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徴用工裁判の結果を1面トップで伝える10月31日付の韓国朝刊各紙=李聖鎮撮影
韓国大法院(最高裁)は10月30日、徴用工への損害賠償を初めて認めた。判決の背景には何があるのか。韓国市民は判決をどう受け止めているのか。朝日新聞ソウル支局に勤務する韓国人職員4人が話し合った。
――判決直後、原告の李春植(イ・チュンシク)さん(94)は泣いていましたね。
黄宣真(ファン・ソンジン) 李さんは原告団4人のうちの唯一の生存者だった。亡くなった3人への思いが涙につながった。支援団体は高齢の李さんの体を心配して、法廷に入るまで、他の3人が亡くなったことを隠していた。
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黄宣真記者
宋永美(ソン・ヨンミ) テレビで会見を見た。「もう少し早く、解決できたら良かったのに」と素直に思った。
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宋永美記者
――判決は「日本の不法な植民地支配への慰謝料だ」と指摘しました。
崔在雄(チェ・ジェウン) 韓日請求権協定だけで解決したとは思わない。司法判断は当時、未解決な部分があった事実を強調したものだ。ただ、一般市民がそこまで理解していたのかは疑問だ。報道で混乱した市民もいたようだ。
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崔在雄記者
李聖鎮(イ・ソンジン) 多くの人たちは報道で、請求権協定が抱える問題を知った。報道後は、「請求権協定には問題がある」と指摘する知り合いが多いようだ。
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李聖鎮記者
――他の徴用工から問い合わせが殺到しているそうです。
 判決後、2日間で政府の担当部署に計620件の問い合わせがあった。「私も訴訟できるのか」「賠償するのは日本政府か、日本企業か」という問い合わせが多いそうだ。訴訟のやり方を尋ねる人もいると聞いた。
 これはお金の問題だと思う。1億ウォン(1千万円)を受け取れると思えば、誰でも訴訟を起こそうとするのではないか。徴用工だけでなく、旧日本軍に徴兵された人たちも訴訟を起こすのではないか。
――与野党は全て判決を歓迎しましたが、ネットの書き込みは賛否が分かれました。
 野党まで賛成したのは、国民感情の問題だから。もし、「司法判断が間違っている」と言えば、市民から激しい反発が起きるからだと思う。同じ現象は慰安婦問題でも起きている。こういう時は与野党が一致団結するものだ。
 ネットの反対意見は、司法が政権の意向に合わせたことへの反発だと思う。私の知り合いの主婦も「解決した問題なのに、なぜ今になって訴訟を起こすのか」と言っていた。
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判決後の記者会見で笑顔を見せる元徴用工訴訟の原告、李春植さん(中央)=10月30日、ソウル、武田肇撮影
――なぜ、韓国大統領府が直接コメントを出さないのでしょうか。
 大統領府は元々、韓日関係について「歴史認識問題」と「その他の問題」に切り離す戦略を取ってきた。成果が得にくい歴史認識問題は、大統領府にとって負担が大きい。「知日派」として知られる李洛淵(イ・ナギョン)首相に任せたい思惑が働いたのだろう。
 李首相に対して、対日関係で厳しい大統領府と、対話を目指す外交省の間に立って、中立的に物事を進められるという期待感も働いているのだろう。韓国政府が、この問題を深刻に受け止めているのは間違いない。
――「ムン・ジェ・イン政権は日本政府に厳しい態度が目立つ」という指摘もあります
 独島(トクト・竹島の韓国名)に上陸した李明博(イ・ミョンバク)大統領よりも厳しい姿勢だと思う。日本に友好的な態度を取ることは、慰安婦合意をまとめた朴槿恵(パク・クネ)前政権を認めることになる。文政権は、「積弊(チョクペ・積み重なった旧来の弊害)」と位置づける朴前政権を絶対に評価しない。
 文政権は「ロウソク集会」で誕生した。国民感情や世論が何よりも重要だと考えているから、国民の対日感情を利用している面もあるだろう。
 日本は「使い勝手の良いカード」。韓国では、日本の悪口を言う人を公然と批判することはなかなか難しい空気がある。
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韓国の李洙勲駐日大使(右端)に抗議する河野太郎外相=2018年10月30日午後4時3分、東京・霞が関の外務省、山本裕之撮影
――日本政府は「1965年の請求権協定を覆す判決だ」と批判しています。
 その批判はあたらない。65年体制には限界もある。戦後、韓国が資金面で日本に依存せざるを得ない時代もあった。その時代背景を踏まえて朴正熙(パク・チョンヒ)政権が取った判断であり、被害者や市民を軽視する傾向があったことは否めない。韓日間には未解決の問題は多い。こうした問題を包括的に解決するグランドデザインを両政府が描くべきではないか。
――日本が慰安婦問題などの解決が十分できなかったから、今回の事態を招いたという指摘もあります。
 慰安婦と徴用工の問題は別だ思う。両方とも歴史認識問題だが、徴用工問題の主なターゲットは日本政府ではなく、日本企業だ。むしろ、政経分離の原則が効かないだけ、問題は複雑で、解決は困難だろう。
 韓日経済関係はそれほど悪化しないと思う。日本企業も自社の利益を考えた場合、韓国から簡単に撤退することはないだろう。
 企業にはイメージの問題もある。企業としても未解決のままでは負担になる。賠償という形式は取れないだろうが、何らかの措置は取らざるをえないのではないか。
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日本総領事館前への「徴用工像」設置を強行しようとして、警官隊ともみ合いになる市民団体=2018年5月1日、韓国・釜山、李聖鎮撮影
――「韓国人は昔の取り決めを、現在の物差しでひっくり返す」という批判もありますね。
 過去の約束が「お話にならない」と思うから、ひっくり返すのではないか。
 請求権協定の締結当時、個別の被害者について突っ込んだ言及がなかった。あいまいに処理したから、今の問題がある。合意した韓国にも問題があるのではないか。
――韓国人の日本訪問は増えていますが、日本のなかで「嫌韓論」が広がらないか心配です。
 文在寅政権が対日方針を明確に発信すべきだ。現在の韓日両政府間には信頼関係がない。首脳会談で虚心に意見交換をすることが何よりも重要だ。
 この判決の影響で、韓国各地で徴用工像が設置される可能性もある。韓国政府は、国民感情に配慮する一方で、外交問題にしない努力が必要だろう。
 私は今回の問題があるからと言って、日本に行かないという考えは持たない。でも、嫌韓論が広がれば、ちゅうちょする韓国人も出るだろう。日本企業もどんな格好でもいいから、問題解決に向けた姿勢を示す必要があるのではないか。
 韓国と日本は地政学的にも離れられない隣人だ。お互いが、一歩ずつ譲り合えば良い結果が生まれるのではないか。今月、北海道を旅行するが、日本の知人と会えることを楽しみにしている。私の日本の知り合いたちは、こういう問題が起きるたび、私たちを勇気づける言葉をくれるからだ。