日本政府が「日米同盟の双務性」を理解しているとは思えない理由
日本政府が「日米同盟の双務性」を理解しているとは思えない理由
大阪でのG20サミットを前にしたトランプ大統領の「日米同盟の見直し」発言を受けて、「片務的ではない」と見解を示した日本政府。これに対し、政府が真の日米同盟の双務性を理解しているとは思えないと指摘するのは、メルマガ『NEWSを疑え!』の著者で軍事アナリストの小川和久さんです。小川さんはその理由として、政府関係者を情報筋としている新聞記事に欠けている視点があると解説。メディアに対しても、より高度な調査報道の姿勢と能力を身につけるべきと厳しく指摘しています。
日本の双務性を語るための条件
むろん、トランプ大統領の発言には経済問題で日本に揺さぶりをかけることのほか、日本の軍事大国化に歯止めをかけている米国の立場を強調して、中国、ロシア、韓国、北朝鮮などとの個別の課題でも優位に立つ狙いがあったと見ることができるでしょう。
それはともかく、菅義偉官房長官は6月27日の記者会見で次のように切り返しました。「全体としてみれば日米双方の義務のバランスは取られている。片務的ということ(指摘)は当たらない」。しかし、菅さんがいくら毅然とした態度で日本の立場を強調したとしても、日本政府が本当に日米同盟の双務性について理解しているかどうかは疑問です。 意外かも知れませんが、その証拠は朝日新聞の佐藤武嗣編集委員の記事に表れているのです。
佐藤編集委員は外交・安全保障問題を専門とする朝日新聞のエース記者の一人です。その佐藤編集委員の記事には、「米国にとっての、金銭に換えられない日米同盟の戦略的重要性」を踏まえた視点が欠落し、駐留米軍経費負担という金銭の話をしてしまっています。そこが問題なのです。
これまで取り上げてきたように、日本列島に展開する84カ所の米軍基地には、陸海空軍と海兵隊の出撃機能ばかりでなく、巨大な軍事力を支える補給・兵站(ロジスティクス)と情報の機能が備わり、アフリカ南端の喜望峰までの間で行動する米軍を支えています。 佐藤編集委員の記事は、「実際、イラク戦争では在沖縄米軍がイラクに派遣されている」と書いていますが、湾岸戦争の時に最大70万人にのぼる多国籍軍の80%近くを占めた米軍の戦闘能力を支えたのも、日本列島でした。その日本列島に置かれた巨大な戦争遂行能力に触れられていないのです。
この米国本土に近いレベルの戦略的根拠地の機能を提供できる同盟国は、ほかにはありません。それを日本は、自国の国防と重ねる形で自衛隊によって守っているのです。 自衛隊が米国の有事に救援に駆け付けられないのは、日本とドイツの再軍備にあたって米国が自立できない構造の軍事力に規制したからにほかなりません。米国と対等に戦った日本とドイツに自立可能な構造の軍事力を持たせれば、国力が回復するにつれ、それに備えなければならなくなります。米国は、その懸念を最初から封じ込めたのです。その意味では、日米同盟は非対称的な関係にあるのは事実です。
しかし、アテにできる部分を提供し合うのが同盟関係です。米国が日本に求めているのは、つまりアテにしているのは、戦略的根拠地の提供と防衛なのです。日本に代わって戦略的根拠地を提供できる同盟国がない現実を見れば、日本は最も双務性の高い同盟国と言うことができるのです。
佐藤編集委員の記事に上記の視点が欠落していることは、これまで佐藤記者が取材してきた日本の官僚機構と有識者が、世界に通用するレベルの知見を備えていない現実を物語っています。 日米同盟を駐留米軍経費負担の金額で比較しているかぎり、増額を求められるのは避けられないでしょう。そして、米国に「お世話になっている」という感覚が抜けないほどに、装備品の導入にあたってもFMS(対外有償軍事援助)を値切ることに思いが至らない状態が続くと思わなければなりません。
その状態から抜け出すには、ジャーナリズムが国際政治の教科書にある一般論から同盟関係を眺める「初心者段階」から踏み出す必要があります。事実とデータをもとにした調査報道の基本姿勢と能力を身につける以外にないのです。(小川和久)