ミセス・ワタナベ 年初来最大のドル売り

ミセス・ワタナベ 年初来最大のドル売り
編集委員 清水功哉

2017/8/31 16:03 日本経済新聞 電子版
 ドルの対円相場が約2週間ぶりの高値(1ドル=110円44銭)を付けた30日の米国市場で、外国為替証拠金取引(FX)を手掛ける日本の個人投資家(通称、ミセス・ワタナベ)が巨額のドル売り・円買いを出したもようだ。有力FX会社のデータを集計すると、同日までの1週間のドル売り額は年初来最大となった。30日の米市場では強めの米経済指標発表を受けてドル上昇に弾みがついたが、ミセス・ワタナベの間ではドル高の持続性に懐疑的な声も多く、売りの好機と受け止められたようだ。

 FX投資家による巨額のドル売りは、有力FX会社4社(GMOクリック証券、外為どっとコムセントラル短資FX、マネーパートナーズ)のデータを集計した結果、確認された。それによると、30日時点のドル買越残高(対円)は、約25億2100万ドルで1週間前と比べて約11億9900万ドル減った。これが1週間のドル売りに相当し、6月21日までの1週間のドル売り(約11億4500万ドル)を上回り、年初来最大となった。ドル売りの多くは、ドル高が進んだ8月30日に出たものとみられる。

 30日までの1週間の動きで特徴的なのは、利益を確定するため既存のドル買いポジションを解消する動きより、新規のドル売りポジション形成の方が多かった点だ。ドル売りのうち、ドル買い・円売りポジションが減った分が約5億3600万ドルなのに対して、ドル売り・円買いポジションが増えた分は約6億6300万ドルだったからだ。今後のドル相場下落で利益を得ようとする取引が目立ったということだ。

 背景には、年内の米利上げの有無が依然不透明なほか、米政権の混乱や債務上限問題などもあり、ドル高が円滑には進みにくくなっていることがある。市場でも「9月1日発表の米雇用統計の内容にもよるが、ドルは来週以降、再び下落基調に戻る可能性が高い」(JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏)との声が聞かれる。こうした相場観に基づき、今後もドルが上がる局面ではミセス・ワタナベによる逆張りの売りが出てきそうで、ドルの上値を重くする要因になる可能性がある。