朝鮮半島有事カギ握るマティス国防長官「3原則」と気になるトランプ大統領の攻撃開始の敷居の低さ

朝鮮半島有事カギ握るマティス国防長官「3原則」と気になるトランプ大統領の攻撃開始の敷居の低さ

http://www.sankei.com/images/news/171122/wor1711220002-n1.jpg
北朝鮮の労働新聞が9月16日掲載した弾道ミサイル「火星12」の発射写真(コリアメディア提供、共同)

 米CIA(中央情報局)のジョン・ブレナン前長官は先月、「朝鮮半島で軍事衝突が起こる可能性は20~25%だ」と発言した。日本でも「朝鮮半島有事が現実のものとなる日が極めて近い。米軍の攻撃は今年末から来年早々だ」と主張する人たちが増えてきている。(夕刊フジ)
 小野寺五典防衛相も10月28日、「残された時間は長くはない。今年の暮れから来年にかけて、北朝鮮の方針が変わらなければ、緊張感を持って対応せねばならない時期になってきた。軍事的な衝突になった場合の備えを日米韓3カ国で議論する必要がある」と発言している。
 発言の目的は、北朝鮮の脅威と日米韓の具体的な備えを強調することにより、北朝鮮の無謀な行動を抑止することであろう。
 北朝鮮は、9月3日の「6度目の核実験」と、同月15日の「火星12」とみられる弾道ミサイルの発射を最後に、米国やわが国に対する大きな軍事挑発を行っていない。背景には、米国の軍事的脅威に恐怖を抱いた可能性や、中国が北朝鮮に今までにない強い圧力をかけている可能性、北朝鮮に対する国連の制裁が効いている可能性、次なる弾道ミサイルなどの実験準備に時間がかかっている可能性がある。
 いずれにしろ、この静かな状態がいつまで続くかである。
 私が朝鮮半島有事に関して注目するのは、ジェームズ・マティス国防長官の冷静で論理的な「マティスの三原則」(=筆者が命名)である。

 三原則とは、(1)すべての選択肢がテーブルにある(2)問題の解決は外交などの非軍事的手段で達成するよう努めるが、非軍事的手段で解決できなければ、最終的手段としての軍事力を使用する(3)米国が軍事力を行使するのは、北朝鮮が米国本土やグアムなどに脅威を与えるか、米国の同盟国である日本や韓国に脅威を与えた場合-だ。
 結論として、米国の基本ラインは「北朝鮮がこのまま米国などに脅威を与える軍事挑発(=グアムや米本土に向けた弾道ミサイルの発射、核兵器の空中爆発など)をしなければ、北朝鮮に対する先制攻撃はしない」と、私はみている。
 しかし、米国の最高司令官はトランプ氏である。彼は、オバマ前大統領の戦略的忍耐を徹底的に批判し、「俺が決断し、俺が決着をつける」と宣言している。攻撃開始の敷居は低いとみるべきだ。
 著名な戦略家、エドワード・ルトワックが重視する「戦うことをいとわない戦士の文化」を持つトランプ氏は、先制攻撃の大義名分となる北朝鮮の軍事挑発を待望している可能性さえある。

 ■渡部悦和(わたなべ・よしかず) 元陸上自衛隊東部方面総監、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書に『米中戦争そのとき日本は』(講談社現代新書)など。