熱波襲来の欧州で泣き笑い 原発一時停止・英で数百の遺跡発見・ワイン向けブドウ豊作も

熱波襲来の欧州で泣き笑い 原発一時停止・英で数百の遺跡発見・ワイン向けブドウ豊作も


英チャシャー州で、熱波のためにひび割れた農地=7月26日(ロイター)

 欧州を襲った歴史的な熱波で、北欧やフランスの原子力発電所が出力低下や一時停止に追い込まれた。ドイツでは川の水位が下がり、投棄兵器が発見される騒ぎも。一方、英国では、畑の下に埋もれていた先史時代の住居跡などの遺跡が次々と出現。独仏ではワイン向けのブドウは豊作で例年より3週間早く収穫を始めた。(ロンドン 岡部伸)
 世界気象機関(WMO)によると、欧州で続いた高温は大規模な高気圧が停滞する「ブロッキング高気圧」と呼ばれる現象が原因。地球温暖化に伴う気候変動の影響とみられる。
 2003年夏の熱波では、欧州全域で合計で5万2千人以上が死亡しているが、英メディアによると、今回の熱波による死者は欧州で少なくとも3万人以上となるという。
 英国では超党派議員で構成する環境監査委員会が、猛暑による死者数が50年までに3倍超の年間7000人に膨らむ恐れがあるとの報告書をまとめ、政府に緊急対策を求めた。
 またギリシャの首都アテネ近郊で大規模火災が発生。死者80人、負傷者180人以上の大惨事となったほか、スウェーデンでも山火事が多発。2万5千ヘクタールの森林が焼失した。飼料になる穀物の生育に被害が出て、畜産農家が餌不足を懸念して牛を処分する事態にも発展。農業団体幹部は「この50年で最悪の危機」と指摘した。
原発ピンチ
 ロイター通信などによると、今夏の気温が例年の平均を6~10度上回った北欧では、水力発電所の貯水量が激減して、電力価格が記録的に上昇。電気料金も上昇した。

 スウェーデンフィンランドでは、原発ダム式水力発電に次ぐ第2の電力供給源。加圧水型原子炉(PWR)、沸騰水型原子炉(BWR)ともに冷却のために冷たい海水を利用しており、気温の上昇で稼働に影響が出た。
 スウェーデン国有電力会社バッテンフォールは8月初め、海水温が25度を上回ったため、リングハルス原発の4基の原子炉のうち、1基を停止。海水温が23度を上回った7月初めには、別のフォルスマルク原発1基あたりの出力を30~40メガワット低下させた。
 フィンランド電力大手フォータムも海水温が32度に達した8月初め、ロビーサ原発の出力を低下させた。
 フランスでも8月初め、フランス電力(EDF)が冷却に使用している川の水温が規定よりも高くなったため、原子炉4基の運転を停止した。
クロップマーク
 350年に一度の猛暑となった英国では、暑さで乾燥した畑に数百もの丸や四角の「クロップマーク」と呼ばれる模様が出現した。地中に遺跡がある畑は、土壌の違いから作物や草の成長に差がでて模様が浮かび上がることがあり、例年以上の暑さで畑の土が乾燥したため、こうした現象に拍車がかかった。
 英南部のオックスフォードシャーでは、紀元前700年以上前の集落跡が見つかり、住居周囲に張りめぐらせた丸い囲いの模様が浮かび上がった。ランカシャーにあるガウソープホールで、ビクトリア時代の庭園に描かれた模様が現れるなど英中部や南西部で新たに鉄器時代の入植地やローマ時代の農場、先史時代の住居跡など数百に上る遺跡が見つかった。調査した「ヒストリック・イングランド」は、当時の人がいかに暮らし、農耕を営み、土地管理していたかを知る貴重な発見としている。

 また英大衆紙「デーリー・エクスプレス」によると、英国では例年、夏休みは南欧などへの海外旅行が人気だが、今年は英国人の57%が海外旅行を控えて国内にとどまったという。この結果、アイスクリームやビールなどの販売が好調で、スーパーマーケットでの食品販売も伸びるなど国内消費が増加。猛暑が英国に310億ポンド(約4兆5000億円)の経済効果をもたらすとの試算もある。
沈没船や兵器も出現
 ドイツではライン川を流れる水の量が激減し、クレーベでは123年前に沈没した木製の船が出現した。1895年冬、ダイナマイトを積み込む際、爆発して16人が死亡した事故があり、この際の船とみられる。エルベ川の水位も大きく低下し、堤防の泥から第二次大戦中に投棄された手投げ弾や弾薬などの兵器24点が見つかった。
 一方、BBC放送によると、ワイン向けのブドウは生育が進み、フランスとドイツのワインメーカーが例年よりも3週間早く収穫を始めた。ドイツでは毎年、南欧のイタリアより1カ月遅れてワインを製造していたが、今年は史上最も早くブドウの収穫が始まり、イタリアと同時期に製造する。フランスでも収穫作業が上向き、例年よりも熟したぶどうのビンテージワインが期待されているという。