NY在住日本人社長が「もう日本に住めない」と思った車内注意書き

NY在住日本人社長が「もう日本に住めない」と思った車内注意書き

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メルマガ『NEW YORK 摩天楼便り-マンハッタンの最前線から-by 高橋克明』を発行する米国の邦字紙『NEW YORK ビズ!』CEOの高橋さんが、「お忍び」出張で3週間ほど東京と台湾に来ていたそうです。その滞在中に感じた日本のスゴイところ、心地よいところ、ヘンなところ、気になったところなどをニューヨークの事情と比較して、たっぷり紹介してくれます。

アジア出張滞在記(1)

東京出張から戻って参りました。アメリカに20年近く暮らして感じる、東京の素晴らしいところ、ヘンなところを書き綴っていきたいと思います。ひょっとしたら、住んでると見逃しがちになる日本特有のカルチャーに、住んでいない僕だからこそ、気がつく点もあるのではないかと思っています。3週間に及ぶ、東京—台北—台中—台南—高雄—東京出張の滞在記から振り返ってみたいと思います。
3週間に及ぶ、東京-台湾出張から戻って参りました。極秘で(笑)日本に行ってました。事後報告にする理由は、時間的にご挨拶に伺えないであろうクライアントさま、取引会社さまに、毎回、毎回、お断りをしなきゃいけないストレスから解放されるためでした。
東京での滞在は当然、限られた時間です。で、ひとつのパーティーやイベントに参加するとそこだけで名刺が20枚ほどなくなる。ありがたい話なのですが、そこでご挨拶した方々に「日本はいつまで滞在ですか?いらっしゃる間に食事しませんか」と誘って頂いても、のきなみ全員とは物理的に時間的に無理です。で、お断りすると角が立つ。偉そうだと陰口を言われる。一時期、東京出張がすごくストレスフルなものになりました。
もうひとつのストレスは、仕事で関わる日本の方々が「打ち合わせ」がやたら好きな人が多いということ。東京のビジネスシーンの文化なのか、とにかくみなさん「打ち合わせ」を好む傾向にあると思います。いい加減なニューヨーカーはそこまで何度も何度も打ち合わせを繰り返さない。日本だと例えば3時間の講演会に3時間の打ち合わせ時間を設けられることもあります。とても助かる反面、ちょっと疲れて本番に支障をきたすこともあったりします。基本、全体的な流れをお互いにシェアすれば「あとは任せてもらえますか」となるべく打ち切らせて頂くようにしています。そこで必ず「大丈夫ですか…」と不安な顔をされる。
あと「打ち合わせ」の為の「打ち合わせ」に参加させられたこともありました。某ラジオ局のプロデューサーの方に築地のカフェに呼び出され、「最近、調子どうですか」と近況報告でその場は終始。「このあと、食事でもしながら、この資料をもとに打ち合わせしましょう」と。…て、ことは、今この時間は一体、なんの時間??と喉元まで出かかりましたが、なんとか飲み込みました。おそらく、これは日本においてビジネスを円滑に進める必要なステージ。ぐっと我慢しました。
こんな調子で、日本では「打ち合わせ」や「ミーティング」に重きを置いている、というのが僕の正直な感想です。置きすぎ、というか…。それでも、テキトーすぎるニューヨーカーたちよりは、ずっと安心でもあります。打ち合わせが、まったくないよりは、しすぎなくらいの方がいいのかもしれません。
それに、打ち合わせが多すぎる、ということ以外では、僕は日本に行くことが総じて大好きで、やはり東京出張が入ると数週間前からワクワクもします。
そんな理由もあって、お世話になっている方々にも(申し訳なくも)内緒で、今回は時間的にお会いできる方々だけにアポイントを取って、日本行きの飛行機に乗りました。(次回は今回ご挨拶に伺えなかった方々に必ず会いに行きます)

日本出張の時はいつもですが、その前後がニューヨークで異常に忙しくなります。社員もそう多くは抱えられない零細新聞社。当然、社長の負担も大きくなります。旅立つ前夜は一睡もできず、そのまま搭乗するのはいつものことでした。
機内で寝ればいいと思ったのですが、今回はマイレージも使い切り、アップグレードもできず久しぶりのエコノミー席。人間贅沢なもので、一度ビジネスクラスを覚えてしまうと、エコノミー席の窮屈さに我慢できなくなります。これ、ある意味虐待だろう、とすら思ってしまう。
高所はまったく平気だけど、閉所が恐怖症と言っていいくらい苦手になってしまいました。一睡もできない。この歳まで、ファーストクラスやビジネスクラスなんて「見栄」と「ステータス」誇示で乗るものだと思っていました。でも、違う。老化なのか、健康面から言っても、多少無理してでも選んだ方がいいな、と思わされました。
で、成田までの機内の14時間で少しずつ、日本人マインドに戻って行きます。成田に到着したらどうってことないのだけれど、ニューヨークのJKF空港の日本行きの便の搭乗口で、日本の日本人だらけの中に身を置くと、ちょっと緊張してしまう自分もいます。NYで暮らす日本人に囲まれることはあっても、日本の日本人に囲まれることは、日常生活でそうない。
ということは、同じ日本人でも、海外在住日本人と、日本在住日本人は、やはりどこかで違う人種と無意識に感じているのかもしれません。違いの特徴としては、日本在住日本人の方が、ファッションがこ綺麗で、物静か。逆を言えば、アメリカで長く暮らす日本人はトレンドに無頓着で、声がデカイ傾向にあります。あくまで傾向だけど。
なので、日本で電車に乗った時は、多少、緊張します。なぜなら、みんな静かだから。大声で話す人はほとんどいない。今回、日本の地下鉄のホームに貼ってあった注意を促す看板を見た時、軽い衝撃を受けました。車内でイヤホンをしている男性と、迷惑そうな顔をしている周囲の男女をイラストで描いたその看板には「あなたの音漏れ、みんなには雑音です」と書かれていました。
ご存知の通り、ニューヨークの地下鉄は、ストリートパフォーマーの練習場所。歌ったり、踊ったりの集団がチップ目当てで乗り込んできます。それが当たり前の生活になっている僕は「…イヤホンの音漏れを気にしなきゃいけない国では、もう住めないかもしれないな…」と思っちゃうのでした。ちなみに、ニューヨークの地下鉄の車内には「ポールダンス禁止!」の看板が貼られています。これ、実話です。

話休題。一睡もしてない状態で成田に到着してからも、やることは山積みです。もうかれこれ40時間近く寝ていない。その状態で、両替、ルーターレンタル、国内用ケータイのチャージ、そして今回の滞在も都合上何ヶ所かのホテルに滞在するので、それぞれに空港の宅配便から荷物を送ります。それだけ終わったら、都内までのバスに乗る。で、それらのサービスのすべてを日本の人は、親切丁寧に対応してくださります。ちょっと引いちゃうほどに。
例えば、空港からの長距離バス。これがもしニューヨークであれば。まずバス乗り場にたどり着くまでに、怪しい白タクの勧誘をかいくぐっていかなきゃいけません。中には半ば強引に、フィジカルに直接、こっちの手を掴んで連れて行こうとする運転手を振りほどく必要すらあります。
で、やっとバス乗り場に到着しても、そこには電光掲示板も案内カウンターもない。それっぽいおっさんたちにのきなみ、声をかけていく。バス乗り場どこ?と、聞いたところで、無視される。無視されたら、そのおっさんはそう見えるだけで、バス乗り場のスタッフじゃない、とそこで判断する。バス乗り場どこ?聞いたところで、また無視される。無視されても、場合によっては、やっぱりそのおっさんがバス乗り場のスタッフの可能性もあります。ただ単に機嫌が悪いだけで、黙りこくっているのかもしれないから。
しつこく聞くと、アゴをしゃくって「そこだよ」と言われます。「そこってどこだよ?」。またアゴをしゃくり「だから、そこだよ」と言われる。「何時にくる?」。また無視。「だから、何時だよ、次!」しつこく聞くと、やっと答えてくれます。「すぐだよ!」。すぐ、というのが、5分なのか10分なのかはわかりません。このおっさんにとっては40分も、すぐ、なのかもしれない。あとは、もう身をまかせるしかない。それに、さらにしつこく何分か聞いたところで、バスがその時刻表通りに来る可能性の方がずっと低い。結局、正確なバスの到着時刻は、誰も知らない、わかってない。このおっさんどころか、おそらく運転手すらわかってない。
ここまできたら、もう余計なことは考えない。五体満足で自宅にたどり着けたらラッキーだと思うくらいにした方がいい。やっとバスが来ても、チケットをどこで買うかは、毎回違います。バス会社によるのか、同じバス会社でもルールが変わったのか、もしくは、運転手とカウンタースタッフの気分次第なのか。ある時はカウンタースタッフに、ある時は直接、運転手に、ある時は、なぜか請求されないまま無料で。そんな感じでチケットを購入します。スーツケースを荷台に入れるのもバス会社によってさまざまです。自分で運ぶ時もあるし、スタッフが蹴り飛ばして荷台に押し込める場合もある。やっと乗車して、すぐに発車するかどうかも、運転手の気分次第。それがニューヨーク。

日本の特徴「権利がある側の偉そうな態度」

で、今回の成田。空港から都内へのバスのチケットを買う段階からすべてが違いました。僕の前に並んでいた中国人旅行者の家族が、財布からお金を取り出しつつ、どれが千円札でどれが一万円札かわからないとゴタゴタしていたその時、カウンターの中の違う女性スタッフさんが、クローズされていた隣の窓口を急きょオープン。「後ろのお客さま、どちらまで行かれますか?」と声をかけてくださいました。つまり、その中国人家族のせいで、急げば乗れるかもしれないバスを乗り過ごさないため、そこまで見越しての気配りを彼女は炸裂させてくれたのです。もうね、それだけで大好き、ニッポン!って感じです。成田に到着して数分で日本の素晴らしさを身を持って体感しました。
そんなこと当たり前じゃん!と日本の方は言うかもしれません。これを読んでくださっている人も、当然すぎて何も目新しくない、と思うかもしれません。でも、そんな気配り、北米全土で見かけることはありません。そんな日本では当たり前の気配りができるスタッフなんて、アメリカ広しといえど、どこにもいやしねえ。僕たちからすると、やっぱりそれだけで感動できる「事件」なんです。
そしてチケットを買うと、乗り場まで親切丁寧に教えてくれます。「そちらの自動ドアを2つ通り越えて…」と、自動ドアが二重になっていることまで言及するのは、少しやりすぎかなと思いつつ、でも、そこでまた感動。で、チケットの発車時刻の数字を赤ペンで丸で囲んでくれます。…ん?そこまでは必要ないかも。でも、感謝。で、スーツケースを手にしようと振り向くと、そこにあったスーツケースがない。瞬間、盗まれた!?と思うも、係員のおばさんがバスまで持って行こうとしてくれています。いや、やっぱ、そりゃ、やりずぎだ。きったないスーツケース、そんなに丁寧に扱わないで、恥ずかしいから。蹴って移動させるJFKのスタッフがちょっとだけ恋しくもなります。
バス乗り場まで来たら、スタッフさんが「こちら、われものございませんか?」と声をかけてくれて、丁寧にバスの下の荷物入れに置いてくださいます。番号札を渡され、何個目の停車駅までを説明してくれる…。なにかここまできたら、バカにされてるような気がしなくも…。
極めつけは、バスが発車すると、さっきの荷物担当の地上男性スタッフ2名が、バスに向かって「いってらっしゃいませ」と一礼。バスに向かってお辞儀…。ついついその人たちにお辞儀し返しちゃいました。
やりすぎ感がなくもないけど、それでも、素晴らしい「おもてなし」の国だなと思わざるを得ませんでした。むしろ、ここまでのサービスが世界では圧倒的に稀だということを日本人はみんな知っているのだろうか、と余計なお世話と自覚しつつ心配してしまいます。
知らない日本人がいるとするなら、世界に出た際に大丈夫だろうか、と。そのことを妻に話すと「大丈夫でしょ、日本人、どこに行っても、その国のルールを受け入れて、合わせるの得意だから」と言われました。なるほどな。

日本流 or NY流、真のホスピタリティとは?

消費者に対しての、日本のサービスが素晴らしいことは、ここメルマガでも何度も書き綴ってきました。しつこいほど。でも、それに対しての反論、異論を唱える、僕の知り合いもいます。こっちの有名ホテルで10年近く働き、アメリカのホスピタリティを身を持って経験した知り合いがいます。彼は日本のサービスが素晴らしい、という僕の意見に真っ向対立します。
「でもね、日本のサービスは、それって、マニュアルだよね。要はクレームにならないよう、ならないよう、気をつけているだけなんだよね。アメリカは違う。お金を払ってくれるお客さまに対し、家族のように、旧友のように接することが、真のおもてなし、と知っている。だから、アメリカのサービスこそが、フレンドリーで、本当の意味でのホスピタリティーなんだよ」と。
なるほど。それを聞いた時は確かに、そうかもな、と納得させられました。そう言われてみれば、彼の言ってることが正しいのかもな、と。でも、今回、品川の某有名ホテルに滞在した際「いや、そうじゃない」と確信しました。
ホテル内のエレベーターで日中、ロビーまで降りていた時のことでした。途中の階でエレベーターは止まりました。扉が開くと、そこにはホテルのスタッフ。ボーイさんが荷物を運ぶ台車を持って、乗り込もうとしました。中にいる僕に気づくと、ハッと立ち止まり「大変失礼しました」とお辞儀をして、入ることをやめました。
なんで?と思った僕は「え?下に行きますよ」とドアを抑えて招き入れます。「次のエレベーターで行きますので」と彼。結構な広さのエレベーター内。中には僕一人。彼と彼の持っている荷台は十分に入れるスペースです。ひょっとして、オレの体臭がキツイのか?「いや、なんで?入ってください」そう促すと、彼は笑顔で「失礼します」と入ってきました。扉が閉まると、こちらを向き直り、「高橋さま、お心遣い、ありがとうございます」と一礼。(名前覚えられてる、あぶねえ、あぶねえ、入れてよかった)
こんなことでお礼を言われること自体、行きすぎたサービスだとは思います。ニューヨークで同じシチュエーションだと「おい、詰めてくれ」、もしくは「そっち持って、一緒に荷台入れてくれ」と言われるはずです。それはそれで確かにフレンドリーで、嫌な気はしないけれど、今回の彼の、最後に見せた笑顔もまた、嫌な思いはしませんでした。
確かに「お客さまの乗られているエレベーターには、乗らず、次のエレベーターを待つ」というクレームにならないためのマニュアルだった、のかもしれません、最初は。でも、にっこりとお辞儀してくれた彼の行動は、絶対にマニュアルなんかじゃない

前述のこっちのホテルで働いていた知り合いの彼は、肝心なところで間違えている。確かに、最初はクレームを発生しないためのマニュアルからスタートしても、サービス業をやっていくうち、「ちょっとでも、うるせえ客を快適にしてやろっかな」と思う人間はアメリカより、日本の方が多いような気がします。あくまで僕個人の肌感覚だけど。
それに、フレンドリーに接して、結果、何もしないサービス業のニューヨーカーに僕は腐るほど遭遇してきました。それって、結局、フレンドリーじゃなくない?もっというなら、フレンドリーはいいから、もちょと、ちゃんとサービスしてくれよ、と思うことの方が多い。
なにより「フレンドリーに、友達のように、家族のように接しましょう」っていうマニュアルを実践してるだけと言えなくもない。日本のサービスがクレームを発生させない為という理由から発生したのが事実でも、そんなこというなら、アメリカのサービスはチップを少しでも多くもらう為から発生してないか。しかも、フレンドリーな顔を被ったぶん、いやらしい。
確かに彼の言うように最初は「マニュアル」からスタートしているのが、日本の多くの企業サービスではあると思います。それでも、その中で働く多くの人は、日常の業務をやっていくうちに、そのマニュアルから少しでも脱出しようとしているように僕には見える。日本人の習性かもしれない。
フレンドリーなホスピタリティーからスタートしたアメリカのサービスは、日常に追われるうち、フレンドリーな雰囲気のマニュアルになってしまったのではないかとすら思えるのです。もちろん人によるけど。
僕が今まで宿泊した、日本の著名なホテルは、帝国にしても、椿山荘にしても、ニューオータニにしても、さくらタワーにしても、スタッフのみなさんはマニュアルだけなんかじゃなかった。風邪で寝込んだ時は、心配して部屋まで薬を届けてくれ、タクシーで病院まで連れて行ってくれ、年老いた田舎の親父を呼び寄せた時は、駅までお迎えに上がりましょうか、と提案してくれ、忘れ物した時は無償でニューヨークまで郵送してくれた。そんな一連のイレギュラーな場合のマニュアルなんて、絶対にない
今回の滞在で、あくまで僕個人の中では、ひとつの答えが出たと思います。今まで多くの方に、聞かれた「日本とアメリカどっちが好きですか」という質問。「わかんないです。どっちも好きで、どっちも嫌い。でも、サービス業のポスピタリティーと言われるおもてなしの精神は、日本の方が100倍進んでます」と答えます。アメリカ在住の見識者が「いや、それは違う!」と言ったところで、僕個人への質問に、僕個人がどう感じたかなんて、僕個人が決める。
「AとBの料理どっちが美味しいですか?」と聞かれたら、美味しいと思う方を答える。「B」と答える僕に「いやぁ、それは違うよ、Bの方が一見、美味しく感じるだけで、レシピ通り作っただけで、実はAの方が、荒削りに見えても、素材を活かして、食べ物本来の味を大切に、どーのこーの」と言われても、余計なお世話だ。
舌がどう感じたか、僕がどう感じたか、誰より僕が知っている。だいたい、そんなうんちくを必要としている時点で、アウトだよ。消費者に、そんな歴史的背景をいちいち聞かせなきゃいけない接客って、そもそもどうなのだろう。消費者は、社会的背景を知っておく必要はない。僕は日本の「おもてなし」の精神がとても素晴らしいと思います。

日本の特徴「権利がある側の偉そうな態度」

と、ここまで日本をベタ誉めしたところで、少しくらい、日本のマニュアルバカなところを書かないと「摩天楼便り」じゃなくなるので、ここからはいつも通り、日本のちょっと気になったところを書いていきたいと思います。
3月の最終日。両国国技館で、ある総合格闘技団体の格闘技イベントに取材としてプレスパスで来場した時のことでした。
事前に、何度も、何度も、メールで当日の記者のスケジュールを送ってくれます。とても親切丁寧です。ニューヨークではこんなに何度も丁寧に送ってくれることはありません。それどころか「詳細はメールで送るね」と電話で言われて、そのまま送ってこないことの方が多い。
で、送られてきたメールに明記されている通りに、記者の集合場所である国技館正面入り口に、一般客の入場30分前という集合時間に行きました。なのに、主催者サイドのスタッフがいない。各メディアの記者たちはどうしたものか、と、そのうちのひとりがメールに書かれていた主催者担当のケータイに電話をかけます。かなり慌てている様子の先方、若いスタッフが電話越しから「スイマセン!スイマセン!」と何度も謝っているのが聞こえてきます。聞けば、国技館サイドが「入場前にはゲートは開けない。プレスも一般の入場客と同時に入場させる」と急きょ、言ってきたとか。
なるほどな。ありえなくはない話。というか、よくある話。どうせ30分、そのあたりで気長に待っておこうと思った矢先、各メディアの記者たちが「どーゆーことだ!?」とその主催者側のスタッフに電話でキレはじめました。
え?なんで?30分だろう?電話の向こうで、泣きそうな声で謝りまくる、若手スタッフ。彼が謝れば、謝るほど、コーフンしてさらに、きつい言葉で責める記者団
「(笑)国会の討論か?そんなに責めることか?」ついつい言葉に出てしまった僕を、古参の日本の記者たちが見てきます。やばいと思いつつ、見返すと、彼らはさっと目をそらす。さっきまで従順な若手スタッフにはヤクザの親分のように罵倒していたくせに。
この様子から見ても、今回のイベント、記者の方が主催者より強い立場とわかります。もちろんプロ野球Jリーグなどはそうではないと思いますが、マイナーな格闘技のイベントでは記者が記事にして「あげて」、バリューが増すということなのでしょうか。
確かに、主催者サイドのミスかもしれませんが、決して珍しいことではない。それに打ち合わせの段階では、国技館側も記者たちの30分前入場を実際に許可していたのかもしれません。イベントは水もの。当日なんらかのイレギュラーがあるのは想定済みで、30分待たされるくらいなんて、アメリカだと可愛いものです。なにより、記者が大きな顔をできる土壌でもない。

そんなに30分待たされるのが、苦痛なのか。それに30分前に入場したところで、何もすることないだろう。どうせ、顔見知りの記者たちと、内輪ウケのダベリをするだけだろう。(それ、30分待ちながら、外でやんなよ)なにより、まず、主催者サイド、謝りすぎだ。
今回に限らず、「権利がある側の偉そうな態度」は日本の特徴かな、とちょっとだけ思ってしまいます。ファミレスの客のウエイトレスに対する態度を見ても、それは明らかです。それもこれも、「権利がない方(サービスを提供する方)の、必要以上に卑屈な態度」が原因なのかとすら思ってしまいます。ニューヨークでは、接客する方が、なんなら、エラそうだよ。それはそれで大問題だけど。
で、30分が経過し、入場ゲートが開きました。一般客と同時に入場。どちらにしても、試合開始までは90分以上あります。
「それでは記者のみなさまは、こちらの線に一列になってお待ちくださーい!」と掛け声とともに、手書きで「プレス」と書かれたコピー用紙を持ったスタッフが手をあげます。…?一列に?まだ入場できないの?線に沿って待つ?何か意味があるのだろうか。そのまま、また30分。結果、後になってわかりましたが、意味はまったくありませんでした。
さっきの声を荒げていた古参の記者たちも、それに従い、きっれーいに、一列になって、ぴったり、線に沿って、大人しく待っています。え?ここでは怒らないの?
入場ゲートが開かず、外で30分待たされたのは、なにかしら理由があったはずです。でも、この幼稚園の登園状態の直線に並んで待たされるのは、特に理由も見当たりません。ロビー外からロビー中に入るのに、一列になって待つ必要はない。もし、まだロビーが解放してないなら、そのあたりで好きにして待ちます。
結局、そこに意味や理由があるかないかは、重要ではないらしい。それよりも、当初メールに書かれていたことと、違うことが起こった方が「怒る」権利をゲットできた、と思っている。
メールに書かれていない、その場の指示は、特に何も考えずに、従っちゃうのね。アメリカ暮らしのアメリカかぶれのKYの僕には、ちょっと考えられないことでした。
「ねえ、この一列で線に沿って待たされてるの、意味あるの?まだロビーには入れないなら、そのあたりで好きにして待ってるよ」そう云うと、スタッフのお兄ちゃんは、はっきりと、堂々と、悪びれることなく、こう答えました。「あ、そういう決まり、というか、そういうことになってますので、申し訳ございません」。そういうことに決めたのは誰?思わず笑いそうになりながら、突っ込もうと思いましたが、やめときました。郷に入れば郷に従え。
その様子を見ていた例のベテラン記者が「ねぇ、そうでしょ!」みたいな同意を求める顔をしてきたので、心の中で、「ちがう、ちがう、おっさんとオレは180度違うことで納得してないから、一緒にするな」と念じました。

そのあと、例の手書きの「プレス」と書かれたコピー用紙を両手で(なぜか)高々上にあげて歩く先頭の彼に、大の大人が一列で付いて行く形で、会場に入場します(笑)賭けてもいい。アメリカでは絶対に見ることがない光景です。ずっと下を向いて、笑いを咬み殺します。
次は、手荷物のセキュリティーチェック。金属探知機とX線で人間と荷物の中身を検査します。これは、もちろんアメリカでも必ずやられます。日本のスポーツイベントも欧米並みのセキュリティーを導入したんだなぁと感心したところ、セキュリティーのスタッフの方が「スイマセン、スイマセン、スイマセン」とやたら謝って、荷物の中身をチェックします。
そんなに恐縮しながらやらないほうがいい、謝ったりすると…ほら…やっぱり、また古参軍団が急にエラそうにふんぞり返るようになっちゃってるよ。言わんこちゃない。。自分の頭で考えるより、もう、条件反射的に「相手が恐縮→エラそうにする権利ゲット!」となっちゃってるから。「めんどくせええなあぁ!」とベテラン記者が声に出してます。
ただ、僕も気になったのはセキュリティーのスタッフの方が「スイマセン、スイマセン」と恐縮しながらなので、ほとんど、中身をチェックしない、ということ。あくまで形だけ、バックの中身をさーっと表面上だけ見て、中身を探ったり、奥まで確認したりしない。めんどくせえなああ!と例のジジイが声に出して以降、さらに、チェックは甘く、ほとんど、表面上だけ、見た目だけのセキュリティーチェック。え!?こんなことなら、セキュリティーチェックの意味なくない?だったら、しなきゃいいのに…。
さすがに唖然として、口を開けていたら、また例の古参のジジイと目が合って「ね!めんどくさいでしょ!?」みたいな同意を求める顔をしてるので、「ちがう、ちがう、ジジイと全く違う意味で呆れてんだよ」と心の中でまた念じる。
マニュアルの素晴らしさと、マニュアル通りの意味のなさを痛感した、日本滞在でした。

高橋克明この著者の記事一覧

全米発刊邦字紙「NEWYORK BIZ」CEO 兼発行人。同時にプロインタビュアーとしてハリウッドスターをはじめ1000人のインタビュー記事を世に出す。メルマガでは毎週エキサイティングなNY生活やインタビューのウラ話などほかでは記事にできないイシューを届けてくれる。