日米襲った大寒波、偏西風蛇行で北極の「渦」南下

日米襲った大寒波、偏西風蛇行で北極の「渦」南下

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2019/2/28 6:30 日本経済新聞 電子版
1月下旬に北米、2月上旬には日本を記録的な寒波が襲った。北米内陸部では体感温度が氷点下50度以下という厳しい寒さになり、北海道ではほぼ全域で最高気温が氷点下10度を下回った。北半球の上空を流れる偏西風が北米と東アジアで大きく南に蛇行し、さらに北極にとどまっている猛烈に冷たい空気が南下したためだ。2つの要因が重なった結果が猛烈な寒波で、地球温暖化との影響も関係するとの見方もある。
偏西風は1万メートル付近の上空を吹く猛烈な西風だ。大型台風並みの秒速40メートル以上で吹いており、同100メートルを超すこともある。偏西風の北側には冷たい冬の寒気がある。夏の間は北にある偏西風が南下して日本列島の真上や南にかかると、本格的な冬になる。
寒波に見舞われた米ニューヨークの公園では噴水が凍った(ゲッティ=共同)
寒波に見舞われた米ニューヨークの公園では噴水が凍った(ゲッティ=共同)
1月下旬から2月上旬にかけて、北米と日本を記録に残る大寒波が襲った。米国ではシカゴ(イリノイ州)やミネアポリスミネソタ州)で最低気温が氷点下30度前後まで下がった。平年よりも20度ほど低く、大寒波による死者は数十人にのぼり、航空便の欠航も相次いだ。
2月上旬には、日本も同じメカニズムで大寒波に襲われた。北海道陸別町で同31.8度を記録。釧路市の阿寒湖畔で同30.7度、帯広市泉町で同29.6度まで下がった。東京都心でも最高気温が3.5度にしか上がらず、それまでの暖冬傾向が一変した。
偏西風が大きく南へ蛇行すると、そこを埋めるような形で寒気が南下しやすい。1月下旬、米国付近の上空では偏西風が大きく南に蛇行した。そこへ、北極から猛烈な寒気が南下した。
猛烈な寒気のもとが「極渦(きょくうず)」だ。北極の上空にできる非常に冷たい寒気の巨大な渦で、偏西風よりも高い場所にあり、成層圏にまで達する。ふだんは偏西風によって、非常に冷たい寒気は閉じ込められている。
ところが、偏西風が大きく蛇行していた1月末、極渦が2つに分裂した。ひとつは北米を南下し、米国中西部に大寒波をもたらした。もうひとつはシベリア方面へ向かい、2月上旬に日本列島に流れ込んだ。
極渦の南下は過去にも大寒波をもたらした。2016年1月には、九州で大雪、沖縄で39年ぶり史上2度目のみぞれを観測した。温暖な台湾でも、路上生活者などが凍死した。18年2月には北陸で記録的な大雪となり、福井と石川の県境付近で約1500台の車が立ち往生した。
北極の寒気が南下しやすいかは「北極振動」と呼ばれる現象でわかる。その状態は指数で表され、プラスだと寒気をため込み、マイナスになると放出される。1月半ばから2月上旬にかけて、指数が大きくマイナスになり、寒気が吹き出しやすくなっていた。
こうした状況では、極渦は分裂したり、平年の位置から南下したりすることが多い。そのメカニズムは複雑で、よくわかっていない。気象庁予報官の新保明彦さんは「成層圏の温度が突然上昇することが関係している可能性がある」と説明する。1月初めから中旬にかけて、北極の成層圏の温度が急上昇し、その後に極渦が分裂したとみられる。
地球温暖化が進むと、偏西風の蛇行と極渦の分裂がたびたび発生し、猛烈な寒波が増えるという見方もある。偏西風の原動力のひとつは南北の温度差だ。温暖化で北極の気温上昇が加速すると温度差が小さくなり、偏西風を弱める。勢いを失った空気の流れは蛇行し、極渦の分裂を招きやすくなるという。
まだ仮説の段階で、研究者の意見は分かれる。ただ、猛烈な寒波が温暖化を否定する材料にはならないという点で、大きな隔たりはない。
(張耀宇)
寒波
 冬の冷たい寒気団が波のように押し寄せ、気温が大幅に下がる現象。北極や南極に近い高・中緯度の地域に現れやすく、広い範囲で数日以上続くことが多い。規模の大きなものは「大寒波」と呼ばれる。
 日本では1902年(明治35年)1月下旬、現在の北海道旭川市で氷点下41.0度を記録した。今もこの記録は破られていない。このとき、青森歩兵第5連隊が八甲田山で行軍中に遭難し、210人のうち199人が凍死した。戦後では、78年2月中旬、大寒波で北海道各地で最低気温が氷点下35度を下回った。