米市場、大地震にも冷静 広がる円高懸念(NY特急便)

米市場、大地震にも冷静 広がる円高懸念(NY特急便)
NQNニューヨーク 森安圭一郎

2011/3/12 8:57
 11日の米株式市場でダウ工業株30種平均は3日ぶりに反発し、前日比の上昇幅が100ドルを超える場面があった。東日本巨大地震や大津波の影響を懸念して朝方はリスク回避目的の手じまい売りが出たが、ほどなく買い優勢に転じた。
 キャタピラーゼネラル・エレクトリック(GE)といった社会インフラの建設にかかわる銘柄が買われたのは「復興需要」(キャンター・フィッツジェラルドの米国市場ストラテジスト、マーク・ペイドー氏)への思惑からだという。
 原油先物相場の続落も上げの材料とみなされた。原油安の一因は、日本経済が停滞すれば原油需要が一時的に減少するとの見方が出たためだ。
 米テレビ局はどこも地震報道一色。それでも米市場参加者が相場への影響を極めて冷静に読み解こうとしたのは、「地震による米経済への打撃は限定的」(三菱東京UFJ銀行のニューヨーク駐在チーフエコノミスト、岩岡聡樹氏)との受け止め方が多いためだ。
 被害規模が不明な段階ではあるが、米国は対日貿易でもともと純輸入国。日本経済が減速しても、米国の輸出が極端な被害を受けるわけではない。逆に復興需要が発生すれば予想外の要因、という見方も成り立つ。

 米株式相場が「天災に動じない」歴史を持っているせいもある。1995年1月の阪神・淡路大震災や2004年末のインド洋大津波。自国を襲った05年のハリケーンカトリーナ」の時ですら、売りの反応は一時的だった。01年の米同時多発テロを例外として、90年代から00年代半ばまでの米景気は天災や突発事故で腰折れすることはなかった。

 ただ今回、当事者である日本の株式相場はそうはいかないかもしれない。伏兵は円相場だろう。11日の円相場は地震発生を受けて東京市場でいったん1ドル=83円台まで売られた後、一転して81円台後半に急伸した。

 95年の阪神・淡路大震災後は、日本の投資家があわてて外貨建て資産を売却して円に替え、本国送金したことが急速な円高を招いた。その光景はいまも古手の外為トレーダーの脳裏に焼き付いている。円が79円75銭の過去最高値を付けたのは同地震から約3カ月後。日経平均株価は同じ期間に約15%急落した。

 バンク・オブ・ニューヨーク・メロンのシニア通貨ストラテジスト、マイケル・ウールフォーク氏は、週明けの東京株式相場が荒れればリスク回避目的の円買いが入り、「円は最高値を更新してもおかしくない」とみる。
 地震の被害が徐々に明らかになるにつれ、今は落ち着いている米市場も再び不安定になる公算は否定できない。円高日本株安・世界株安のスパイラルシナリオを防げるか、各国当局の長い戦いが始まる。