日本人拉致の現実、世界に発信 北朝鮮で4カ月半拘束の米記者、ドキュメンタリー制作
日本人拉致の現実、世界に発信 北朝鮮で4カ月半拘束の米記者、ドキュメンタリー制作
北朝鮮当局に約4カ月半拘束された経験のある米国人ジャーナリストが、日本人拉致問題を題材にしたドキュメンタリー作品を制作した。拉致被害者の曽我ひとみさんを含む日米の関係者16人を取材し、問題の概要から直近の状況まで理解できる内容に仕上げた。今月10日に英語版・韓国語版が発表され、関係者からは「海外で拉致問題の理解が広がる」と期待の声が上がる。(時吉達也)
「生みの母親がいると知ったのは21、22の時でした」(田口八重子さん=拉致当時(22)=の長男、飯塚耕一郎さん)「自国のスパイ養成がうまくいかず、拉致した日本人を訓練に利用し始めたのです」(ニューヨーク大のロバート・ボイントン教授)
米政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ」のサイトなどで発表された27分の映像作品「ペイン・ウィズ・ノー・エンド(終わりのない苦悩)」には、被害者家族や支援者のほか、加藤勝信拉致問題担当相や学者、新聞記者など多方面の関係者が登場。それぞれの証言を基に経緯を振り返る内容になっている。
制作プロデューサーのユナ・リー氏によると、取材は昨年秋に開始。トランプ米大統領の就任直後から、日本側が拉致問題に関する働きかけを再三行う姿に関心を持ち「これだけ時間の経過した問題が、なぜ日本政府と国民にとって今も重要なのか明らかにしたい」と考えたという。
ナレーションや劇的な音楽を一切挿入しない演出は、リー氏自身が取材中に北朝鮮に拘束され「自らの意思と関係なく家族と生き別れた」経験が反映されている。「当事者の思いは、他人のどんな言葉や文章でも表現するのが難しい」と実感しており、「代わりに『話す』のではなく、事実をそのまま『伝達』する」ことを心がけたという。
「救う会」の西岡力会長は「取材を積み重ねたことがよく分かる作品だ。問題発生当時だけでなく、現況まで伝えてくれる海外作品は他にない」と評価。「影響力のある媒体で発表されており、日本の立場について海外で理解が進めば」と期待を寄せている。
作品は動画サイト・ユーチューブの「ボイス・オブ・アメリカ」チャンネルなどで公開されている。