新幹線どころか飛行機よりも速い「ハイパーループ」
夏に続報…あるかも?
みなさん、「ハイパーループ」という次世代交通システムをご存知でしょうか? 大きなチューブの中の空気を減圧して、人や貨物の入ったカプセルを音速に近いスピード(約1200km/h)で移動させるというものなのですが、概念自体は19世紀の頃からありました(2013年にイーロン・マスクが現代化して再提出)。
【記事の全画像】新幹線どころか飛行機よりも速い「ハイパーループ」、日本にもくるの? その可能性を中心的人物にインタビューしました
ここまでは割と知っている方も多そうですが、ハイパーループの最大の特徴はスピード(東京大阪間が20分ちょい)ではなく経済性だということは、あまり知られていないかと思います。
そんな「クルマ・船・飛行機・鉄道に続く5つめの移動手段」とも呼ばれているハイパーループの実現を目指す「ハイパーループ・トランスポーテンション・テクノロジーズ(HTT社)」のCEO、ダーク・アルボーンさんにインタビューする機会があったので、お使いのガジェットからハイパーループの経済性まで、いろいろ聞いてみましたよ。
名前:ダーク・アルボーン(Dirk Ahlborn)
ドイツ出身の起業家で、クラウドソーシングという新しい会社のあり方に精通している。2013年にイーロン・マスクがハイパーループ白書を公開した際は、そのノウハウを活用してHTT社を共同設立&CEOに就任。以来、HTT社のCEOとして世界中を飛び回りながら、ハイパーループの実現のために奔走している。
──アルボーンさん、やはりまずはギズということで、お使いのスマホの機種を教えてください。
ハハハ、Pixel 2 XLを使っているよ。
──なぜPixel 2 XLに?
私は純粋なAndroidが好きでね。あとGoogleのモバイルネットワークサービス「Google Fi」を使っているんだが、そいつと相性が良いんだ。Wi-Fiも早くて助かってる。
──なるほど。接続性が大事なんですね。
そう。一応iPhone Xも持っているけど…ノー。
──ではHTT社のチームはどうでしょう。どのようなガジェットを普段使っていますか?
そうだな、なにをガジェットと呼ぶかにもよるけど、ARとVRはよく扱うよ、マイクロソフトのHoloLensやHTCのViveとかね。ODGのスマートグラスもエキサイティングだと思う。他にも自社で開発しているものもあるんだが、これについては後で話そう。
──あなたがハイパーループの実現に取り組もうと思ったきっかけはなんですか?
私は起業家だから大きな問題に取り掛かることが好きなんだ。古い交通システムは現代のもっとも大きな問題のひとつで、「これはちょうど良い」と思った。ちょうどその頃、私はクラウドプラットフォームを使った新しいビジネスモデルを作っていたんだ。そこでプラットフォームのコミュニティーに「やるべき?」と聞いてみたら、「やるべき。むしろ参加したい」と大反響だったので、HTT社を設立したよ。
──「交通システムの問題」とは、どういったものでしょうか?
車道の渋滞もそうだが、実は、今世界中で稼働している地下鉄や電車はそのほとんどが赤字なんだ。ニューヨークの地下鉄には毎年22億ドル(約2350億円)の税金が投じられているし、ドイツの鉄道ネットワークにも220億ユーロ(約2.8兆円)の税金が投じられている。そして東京も、詳しい数字は知らないが同じ状況にあるだろう(編集部:日本には黒字の路線もあります)。
──おぉ…。鉄道はなぜこのような状況に陥っているのでしょうか?
まずコストが高すぎることと、ビジネスモデルが200年も変わっていないことがあげられる。コストだけど、電車を走らせるためのエネルギーのうち90%は空気抵抗に打ち克つために使われているんだ。しかも、空気抵抗は速度に対して指数関数的に増加するから、速く走らせれば走らせるほどエネルギーコストがかさんでしまう。
──さきほどの、「ビジネスモデルが200年も変わっていない」について教えてください。
今の鉄道は、200年前にどこかの誰かに「交通システムが収益を上げるベストな方法はチケット」と決められてからそのままなんだ。でも、一度立ち止まって考えみてみたら今ベストな方法は違うかもしれない。だからHTT社ではすべてのことに「なぜ?」をぶつけて、どうやったら今より良くできるかを考えている。
──具体的にはどのようなことを考えているんですか?
一言でいえば「サービス」だね。今サービス業界は何十億ドルも使って人を呼びよせているけど、我々の場合は乗客という形で人が集まってくる。だから、これを活かすかたちで乗客の時間を収益化することを考えいる。
たとえば、その人の生活を楽にするものだったり、エンターテインメントだったり、または家での作業を減らすものだったりというふうにね。もし自動運転の車が食事を提供してくれたら乗りたくなるだろう? そういう体験を売るんだ。
──なるほど。ARやVRはここで活きてくるのですね?
その通り。ハイパーループのカプセルには窓がないんだが、我々はこの問題をAugmented Window(AR窓)で解決する予定だ(窓枠に埋め込まれたスクリーンが視点に合わせた映像を映すというもの)。このAR窓を活用して、たとえばカプセルの外をジュマンジの風景にしたり、スパイダーマンとヴェノムが戦っている風に見せたりすることができる。
そして、我々はこれをプラットフォーム化し、他の会社にもこの上にいろいろ構築できるようにする予定だ。そうすることで、常にイノベーションがある状態になるのでは、と考えている。
──HTT社は世界中の政府と建設の契約を結んでいますが、アルボーンさんはどこに建設したいとお考えですか?
そうだな、まずそもそも、我々は直接的に建設することを考えていないんだ。HTT社はハイパーループの技術を開発し、それを各国政府と会社にライセンスする方式を取っている。さまざまな企業や方々と協力しながらハイパーループ建設するというわけだ。だから、ハイパーループはどこにでも建設できる。
──どこにでも、ですか?
そう。ハイパーループは鉄道のもつ赤字問題がないがゆえに、乗客のいる場所でさえあれば、どこに建設しようと理にかなっている。経済的にも独立しているから、財政や政権交代にも左右されないし、元手も8~12年で回収できる計算だ。だから強いていえば、我々はハイパーループを「今」必要としている所を優先しているよ。インドネシアとかね。
──アメリカに建設する際は、やはりイーロン・マスクや彼のボーリングカンパニー社(トンネル掘削会社)と協力するのでしょうか?
その可能性はあるが、それは我々が誰とでも協力する姿勢を取っているからだ。彼のボーリング・カンパニー社の事は知っているし、彼のSpaceX社が「ハイパーループのデザインコンペ」で盛り上げてくれているのも嬉しく思う。でも根本的には我々は完全に独立しているよ。
──ちなみに、日本にも建設される可能性はあるのでしょうか?
もちろん。日本にはすごい会社があって、鉄道も世界をリードしている。それだけでなく、すごい技術を持っているからね。まだ非公式だが、すでに協力しているところもあるんだ。そういえば、新幹線も乗ってみたよ。
──そうなんですね。ちなみに、新幹線はどうでしたか?
すごかったよ。試験では500~600km/hを出したと聞いているし、それもすごいと思う。でも問題もあると感じたんだ。たとえば、私は日本語がわからなくて乗車するのに手間取ったんだ。こういうことも含めて、技術をうまく使えばあらゆることを個々に合わせ、より良い乗車体験が実現できると思うし、そうしていきたい。
ははは、イェス。
──乗客はシートベルトを着用する必要がありますか?
安全性はとても大事だからね。ルートと安全規制にもよるけど、多分イェス。
──もし何らかの理由でカプセルがルート半ばで停止した場合、乗客は降りられますか?
イェス。カプセルが通るチューブは減圧してるんだが、停止した場合はその区分の両端を閉じて気圧を戻すんだ。その後、カプセルの前後にある非常口を開くことで、そこから降りられるよ。
もうちょっと調べてみたよ、ハイパーループ(HTT社)
・想定利用料金:0~30ドル(約0~3000円)
・カプセル1台に乗車できる人数:28~40人
・カプセルが駅に来る頻度:40秒に1本
・カプセル内装:提供体験ごとにカスタマイズ
・実物大のカプセルが建造中
・チューブの利点:
→カプセルの運行が天候に左右されない
→ソーラーパネルを貼ることでエネルギー源に
→余った電力を売ることも可能(経済性にプラス)
・協力関係にある国(時系列):アメリカ、スロバキア、アブダビ、フランス、チェコ、インドネシア、韓国、インド、インドネシア
──インタビューは以上になります。いろいろお答えいただき、ありがとうございました。ちなみになんですが、試作機を見させていただくことって可能ですか?
うん、フランスのトゥールーズにある施設においでよ。
──えっ、お… あ、ありがとうございます!
8月~9月がいいと思うよ。
ワオ。ハイパーループはもう実現されるか否か、の段階を過ぎて「いつどこで実現しようか」という話になっているようですね。日本の皆さんはいかがでしょう。ハイパーループ乗ってみたいですか? 天気にも財政にも左右されない超高速な次世代交通システム、一考の価値ありとみました。
アルボーンさん、インタビューに答えていただきありがとうございました!
From Gizmodo Japan: Thank you for talking with us, Mr. Ahlborn!!
Image: Hyperloop Transportation Technologies
Photo: 小原敬樹