20××年、破局的噴火が起きたら… 大地が消失

20××年、破局的噴火が起きたら… 大地が消失

 20××年9月、九州の沖で巨大な噴煙があがった。「破局的噴火」の始まりだった。
グラフィックス・砂場章利
 噴火の規模は桁違いに大きい。地下のマグマが数時間から1週間ほどで一気に噴き出す。その量は明治維新以降日本で最大だった1914年の桜島(鹿児島県)大正噴火の数百倍に達する。
 マグマがなくなった地下の空洞は崩れ、直径10キロメートル以上にわたって地面が陥没。鍋底のような「カルデラ」という地形ができる。カルデラ噴火とも呼ぶのはこのためだ。
 日本では過去12万年に10回の破局的噴火が発生し、北海道と九州に集中する。最後は約7300年前の縄文時代に九州南方沖の鬼界カルデラで起きた。神戸大学の巽好幸教授は2月、鬼界カルデラで採った岩石の成分が7300年前とは違うことから「新しいマグマがたまっており、破局的噴火の準備段階に入った恐れがある」と発表した。
 世界有数のカルデラである阿蘇山は、約27万年前から約9万年前に4回の破局的噴火を繰り返した。国内最悪の被害が懸念されるのは「九州中部の発生」(巽教授)だ。
 海外のカルデラでは、米イエローストンやイタリアのカンピ・フレグレイが1年に数十センチメートルも隆起している。大量のマグマがたまりつつある兆候で、破局的噴火が近いと考える研究者もいる。
 だが、各地のカルデラは過去の痕跡にすぎない。火山国の日本では「どこで起きてもおかしくない」と産業技術総合研究所下司信夫大規模噴火研究グループ長は話す。
 数時間もしないうちに、海を越えて九州を巨大な火砕流が襲った。
 巨大な噴煙はセ氏数百度にもなる火砕流に変わる。時には時速100キロメートル以上で海を渡る。1000メートル級の山を越え、100キロメートル以上先の都市をのみ込む。阿蘇山火砕流が福岡市に到達するまで2時間とかからない。鬼界カルデラ破局的噴火後1000年近い間、九州南部に人が住んだ痕跡は見つかっていない。
 海底火山の破局的噴火では、海水を大きく揺らす。鬼界カルデラの噴火では九州南端に高さ30メートルの津波が押し寄せた。
 1815年に起きたインドネシア・タンボラ火山の破局的噴火では火山灰が太陽光を遮り、欧米で異常な冷夏を引き起こした。大飢饉(ききん)を招き、欧州だけで20万人以上の死者が出たと推定されている。
 大量の火山灰は首都圏にも降った。都市機能は完全にマヒした。
 九州で起きた破局的噴火の火山灰は、偏西風に乗って東へ向かう。「関西で数十センチメートル、首都圏で10~20センチメートル積もる」と巽教授は予想する。
 スリップや視界不良の恐れから、高速道路は通行不能になる。火山灰で送電線がショートし、停電も多発。火力発電所浄水場の運転が長期間止まる危険性も高い。
 富士山噴火の影響をまとめた国の報告書では、降灰量を東京で数センチメートルと推定する。それでも経済被害は最悪で2兆5200億円と見積もる。破局的噴火の影響は計り知れない。
編集委員 小玉祥司、藤井寛子