「非国民!」と罵声、理不尽すぎる〝同名炎上〟 思わぬ風評被害…かつてはオウム真理教絡みのトラブルも

「非国民!」と罵声、理不尽すぎる〝同名炎上〟 思わぬ風評被害…かつてはオウム真理教絡みのトラブルも 

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記者会見で和歌山の同名企業との「誤認解消」を訴える山本化学工業の山本富造社長=大阪市生野区(同社提供)

 不祥事を起こした企業などと同じ社名という理由で、思わぬ〝風評被害〟を受けるケースがある。社員が終日電話対応に追われたり、心ない暴言を浴びたりすることも。無秩序な「同名炎上」は、いつ、どこでも起こりうる。巻き込まれた当事者に打つ手はあるのか。(細田裕也)
記者会見で「全く無関係」

 「和歌山の会社とは資本関係も血縁関係もなく、全く無関係です」。6月26日、水着製造などを手がける「山本化学工業」本社(大阪市生野区)。山本富造社長が「誤認解消のお願い」と称した緊急記者会見を開き、「報道のたびに苦情が増えていく」と困惑した表情をみせつつ、「大切なのは会社の信頼性。少しでも多くの人に理解いただきたい」と要請した。

 「和歌山の会社」とは、和歌山市の大手原薬メーカー「山本化学工業」(山本隆造社長)を指す。同22日、風邪薬の成分として使用される解熱鎮痛剤アセトアミノフェン(AA)の製造過程で、安価な中国製AAを無届けで混入し、出荷していた問題が発覚した。和歌山県が28日、医薬品医療機器法に基づき、22日間の業務停止命令と業務改善命令を出している。

 大阪の山本化学工業とは偶然にも漢字表記も含め同じ社名だったため、問題が報じられた22日以降、苦情・批判が電話やメールで大阪の山本化学工業に寄せられた。同社は当初、「和歌山の山本化学工業とは一切関係がない」と異例のコメントを発表。一部メディアが取り上げたものの歯止めにはならず、ついに26日、記者会見を開くに至った。

 記者会見で和歌山の同名企業との「誤認解消」を訴える山本化学工業の山本富造社長=大阪市生野区(同社提供)
反論の機会なく
 大阪の山本化学工業のホームページ閲覧数は一時、平常時の100倍以上に達し、苦情・批判の電話、メールは6月中に千件を超えた。社員が対応に追われ、心を痛めることもあった。

 最たる例が「一方通行の批判」(担当者)。「コンプライアンス(法令順守)はどうなってるんだ」と電話口で怒鳴られ、ときには無言電話も。メールでは、送信者のアドレスが加工されたものもあり、反論の機会が与えられない状況がストレスになった。
 同社は、英スピード社製の競泳水着「レーザー・レーサー」に対抗する高速水着の開発で話題を集めた。その後も、ロンドンやリオデジャネイロ五輪に出場したアスリートに練習用水着を提供しており、2020年東京五輪パラリンピックでの金メダル獲得を目標に選手のサポートに力を入れている。

 大事な時期に発生した同名炎上。山本社長は会見で「名前だけで一緒にされてしまうのは、スポーツの世界でも信頼を失うことになる」と危機感を募らせた上で、こう語気を強めた。
 「選手のパフォーマンスを十分に引き出す製品だったとしても、(勘違いされ)『そこの会社か』という理由で(選手との関係が)立ち消えになることもあり得る」

 記者会見で和歌山の同名企業との「誤認解消」を訴える山本化学工業の山本富造社長=大阪市生野区(同社提供)
東京五輪ロゴで騒動
 2年前、ベルギーの劇場ロゴに似ていると指摘され、その後、白紙撤回に追い込まれた東京五輪の旧エンブレムを手がけたデザイナーがいた。このとき、同名炎上が関西で起きた。
 そのデザイナーが立ち上げた東京のデザイン会社は「MR_DESIGN」。騒動の際、悪質ないたずら電話などの被害を受けたのが、大阪府東大阪市のデザイン会社「ミスターデザイン」だ。

 代表の勝田真規(まさき)さん(47)によると、多い日には1日10件以上の電話が殺到。「非国民」「代表と電話を今すぐ代われ」とののしられることもあり、「情報社会の恐ろしさを味わった」と振り返る。
 フェイスブックで被害を訴え、複数の友人が拡散したため騒動は沈静化した。勝田さんはソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)で情報発信するメリットを挙げ、「正しい情報を届ける場所を作ることが重要だ」と話した。
「また大きな地震が…」温泉キャンセルも
 昨年4月の熊本地震でも風評被害があった。

 熊本県八代市にある「日奈久(ひなぐ)温泉」。約600年の歴史があり、俳人種田山頭火(さんとうか)が愛した温泉としても知られる。
 死者が出た熊本市益城町(ましきまち)、南阿蘇村などと比べ、地震による大きな被害はなかったが、地震を引き起こした活断層の1つの「日奈久断層帯」と同名だった影響で、地震直後は旅館やホテルのキャンセルが相次いだ。

 「また大きな地震が来る、との噂が一人歩きしていた」と振り返るのは、日奈久温泉旅館組合の組合長で、老舗旅館「金波楼(きんぱろう)」の松本啓佑専務(37)。組合は地震後、ホームページなどで安全に関する情報発信を続け、訪れた観光客もSNSで感想を書き込むなどして呼応したという。

 熊本県民に被災者が多い影響もあり、地震前の客足が完全に戻ったわけではないが、松本専務は「少しずつではあるが、回復傾向にある」と手応えを感じている。
専門家の助言は…
 数々の凶悪事件を起こしたオウム真理教が平成12(2000)年、団体名称を「アレフ」に変更した際、同名の企業などに悪影響が生じたケースもあった。

インターネットなどの炎上問題に詳しい国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(東京)の山口真一講師は「(巻き込まれる)企業側には何の落ち度もなく、事前に防止することは難しい。できる限り早く、適切に噂を否定する情報発信を心がけることが重要だ。炎上や祭りと呼ばれるネットの現象に関わる人には、事実誤認による正義感などではなく、楽しいから加わっている人が一定数いることを認識した上で対応する必要もある」と話している。