給油所閉鎖、EV普及を加速も 20年で半減

給油所閉鎖、EV普及を加速も 20年で半減

 「環境にやさしい」をキーワードに、欧米や中国で電気自動車(EV)への転換が急速に進む。世界に先駆けて環境に配慮してきた日本だが、経済を支える自動車産業を考えれば、EVへ一気にカジを切ることはできないでいる。だが政策ではなく「ガソリンスタンド(給油所)不足」という思わぬ事情に端を発し、地方からEVの波が押し寄せてくることになるかもしれない。(古賀雄大
給油所の相次ぐ閉鎖でガソリン車は不便に?(高知県内)
給油所の相次ぐ閉鎖でガソリン車は不便に?(高知県内)

 香川県に住む45歳の男性は今春、日産自動車のEV「リーフ」を購入した。20年以上も軽自動車を乗り継いできたが、EVにしたのは「近くのガソリンスタンドがなくなってしまった」ことが大きな要因だという。

■寝てる間に充電
 自宅から車で5分のところにあったスタンドが昨年、閉鎖。車で約20分かけて給油しに行かねばならなくなった。その点、リーフなら簡単な工事をするだけで自宅でいつでも充電できる。男性は「寝ている間に安い夜間電気料金でフル充電できて便利」と満足げだ。
 経済産業省の調査によると、2016年度末の全国の給油所の数は3万1467カ所だった。最も多かった1994年度の6万421カ所からおよそ半減。毎日3~4店が閉鎖している計算だ。燃費効率の高い車種の普及でガソリン需要が減っている。それが給油所の経営を圧迫し、閉鎖が止まらない。
 政府は30年までにEVやプラグインハイブリッド車(PHV)の新車販売に占める割合を20~30%に増やす目標を掲げている。三菱総合研究所の杉浦孝明主席研究員は「給油所が消える地方からEVのニーズが高まる可能性がある」とみる。

■スタンド2.9万基
 足元ではEVは新車販売の0.6%程度。ハイブリッド車など環境に優しい車の選択肢はEV以外にも多い。充電スタンド網の充実や、EVの充電1回あたりの走行距離の長期化といった課題もあり、長距離運転に不安を感じる人も多い。
 給油所の減少がすぐにEVの増加に結びつくとは言い切れないが、課題とされてきた道路沿いなどで充電できる「充電スタンド」は着々と増えている。地図大手のゼンリンによると、7月末時点の充電スタンドは全国で約2万9千基。1カ所に複数の充電器があるケースもあり、単純に比べられないが減り続ける給油所の数を年内にも上回りそうだ。
 政府はEVを増やそうとしているが、想定以上に速く普及すると政策担当者は思わぬ問題で頭を痛めそうだ。税収への影響だ。

 ガソリンには1リットルあたり48.6円の揮発油税が課せられており、17年度には総額2兆3940億円が計上された。国と地方の税収総額の2.4%を占める。相続・贈与税(2.1%)や酒税(1.3%)を上回る。
 EVが増えればガソリン需要が減り、揮発油税も減収となる。別の財源を探すといってもEVの動力源は通常のプラグから充電できる電気なので、EV用にだけ課税することは難しい。
 EVは自動車重量税も一部免除されており、普及すればするほど税収が減る。
 17年度の与党税制改正大綱は自動車取得税自動車重量税について、「受益者負担としての性格、応益課税の原則、市場への配慮等の観点を踏まえる」とした。大きな税収には政府・与党だけでなく、自動車メーカーなどの関心も強い。
 ガソリン車からEVへの転換が思いのほか速いことも想定し、政策や制度設計を早急に考えねばならないかもしれない。