南京日記1937年11月16日

南京日記1937年11月16日

   私はずっとここに残ることを決心していた。ところが、蘇州に敗退した支那軍が雪崩れ込んで酷い略奪を行なったことを聞き、決心が揺らいだ。それに例え日本軍が河から大砲攻撃をかけてこようとも、南京は迫り来る日本軍に抵抗、防衛するであろうと噂されている。

   しかし、だ。今私を頼ってしがみ付いている支那人達はどうなるだろう?ハン氏は、また給料を前借りして妻子を大急ぎ、済南を通って友人の住む青島に行かせようとしていた。しかし、そのルートは既に閉ざされていた。日本軍の侵攻を阻止する為に、支那軍が済南の鉄橋の一つを爆破したからだ。それでも日本軍は間も無く黄河に到着するであろう。それで彼は、家族を漢口に行かせるしかなくなった。家族に同行してくれる知り合いの一家を待っているところだが、一刻を争う。

  今は何かの計画を立てるのは無駄だ。ましてや商談する相手もいない。皆が荷物をまとめていた。私もその一人だ!自著の本はとっくに荷造りした。背広を詰め、更に銀製品を詰める。あといくつかの残った物を詰め、宛先を書いた紙を貼る。現金を持っていた方が良いと聞いたので、銀行にお金を下ろしに行く。何れにせよ、間も無く銀行も閉まるだろう。