防衛装備品、輸出実績ゼロ 解禁5年、厳しい現実 価格や性能、ニーズ合致せず

防衛装備品、輸出実績ゼロ 解禁5年、厳しい現実
価格や性能、ニーズ合致せず

2019/5/12 2:00 日本経済新聞 電子版
オーストラリアへの輸出交渉が失敗に終わったそうりゅう型潜水艦=海上自衛隊提供
オーストラリアへの輸出交渉が失敗に終わったそうりゅう型潜水艦=海上自衛隊提供
航空機や潜水艦など防衛装備品の国際共同開発や輸出が進んでいない。政府は2014年に「防衛装備移転三原則」を定め条件を緩和したが、新たな原則のもとで始まった共同開発はなく、国産完成品の輸出もゼロが続いている。世界のマーケットに飛び出し、日本は厳しい現実を突きつけられている。
政府は14年4月に定めた装備移転三原則で「日本の安全保障に資する」などの条件を付けて共同開発と輸出のハードルを下げた。防衛装備の協力を通じて日米同盟を一段と強化するとともに、他の友好国と安全保障分野で協力を深めるためだ。
米国が先行する防衛装備のデジタル化に追いつく狙いもあった。
近代戦では戦闘機や艦艇などあらゆる装備がネットワークでつながり、戦術が展開される。インターネットをはじめ、デジタル技術は常に軍事技術がけん引してきた。共同開発を通じて官民のデジタル技術の水準向上が見込める。開発コストも減る。
しかし、新三原則のもとで始まった共同開発はない。
最新鋭ステルス戦闘機「F35A」は米国を中心とした9カ国の共同開発だ。米防衛大手のロッキード・マーチンが主体だ。規制の緩和前に開発が始まり、日本は加われなかった。F35Aの構造はブラックボックスで、改修や修理は米国頼みだ。4月に墜落したF35Aの原因究明に米軍の協力が欠かせないのは、機密情報を含むため日本だけでは解明が難しいからだ。
国産の完成品輸出は共同開発以上に低調だ。新三原則になってから少なくとも10件近くの輸出交渉が表面化したが、すべて結実していない。
16年のオーストラリアへの新型潜水艦「そうりゅう」の輸出案件は関係者にとって苦い記憶だ。アボット元首相が関心を示したものの、ターンブル氏が首相に就くと「国内産業重視」に転じ、豪州での雇用確保を約束したフランスを選んだ。
アラブ首長国連邦UAE)は川崎重工業製の国産輸送機「C2」の購入に関心を示した。18年に同国を訪れた防衛装備庁幹部らはUAE側から「このままでは購入できない」と告げられた。舗装されていない滑走路で離着陸する能力が不十分だった。
新明和工業が生産する海上自衛隊の救難飛行艇「US2」をめぐるインドとの交渉は5年を超え、膠着状態に陥っている。1機100億円超の価格に難色を示すインドは現地生産や技術移転を求め、折り合えない。
日本は輸出を想定した開発をしてこなかった。強みととらえていた技術力は知らず知らず「ガラパゴス化」していた。
拓殖大の佐藤丙午教授は「装備品で起きているのは日本の製造業の失敗に似ている」と語る。価格や性能で相手国のニーズに合致するものがつくれていないとの指摘だ。米国や欧州との共同開発から進めていくことが現実的だとみる。
米国は日本企業の体制を不安視し、共同開発に二の足を踏む。防衛省は20年度以降、米国防総省が採用するサイバー防衛基準の導入を取引先に義務付ける。米中の貿易対立が深まり、米国は中国への技術流出に神経をとがらせる。
機密情報を取り扱う人材の適格性を評価する仕組みをつくれないか――。防衛省経済産業省は水面下で検討を始めた。米国が導入する「セキュリティーリアランス(SC)」という資格を参考にする。
日本は戦後、平和国家の道を歩んできた。紛争当事国への輸出や共同開発品の売却はいまも認めていない。一定の制約のもとで国際競争に踏み出した日本。最先端のデジタル分野での共同開発に狙いを絞るなど、新たな戦略づくりを迫られている。(加藤晶也)