【中東見聞録】ハメネイ師、安倍首相への「伝言なき」メッセージ

【中東見聞録】ハメネイ師、安倍首相への「伝言なき」メッセージ

13日、テヘランで会談する安倍晋三首相(中央)とイラン最高指導者ハメネイ師(右)。ロウハニ大統領(左)も同席した(AP) 13日、テヘランで会談する安倍晋三首相(中央)とイラン最高指導者ハメネイ師(右)。ロウハニ大統領(左)も同席した(AP)

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 安倍晋三首相によるイラン訪問の最大の“見せ場”は、同国最高指導者、アリ・ハメネイ師(80)との会談にあった。高位イスラム法学者による統治体制をとるイランにあって、ハメネイ師は国政のあらゆる重大問題で最終決定権を持つからだ。
 会談の焦点が、対イラン制裁圧力を強めるトランプ米政権との対話の可能性を探り、中東域内で高まる緊張の緩和につなげることにあったのは、言うまでもない。その点で、ハメネイ師の発言は、かなり興味深いものだった。
 「あなた(安倍首相)の善意と真剣さに疑問を差しはさむ余地はありませんが、米大統領があなたに伝えたということに関していえば、トランプ(大統領)はメッセージを交換するに値する人物とは考えていません」
 一見すると米イランの橋渡しを図る安倍首相の調停努力を拒絶しているかのようであり、「外交成果はなかった」「軽く扱われた」と揶揄する向きもあろう。だが、現時点でそう判断するのは早計だ。
 そもそも今回の訪問は、イラン側の要請で実現した。西側諸国の首脳がハメネイ師と会談することそのものも極めて異例だ。
 日本にとってイランは原油調達先として重要な地位を占めるが、イランにとって日本は、米国の同盟国でありながらイランとも友好関係にある最重要国の一つだ。駐日大使経験者が政務担当次官に就くなど、イラン外務省で日本は高い位置付けにある。
 そんな日本の首相に会い、「託すべきメッセージはない」と伝えたことは、それ自体がひとつのメッセージだと考えるべきだろう。

イランは2015年、経済制裁の解除のため、核開発を大幅に制限することで米欧など6カ国と合意した。交渉を主導したのは穏健保守派のロウハニ大統領だったが、国内の反米強硬派から根強い反対論があったにもかかわらず、最終承認を与えたのは最高指導者だ。ハメネイ師もまた、大きな政治的リスクを背負っているのだ。

 ところが、イラン側からみれば、米国で政権が代わった途端に合意を一方的にほごにされた上、核開発の完全放棄やミサイル開発の停止など主権や防衛に関わる要求まで突きつけられ、面目を潰された。
 体制の頂点として無謬に近い存在であらねばならず、安易に米国との新たな交渉になど乗り出すわけにはいかない事情も理解してほしい-。ハメネイ師の発言には、こんな苦衷もにじんではいないか。
 その意味で、日本側の「(ハメネイ師と)会うことが大事だった」(政府高官)という評価も、あながち強がりばかりともいえない。最高指導者の言葉や、表情から読み取ったニュアンスをも含めてトランプ氏へつぶさに伝えられるのは、世界で安倍首相だけなのだ。
 ただ、イランの体制転換さえ主張する強硬派を抱えたトランプ政権が、容易に態度を軟化させるはずがないのもまた、当然である。