糖質制限で「老ける」「寿命が縮まる」… 東北大が研究
糖質制限で「老ける」「寿命が縮まる」… 東北大が研究
短期的な痩身効果という点では糖質制限に勝るダイエット法はない。それは多くの専門家の一致した見方で、身を以てその効果を経験したという方も多かろう。問題は、長期に亘って糖質制限を行った場合の安全性が科学的に証明されていないこと。故にこれまで、医療関係者の間では、リスクの有無を巡って議論が交わされてきたわけだが、今回、糖質制限の危険性を示す決定的とも言える研究結果が発表された。
研究を行ったのは、東北大学大学院農学研究科の都築毅准教授らのチーム。マウスを20匹ずつのグループに分け、片方には脂質、糖質、タンパク質のバランスが日本食に近い「通常食」、もう片方には、炭水化物を脂質とタンパク質に置き換えた「糖質制限食」を与えたところ、両グループには様々な面で差が現れたという。まずは、寿命。通常食のマウスは多くが平均寿命より長生きしたが、糖質制限食では平均寿命まで生きられなかった個体が多く、それらは平均寿命より20~25%短命だった。また、老化の進度にも顕著な差が。糖質制限食の個体は背骨の曲がりや脱毛などがひどく、通常食に比べて30%も早く老化が進んだというのである。加えて、糖質制限食では学習能力の低下も見られたという。
「日本農芸化学会で今回の実験結果を発表したところ、反響は上々でした。糖質制限が体に良くないことに皆さん薄々気付いていたらしく、“やっぱりか”という反応でしたね」
実験を行った東北大の都築准教授はそう語る。
「体内で異常なタンパク質が生まれる確率は加齢とともに上がる。糖質制限には、タンパク質分解を抑制する働きがあり、特に高齢者の場合、異常なタンパク質が分解できなくなり、細胞にゴミとして蓄積される。このゴミのせいで細胞にストレスがかかり、結果的に老化を促進させるのです。この現象は、肌や小腸など、代謝が活発な部位で特に顕著に現れます」
通常食と糖質制限食のマウスを比較すると、血液中に含まれるある物質の量に差違があったという。それは、インターロイキンシックス(IL-6)という物質で、
「その数値が高いとがんや糖尿病などの発症率が上がるのはもちろん、体全体の炎症を促進させる物質として知られています」
と、都築准教授。
「IL-6こそ老化を促進させる物質と言って良く、その数値が低ければ低いほど長寿、高ければ高いほど早く死ぬと言われています。実際、百寿者の方はこの数値が極端に低いことが分かっている。今回の実験では、糖質制限グループはこの数値が通常食グループの1・5倍もあった。このことも、糖質制限グループが短命だった要因の1つでしょう」
糖質制限が痩身に繋がるメカニズムは、簡潔に言えば次の通りである。
糖質摂取をカットすると、脳や筋肉の活動を維持するため、体内でケトン体という代謝物が生成される。ケトン体は脂肪細胞に蓄えられた中性脂肪が分解される形で生成されるため、体重減少に繋がるわけだ。このメカニズムそのものに、老化が促進される要因があるのでは、と指摘するのは、愛知みずほ大学学長の佐藤祐造氏である。
「ケトン体の量が多くなると血液が酸性に傾き、ひどくなると高ケトン血症になり、骨や筋肉など体全体の細胞を弱め、さびつかせることになります。これが老化を引き起す一因になっているのではないか、と考えます。高ケトン血症になると、最悪、亡くなってしまうこともあるのです」
「週刊新潮」2018年4月5日号 掲載