「プーチンは北極海で日本と手を組みたいんだ」「官僚や議員の質が落ちた理由が分かるかい?」

森喜朗元首相=後編=「プーチン北極海で日本と手を組みたいんだ」「官僚や議員の質が落ちた理由が分かるかい?」

インタビューに答える森喜朗元首相=7日、東京・赤坂(酒巻俊介撮影)
インタビューに答える森喜朗元首相=7日、東京・赤坂(酒巻俊介撮影)

 国際情勢の展開が早くなっている。6月12日に米朝首脳会談が予定されてるけど、トランプ米大統領北朝鮮の戦略にはまっている感じもするよね。非核化と引き換えに在韓米軍撤退を求められたら、応じかねないよ。そうなると日本の防衛ラインは38度線から対馬海峡まで一気に南下する。それでも日本は軍備がいらないと言えるのかな。
 北東アジアで一番危険な核保有国はどこですか。中国じゃないか。朝鮮半島が非核化されても日本は常に中国の核にさいなまれることになる。こうした事態にどう備えるのか。こういう議論を党首討論で大いにやればいいんですよ。
 もう一つはロシアだ。北朝鮮情勢に応じてどう動くか。ロシアは今まで踏ん切りがつかなかった。昨年、プーチン大統領に会った時に「6カ国協議はあまり積極的じゃなかったじゃないですか」と言ったら、プーチン氏は「ロシアからすれば、北朝鮮にはあまり変化してほしくなかった」という感じのことを言ってましたね。
 だが、北朝鮮の生殺を米中が握るとなると話は別だ。ロシアはどう関わっていくのか。プーチン氏の心底にあるのは、中国と長い国境で接していることへの怖さですよ。彼はこうも言ったんです。
 「米国が北朝鮮を攻撃しても米国は遠いから、北朝鮮国民2000万人の多くは国境を越えてロシアにやってくるが、その半分は日本に行くぞ。私も北朝鮮がこのままでよいと思っていないが、米国にやらせた後はどうするのか。日本に構えはできているのか?」

 それにプーチン氏には「日本が米国に追従している」という不満もある。だから2年前に会った時、彼にこう言ったんですよ。「日本の周りは核を持った国ばかりだ。彼らが核を使用した時にあなたは助けてくれるのか」とね。
 「ん?」という反応だったから私はこう言ったんです。
 「助ける義務はないですね。日露には平和協定もないですから。でも米国は同盟国として助けてくれる。言葉はよくないかもしれぬが、日本は米国に追随せざるをえないところがある。そこをよく考えてくださいよ」
 プーチン氏は北極海の開発を日本とやりたがっているんだよ。安倍晋三首相にも「北極海を使ってほしい」と言っている。日本の船はスエズ運河喜望峰を回って何カ月もかけて欧州に行くけど、北極海を通れば1週間で行ける。中国が北極海にどんどん進出していることもあって、日本と手を組みたいんですよ。
 安倍さんは24日から訪露してプーチン氏と会談するよね。9月にも会うし、アジア太平洋経済協力会議(APEC)などを含めると今年だけで結構な回数会うことになる。ロシアとの関係は大事なんです。対応を誤ってはいけない。
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 国際情勢がこんなに緊迫しているのに、国会はまともな議論をほとんどやっていないじゃないか。野党は「モリ・カケ」ばかり。こんなことをやるために国会議員になったのかね。

 国会議員や官僚の質が落ちたのは、なぜだか分かるかい?
 国民民主党共同代表の玉木雄一郎さんは財務官僚、大塚耕平さんは日銀出身だよね。ほかにも官僚出身者はいるが、みな東大や京大などを出て将来を嘱望されて官僚になったんでしょ。
 ところが、入省後、上司にくっついて国会回りをするけど政治家の前では何を言われても「はい」。政治家が水を「焼酎だ」といえば、役人は「先生が焼酎だとおっしゃるなら、そういうお考え方に沿って持ち帰って対応させていただきます」となる。役所に帰って上司に「これは日本酒だ」と言われると、今度は政治家に「先生のおっしゃる通りだと思いましたが…」とへ理屈をこねる。
 玉木さんたちもそんな先輩官僚をみて疑問を持ったんじゃないかな。でも主義・主張や政策を実現するために政治家になったわけじゃないから、何をやりたいのか、はっきりしない。
 昔は官僚で国会議員になるのは最低でも局長級だった。そこまで待てなくなったんだな。だから役所もいい人材がだんだんといなくなって…。これは日本の致命的な欠陥だと思うよ。

 立憲民主党代表の枝野幸男さんについても一言。彼は元は社会主義者でしょ。彼だけじゃないけど、自分の過去を暴かれたくないから政権の「いま」ばかりを追及する。それで野党は政権を取ったけど失敗したじゃないか。その反省もない。あまりにも定見がなさすぎるよ。
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 自民党議員の質も悪くなったと認めざるを得ないな。「魔の3回生」と言われてるんだろ。その半分は選挙のことしか考えていない。後は「寄らば大樹」で自民党にさえいれば何とかなると思っている。
 僕らの若い頃は、自民党にいても、いつ首をはねられるかわからなかったから自己研鑽(けんさん)が必要だった。かつては部会長よりも副部会長や委員会理事になる方が大変だったんだよ。
 この前、前川喜平前文部科学事務次官の講演について、自民党の文科部会長が、文科省を通じて教育委員会を調べたことがあったよね。役人にはやってよいことと悪いことがある。与党の政治家が、そんなことも知らずに役人にやらせるからマスコミにたたかれるんですよ。

 国際会議での振る舞いもなってない。5月17日に「太平洋島(とう)嶼(しょ)国・日本地方自治体ネットワーク」設立会議があったでしょ。政府・自民党からも代表が来てたけど、自分の挨拶が終わったらさっさと帰っちゃう。天皇陛下が会われる外国の賓客なんだから最後までいるのが礼儀でしょ。これでは政治家が官僚に信用されなくなるわけだ。経済界からも信用されない。支持団体からも信頼されない。その結果、選挙が弱くなる。
 同じことは経済界にも言えますよ。経団連のトップが発言してもマスコミが一斉に取り上げることはめったになくなっただろ。大企業の社長もサラリーマン化してるんじゃないかな。
 いずれにせよ、ここまで日本を取り巻く環境が急変してるんだから、与野党ともに国会で真剣に議論しなくちゃいけない。この先の政治決断で日本の運命が決まるかもしれないんだよ。(田北真樹子)