坂哲郎(こうさか・てつろう)
 国際部、政治部、証券部、ウィーン支局を経て2011年編集委員。05年、防衛省防衛研究所特別課程修了。12年より東北大学大学院非常勤講師を兼務。専門分野は安全保障、危機管理など。著書に「世界の軍事情勢と日本の危機」(日本経済新聞出版社)。