“国産機”で命がけ初フライト

【瓦解する中国】
“国産機”で命がけ初フライト 「世界の企業570機購入予定」も…実態は国家主導の「義務的お買い上げ」 河添恵子


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中国のジェット旅客機C919(AP)

 「ABC時代が到来する!」
 2009年のアジア国際航空展覧会において、10分の1の模型でC919を初めて披露して以来、幾度となくこうビックマウスを放ったのは、国有企業「中国商用飛機有限責任公司」(COMAC)の関係者だ。(夕刊フジ)

 COMACが手掛ける中距離ジェット旅客機C919型機が今後、エアバス(A)、ボーイング(B)と並ぶ、世界を代表する中距離ジェット旅客機になることを高らかに宣言したのだ。

 そのC919が、予定から大幅にずれ込んだ5月5日、上海浦東国際空港からの初の試験飛行に成功したことが報じられた。記者会見で、機長はこう語った。

 「われわれ乗務員5人は全員、救命胴衣を背負った。キャビン内にはパラシュートとヘルメットも準備した。万が一、操縦不可に陥ったときのために万全の体制だった」

 79分間の空の旅は、日本人的な感覚では「命がけの初フライト」だったらしい。それでも、中国航空産業にとっては大きな第一歩。中国メディアには、「100年の夢が実現した」などの見出しが躍った。

 習近平政権が掲げる国家戦略「中国製造2025」では、「製造業の強国」を目指すとされ、航空機産業もその一翼を担っている。海外の専門家によると、C919の現状は「エンジンなど中核部品はほぼ外国製で50%程度が国産」というレベルらしい。だが、中国は高速鉄道の時と同様に、「独自の知的財産権保有する中国製」とアピールしている。

 そもそも、国際市場はC919への関心を失っている。最大の理由は、米連邦航空局(FAA)や欧州航空安全局(EASA)の型式証明を取得する目途がたっておらず、国際線旅客機として使えないためだ。

 なのに、関係者の鼻息は依然として荒い。「世界の企業23社が570機を購入予定」とも報じられた。実態は、中国国内の航空会社とリース会社による購入が大半で、国家主導による「義務的な」お買い上げでしかないのだが…。

 中国製飛行機を“空飛ぶ棺おけ”と恐れる声も以前からある。西安飛機工業公司が開発した民用プロペラ機MA60(新舟60)が、この十数年、国内以外に中南米やアフリカ、アジア諸国など短距離間で飛んでいるが、主に着陸時にトラブルが頻発しており、死者や重軽症者が出ていることから使用を停止した国もあるためだ。

 3年後の就航を目指すC919について、日本を含む先進国の航空関係者らは、「日本や欧米で飛ぶことは、少なくとも近い将来はない」と鼻にもひっかけない。

 だが、日本人駐在員や出張者が中国国内線に乗る機会は多く、途上国でも近い将来、飛ぶ可能性があるのだ。大丈夫なのか? =おわり

 河添恵子(かわそえ・けいこ) ノンフィクション作家。1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業後、86年より北京外国語学院、遼寧師範大学へ留学。著書・共著に『豹変した中国人がアメリカをボロボロにした』(産経新聞出版)、『「歴史戦」はオンナの闘い』(PHP研究所)、『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)など。