訪日客の本音は? 釜山発・国際フェリーで聞いてみた 九州沖縄 in Asia ようこそお隣さん

訪日客の本音は? 釜山発・国際フェリーで聞いてみた
九州沖縄 in Asia ようこそお隣さん

 出港を待つフェリーの船内では、慣れた様子の乗客がテーブルを囲んで酒盛りを始めていた。6月の週末、午後8時。韓国・釜山から博多港に向かう定期国際フェリー「ニューかめりあ」に、同い年の友人同士で乗船していた25歳の女性は「日本には10回以上行っている」と胸を張った。「目的はヒーリング(癒やし)。ラーメンやスシを食べて、温泉に入る。疲れたら週末に行くの」
ニッポン大好き韓国人にフェリーの中で聞いてみた
 博多と釜山を結ぶ定期国際フェリー。乗客の9割を占める韓国人訪日客のうち約3分の2はリピーターだ。旅慣れた親日家の目に映るニッポン・キューシューの魅力とは?
 

リピーター7割 お目当ては食・癒やし

 同船の乗客は年間約17万人。9割が韓国人訪日客だ。博多―釜山を往復する船内で59人に話を聞くと、訪日が初めてという人はわずか16人。裏を返すと、残りの約7割は複数回日本を訪れているリピーターだ。
「展望サロン」で持ち込んだ食材で宴会をする韓国人観光客
「展望サロン」で持ち込んだ食材で宴会をする韓国人観光客
 「だって近いから」。複数回訪れている人に理由を聞くと「町がきれい、人が親切」といった答えに並んで九州の「近さ」が挙がる。かめりあで来日する韓国人のほとんどは船内1泊を含め2泊3日~3泊4日程度の旅程。金曜に仕事を終えて乗り込めば、日曜夜に釜山に戻ることもできる。一度の旅行で各地を回るのではなく、「気軽に何度も」がスタイルだ。
釜山港に停泊する「ニューかめりあ」
釜山港に停泊する「ニューかめりあ」
 福岡からの直線距離は釜山で約200キロメートルと広島や鹿児島と同程度。かめりあの往復料金は2等船室で1万7100円で、こちらも博多―広島の新幹線とほぼ同等だ。
 

身の回りの品人気

 買い物の仕方も、ツアーで各地を巡る訪日客とは違う。かめりあで聞き取った滞在中の買い物額は、大多数が2万~3万円以内。観光庁の最新調査では、訪日客1人当たりの買い物額の平均は約5万2000円だが、それを上回る人は10人もいなかった。
女性2人組はお菓子や薬品を「ドン・キホーテ」で大量購入した
女性2人組はお菓子や薬品を「ドン・キホーテ」で大量購入した
 人気商品は納豆やその成分を使った健康食品、湿布薬や胃腸薬、菓子など、身の回りの消耗品がほとんど。今年に入って既に夫婦で4回、訪日したという60代の男性に至っては「柳川のウナギと久留米のラーメン。食が目的なので買い物はほぼしない」という。
 小学生の子供連れの女性は「20年前は日韓の物価の差が大きく、タクシーにも乗りにくかった。今は日本での移動も楽で、かなり訪れやすくなった」。福岡を訪れる目的は子供が行きたがる「ポケモンセンター」だ。
 訪日客数は2017年、日本全体で2869万人に達した。観光庁によると、うち61%の1761万人がリピーター。韓国人や船での訪日客は「日本での消費額が少なく、いたずらに増やすべきでない」と、観光関係者から指摘されることもある。だが、1回で20万円使うのも、10回で2万円ずつ使うのも変わらない。何度も来てくれる「親日家」たちのニーズに目を背けては、頼れる隣人を失うことになる。
 

入店拒否や長い審査 福岡、外国人対応に課題

 かめりあ船内で、耳の痛い指摘をされた。日本に年に1~2回来るという60代前後のリさん兄弟。「福岡では入国審査で嫌な思いをする。滞在場所や目的をしつこく聞かれる。ホテルじゃなく民泊を使ったり、夜の仕事に就くことを疑われる若い女性だったりするとなおさら」という。
船室でくつろぐ、慰安旅行で九州を訪れた韓国人観光客
船室でくつろぐ、慰安旅行で九州を訪れた韓国人観光客
 兄弟は貿易関係の仕事でアジア諸国を訪れる。「インドネシアとか他国ではそんなことはない。北海道はまだ『ようこそ』と迎えてくれるが、福岡はよくない。旅行の最初が歓迎されていない印象で始まる」と話す。
荷物を持って釜山行きのフェリーに乗り込む韓国人観光客
荷物を持って釜山行きのフェリーに乗り込む韓国人観光客
 6月、福岡・中洲のある居酒屋を訪れたある韓国人旅行者は、引き戸を開けるやいなや入店を断られた。店を経営する30代男性は「滞在時間が長い割に金払いが悪い」として韓国人旅行者は断っているという。客もそうした店があることは承知していて、入店の際に「コリアン、OK?」などと聞くことが多い。
 リピーターほど東京や大阪より地方を訪れることが増え、より親密な交流を望む。中国人の「爆買い」はすでに一巡し、興味の対象が「体験」に移ってきた。地理的に近い九州沖縄だからこそ、玄関口としての責任も重い。心理的にも近づくために、できることはまだまだあるはずだ。
 地理的にも歴史的にもつながりの深い「アジアの玄関」が真価を発揮し始めている。成長著しいアジアの中で何ができ、どれだけの人とつながっていけるか。アジアにおける西部ニッポンの可能性を探る「九州沖縄 in Asia」。第1部は国、地域を挙げて振興に取り組む観光や文化交流の最前線を追う。