トランプ氏の対中ディール、しわ寄せは同盟国に

トランプ氏の対中ディール、しわ寄せは同盟国に

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 ドナルド・トランプ米大統領は通商政策を巡り、中国との合意に近づいている。中国は米国からの輸入を拡大するほか、自動車業界の保護や知的財産で一部譲歩することで、米国が改善を要求している他の問題の多くは無視するようだ。
 これは実際にどのような意味を持つか。主に天然ガスや農業、自動車など、すでに競争力のある米産業にとって追い風となる一方、他の主要輸出国には多大な打撃を与えることになる。
 米中合意案の一部が3日、明らかになった。中国は合意案の一環として、米エネルギー大手シェニエールから180億ドル(約2兆0100億円)相当の液化天然ガスLNG)を購入することを確約する見通し。期間は不明だが、LNGの購入契約は通常は10年以上だ。

 中国はいずれにせよ、シェニエールから大量のLNGを購入していたかもしれない。LNGのスポット(随時契約)価格はここ数カ月、100万BTU(英国熱量単位)あたり6 〜12ドルで推移している。シェニエールはこれまで、将来のプロジェクトから販売するアジア向け輸出の損益分岐点について、推定7.50 〜8.50ドルとの見方を示している。中国の購入計画が確定すれば、シェニエールはルイジアナ州サビンパス基地で6号目となるLNG液化・精製施設の建設を進めることができる見通しだ。実現すれば、サビンパス基地の年間能力は、現在の世界需要の約10%に相当する2700万トンに引き上げられる。

 つまりこれは、LNGに巨額投資を行ってきた、もしくは今後行う予定である他の主要輸出国が敗者となる構図だ。敗者には米国の同盟国であるオーストラリアやカナダが含まれる。過去数年にわたり態度を決めきれなかった投資家は2018年、加ブリティッシュ・コロンビア州に300億ドル(約3兆3500億円)規模のLNG施設を建設する計画を承認した。カナダ東部でも大型案件が最終の投資決定を待っている状況にある。対中LNG輸出で支配的な地位を占めるオーストラリアは、石炭収入の落ち込みを補うため、LNG輸出拡大に頼ってきた。
トランプ氏の対中ディールにより、豪など同盟国が打撃を受ける恐れ
トランプ氏の対中ディールにより、豪など同盟国が打撃を受ける恐れ Photo: Lindsey Janies/Bloomberg News
 米中がディールをとりまとめれば、アジアにおける米国の友人も痛手を受けるだろう。バークレイズの試算によると、向こう5年に米国の対中輸出が1兆3500億ドル押し上げられれば(これはスティーブン・ムニューシン米財務長官が昨年12月に言及していた1兆2000億ドルの数値に近い)、日本は年間280億ドル(輸出全体の3%)、韓国は230億ドル(同3.1%)、台湾は200億ドル(同3.2%)相当の打撃をそれぞれ受けるとみられている。
 そのような大規模な貿易の流れの変化が、早期に実現する公算は小さいだろう。また、かつて中国に輸出されていた日本車の一部が米国に向かうこともあり得る。だが米中合意案のリスクは、アジアにおける中国の台頭に対抗する上で、米国がまさに頼りにする同盟国の経済に深刻な打撃を与えてしまう恐れがあるという点だ。
 中国当局にとっては、これは申し分のないディールかもしれない。