最凶ヒアリ”来襲 その恐るべき生態とは?
“最凶ヒアリ”来襲 その恐るべき生態とは?
2017年7月10日
恐るべきヒアリの生態~膨大な経済損失も…
ヒアリは、全体が赤茶色の小さなアリで、体長は2~6ミリほど。攻撃性が強く、素早く動き回る。お尻についた毒針に刺されると、火で焼かれたような痛みに襲われる。人によっては、アナフィラキシーショックを引き起こし、死に至ることもある。
ヒアリの原産地は、南米・アマゾン。1930年代以降、貨物船に紛れてアメリカに侵入し、ここ20年ほどで、オーストラリア、中国などへ、その生息域を拡大させてきた。農作物を食い荒らすだけでなく、熱に引きよせられる習性から電気回路に侵入し、停電や住宅火災を引き起こすことがある。ヒアリによるアメリカ国内の経済損失は、実に年間5,000億円と試算されている。
繁殖力も驚異的だ。女王アリの寿命はおよそ7年。毎日1.000個ほどの卵を産む。攻撃性も強く、自分の体の何倍もある在来種のアリを集団で襲い、強い毒で駆逐し生息域を広げていく。他の昆虫や動物までも襲うため、生態系そのものを大きく変容させてしまう。
侵入を許した国では、国家対ヒアリの様相を呈している。オーストラリアでは、根絶計画を策定。16年にわたる戦いを続けている。熱探知カメラを搭載したヘリで上空から地上の温度を計測。ヒアリのアリ塚がある場所は温度が高いという特性を利用して、巣を突き止め、強力な殺虫剤を散布している。これまでに投じた予算は300億円。駆逐に失敗すれば70年で最大5兆円の被害が見込まれるとしていて、危機感は極めて強い。
“最凶アリ”の侵入ルートは? 水際阻止の難しさ
およそ100匹のヒアリが発見された神戸港。ヒアリが見つかったのは、海外から輸入されたコンテナを船から陸揚げし、一時的に保管するエリアだった。現場責任者の濵上真一さんは「普通のアリと違って、動きも速くて赤っぽいアリだったので、まさかと思った」と、その時の様子を話す。その後、ヒアリは名古屋港のコンテナ付近からも発見された。実はこれらのコンテナには共通点があった。いずれも中国・広東省の南沙港を出港した船に積まれていたのだ。南沙港は、主に自動車部品や家電を輸出する中国でも有数の貿易港。日本の22の港との間で、コンテナの定期便が就航している。現地を取材すると、周辺でヒアリの被害が相次いでいることが分かった。港近くの村では、農作業に支障をきたすほどで、住民は「10年ほどの間に一気に広がった」と話す。
いま日本では、コンテナに潜んだ外来生物の上陸を未然に防ぐことは難しいのが現実だ。わずか数ミリのヒアリ。そのチェックは、民間業者の目視に委ねられている。濵上さんは、「1日1,000本以上の出入りがあるなかで、念入りに1本1本全部やることは、物流に支障をきたす可能性がある。これだけ大きなものを扱っているので、やはり小さな生物を、この中で見つけ出すことは難しい一面もある」と、水際で食い止める限界を訴える。
あなたがもしヒアリを見つけたら…
現時点では、住宅街で発見されたヒアリはいない。しかし、今月(7月)4日、大阪港では繁殖能力を持つ女王アリが確認された。今回神戸港での調査を行った国立環境研究所の五箇公一さんは、見つかっているのは港の中であり、生息範囲が拡大している証拠はないとした上で、「女王アリと働きアリがセットで動いていることが分かった。そして、そういうセットで動いているということは、港に着いた集団が営巣できる場所まで移動できれば、繁殖を繰り返して分布を拡大する。最悪のリスクが現実味を帯びてしまった。」と警鐘を鳴らす。
ではもし、私たちがヒアリを発見した場合、どのように対処すればいいのか。
万が一、ヒアリに刺された場合は、アナフィラキシーショックになる恐れがあるため、独りになってはいけない。具合が悪くなったら、身近にいる人に助けを呼び、119番をかけ、すぐに病院に必ず行き適切な対処を受けることが重要だ。
私たちの暮らしのなかでは、避けられないリスクだと指摘する。
「日本の自然というのは、島国の中で、人間に優しい環境だった。しかし、今、われわれ自身が生活スタイルを変え、身近な環境を改変していく中で、危険な外来生物も入り込みやすくなった。さらに分布が拡大しやすくなっているリスクに対して、わたしたちの生活スタイルを見直していくことを考える必要があるかもしれない。」