見えてきた次期国産戦闘機F-3「ここまで“出来て”いる」

見えてきた次期国産戦闘機F-3「ここまで“出来て”いる」

開発中の次世代戦闘機用エンジン「XF−9」のひな形となったXF−5を搭載して各種試験を行った先進技術実証機「X−2」(2018年11月、岡田敏彦撮影) 開発中の次世代戦闘機用エンジン「XF-9」のひな形となったXF-5を搭載して各種試験を行った先進技術実証機「X-2」(2018年11月、岡田敏彦撮影)
ステルス機用のインテーク(空気取り入れ口)ダクトの試験に用いられた風洞実験模型。こうした基礎研究の成果がF−3に導入される(2018年11月、岡田敏彦撮影) ステルス機用のインテーク(空気取り入れ口)ダクトの試験に用いられた風洞実験模型。こうした基礎研究の成果がF-3に導入される(2018年11月、岡田敏彦撮影)
 航空自衛隊の「次の主役」を担う新鋭戦闘機F-3の姿が見えてきた。米国や英国との共同開発案もささやかれる中、日本主導で開発できるだけの技術力があるのか疑問を呈する声もある。しかし最も重要な大出力エンジンと高性能レーダー、そしてステルス技術の核心でもあるウエポン・ベイなどがすでに完成の域に達している。だが、F-3誕生にはまだ難題が残されている。(岡田敏彦)
 国産エンジンの進化
 すでに完成の域に達しているのがエンジンだ。防衛装備庁ではIHI(旧石川島播磨重工業)とともに平成22年から戦闘機用の次世代エンジンの研究を行ってきたが、ハードルは高かった。目標が「ステルス戦闘機にも使えるエンジン」だったからだ。

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 レーダーに映らないステルス性能を戦闘機に盛り込む場合、エンジンのスリム化は欠かせない。相手レーダーが探索のよすがとする機体の正面面積(前面投影面積)を減らす、つまり見つかりにくくするためには、できる限りエンジンを細くする必要がある。だが、細くすれば空気を取り入れる部分の面積が少なくなり、大推力を発生させるのが難しくなる。バランスを保ちながら究極までスリム化するのが困難。しかも日本が戦闘機用の、一線級のジェットエンジンを開発するのはこれが初めてで、これまで戦闘機用エンジンは米国など外国製のライセンス生産にとどまっていたからだ。


F−3への搭載を視野に開発が進められている新型AESA(アクティブ電子走査アレイ)式レーダー(2018年11月、岡田敏彦撮影) F-3への搭載を視野に開発が進められている新型AESA(アクティブ電子走査アレイ)式レーダー(2018年11月、岡田敏彦撮影)
 日本は戦後の航空空白期を経て航空機開発に戻ったが、特に冶金(やきん)分野での先端技術で欧米との差が著しいとされてきた。なかでも戦闘機エンジンは高温高圧にさらされるため、難易度は高かった。
 研究開始から8年後の30年にプロトタイプ「XF9」が完成した。かつて試作した推力5トン級のエンジン「XF5」を基礎に、推力を15トン級(いずれも最大出力=アフターバーナー使用時)に上げた。
 XF-5はステルス研究のため製造された先進技術実証機「X-2」に搭載されたエンジンとしても知られる。技術上の主な違いはタービン翼にあり、XF-5では耐熱が1600度クラスだったが、XF-9では1800度級に性能がアップした。ニッケル超合金の採用で「世界最高の耐熱性」(同庁)という。

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 現在、米軍や航空自衛隊が運用するF-15やF-16といった戦闘機のエンジン(約13トン)を上回る数値を出している。防衛装備庁では31年度末にかけて、さらに詳細な試験を実施する計画だ。
先進技術実証機「X−2」に搭載され各種試験が行われた「XF−5」エンジン。F−3搭載を視野に入れて開発が進められているXF−9エンジンのひな形ともいえる存在(2018年11月、岡田敏彦撮影) 先進技術実証機「X-2」に搭載され各種試験が行われた「XF-5」エンジン。F-3搭載を視野に入れて開発が進められているXF-9エンジンのひな形ともいえる存在(2018年11月、岡田敏彦撮影)
 目となるレーダー
 この新型エンジン開発にあたっては、スリム化と大出力化に加え、もう一つ必要な条件があった。それが「十分な電力供給」だ。高性能レーダーや火器管制装置など、最新の戦闘機は大電流を必要とする。敵より先に目標を見つける高性能レーダーは、エンジン同様に戦闘機のコア技術だが、F-3搭載を視野にいれた新レーダーも開発が進んでいる。

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XF−9エンジンの試験状況(防衛装備庁ホームページより) XF-9エンジンの試験状況(防衛装備庁ホームページより)
 防衛装備庁では2018年11月に新AESAレーダー・アンテナを国際航空宇宙展(東京)で公開した。高出力のAESA(アクティブ電子走査アレイ式)レーダーで、半導体素子には高出力の窒化ガリウム(Ga N)素子を用いているとされる。この素子は航空自衛隊のF-2戦闘機や海上自衛隊イージス艦をはじめ、現在日本が導入を検討しているイージス・アショアのレーダーであるLMSSR(米ロッキード・マーティン社製)にも用いられている最新レーダー技術のひとつだ。すでに戦闘機に搭載できるほど小型化されており、今後性能試験が進む見込みだ。

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 武装の内蔵
 もうひとつ、ステルス機開発に欠かせない要素として開発が進んでいるのが、ミサイルなどを機内に格納する兵装庫(ウエポンベイ)に関する技術だ。
実物大の試験用ウエポンベイ・システム(防衛装備庁ホームページより) 実物大の試験用ウエポンベイ・システム(防衛装備庁ホームページより)
 従来の非ステルスの航空機は大小のミサイルや誘導爆弾等を翼や胴体の下に吊していたが、こうした機外搭載物はレーダー波を盛大に反射し、位置を暴露してしまう危険性がある。そこでステルス機では胴体内に格納するのだが、このウエポンベイの開発も高度な技術が必要だ。
 高速飛行時や高機動時に畳よりも大きな扉を開け閉めするには、複雑な空気抵抗を把握しなければならない。簡単にいえば、開けている途中に扉が吹き飛んでいったり、逆に風圧に抑えられて中途半端にしか開かない、というようなものでは失格だ。こうした強力な開閉装置が必要なのだ。

航空自衛隊へ100機が導入される見込みの米国製ステルス戦闘機F−35A(2018年7月、岡田敏彦撮影) 航空自衛隊へ100機が導入される見込みの米国製ステルス戦闘機F-35A(2018年7月、岡田敏彦撮影)
 さらに格納しているミサイル類を確実に機外へ押し出す発射装置(ランチャー)の技術も必要になる。これも一つ開発ミスがあれば、ミサイルを機外に射出したものの尾翼などにぶつかって機体は損傷、ミサイルも故障し不発といった事態を生起させかねない。同庁の航空装備研究所では、すでにこの部分の実物大試作を完了し、性能の確認試験を本格的に始める。
 ほかにもステルスインテークダクトや機体構造軽量化技術などの研究が進められており、こうした技術が空自の次世代戦闘機F-3に用いられることは確実だが、F-3誕生までにはまだ高い壁がある。

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 未来の形は
 単純に言うなら「金」の問題も、その一つだ。1980年代に国産戦闘機開発を目指してプロジェクトが進行したF-2戦闘機では、主に日米貿易摩擦の影響から米国との共同開発とするよう圧力がかかり、米国製戦闘機(F-16)の改良版にとどまった。今回のF-3では、トランプ政権下で貿易問題がクローズアップされてはいるものの、日本が導入を予定している米国製ステルス戦闘機F-35について、予定していた国内生産を大幅縮小しほとんどを米国からの輸入とすることを決めたため、F-2の時のような圧力は相当減じられるとの見方がある。
米ロッキード・マーティン社のIRST(赤外線捜索追尾システム)。次世代機「F−3」にも欠かせない装備となる(2018年11月、岡田敏彦撮影) 米ロッキード・マーティン社のIRST(赤外線捜索追尾システム)。次世代機「F-3」にも欠かせない装備となる(2018年11月、岡田敏彦撮影)
 一方で、最新鋭戦闘機の1国独自開発には膨大な予算が必要で、いまや時代遅れとの考え方もある。実際、1990年代以降に戦闘機を単独開発しているのは米のほか仏(ラファール)、露(Su-57)、スウェーデン(サーブ・グリペン)くらい。英独などはタイフーン戦闘機を共同開発し、昨夏には英国が次世代ステルス戦闘機テンペストの開発を表明したが、別の計画を進めている独仏をはじめ、スウェーデンや日本、トルコとの共同開発も視野に入れているとされる。

日米貿易摩擦の結果、米国との共同開発となったF−2戦闘機(2018年11月、岡田敏彦撮影) 日米貿易摩擦の結果、米国との共同開発となったF-2戦闘機(2018年11月、岡田敏彦撮影)
 こうした「単独か、共同か」との政治的、財政的な問題に加え、純粋に軍事的な問題もある。「将来の戦闘機像」がどうあるべきかとの問題だ。
 いずれ見つかる?
 レーダーに映らないステルス機こそ目指すべき姿だとの回答は妥当だが、ステルス機は完全無欠ではない。同庁電子装備研究所では、ステルス機を探知する「MIMOレーダ」の研究を進めており、欧州でも類似の発想によるバイスタティック(あるいはマルチスタティック)レーダーの開発が進んでいる。また米軍事研究団体「米国海軍学会」では、UHF波によるステルス機探知の有効性を指摘。米航空宇宙専門誌アビエーション・ウィーク(電子版)ではステルス機探知に有効とされるVHF波レーダーをロシアが実用化していると報じている。

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 こうした「別のタイプのレーダー」に加え、赤外線探知もステルス機の強敵だ。
開発費の高騰に対処するため4カ国での共同開発となったユーロファイター・タイフーン(2018年7月、岡田敏彦撮影) 開発費の高騰に対処するため4カ国での共同開発となったユーロファイター・タイフーン(2018年7月、岡田敏彦撮影)
 音速で飛ぶ戦闘機は、空気との摩擦により機体の表面温度が上がり、マッハ1・5で40度とされる。だが、高度1万メートルの気温はマイナス50度。この90度の差は、赤外線探知装置にとっては暗闇の中で灯台の光のように目立つ。探知距離はレーダーより短いものの、こうした原理を利用した赤外線捜索追尾システム(IRST)がロシアをはじめ各国の戦闘機に搭載されており、演習でもドイツのIRST装備機(ユーロファイター)が米ステルス機を探知したとの現地報道もあった。欧米の専門家の間では、こうしたステルス対抗技術が進歩しているのに対し、より“見えなくしよう”とするステルス技術の進歩は遅れているとの指摘がある。

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 このほか、無人機を多数従えて飛ぶ有人機が主流となるとの考えや、高性能ミサイルが戦闘機の性能を上回る「戦闘機不要論」まで、将来のあるべき戦闘機像はさまざまだ。F-3がどのような戦闘機を目指すべきか、まだ定まったとはいえない。