老後にリバースモーゲージ 「死んだら家売る」は誤解 自宅を手放さない返済も

老後にリバースモーゲージ 「死んだら家売る」は誤解
自宅を手放さない返済も

2019/3/2 6:30

自宅を担保にして老後資金を借りるローン商品の利用者が増えている。「リバースモーゲージ」と呼ばれ、まとまった金額を借りて利息を払いながら、家に住み続けられる仕組みだ。老後生活に備える資金調達手段として考えるなら、商品の構造や注意点をしっかり理解しておく必要がある。
「毎月の返済負担がグッと減った」。東京都内に戸建て住宅を持つAさんは話す。60代になっても住宅ローンの残債が約1000万円もあった。そこで、リバースモーゲージを活用して別の銀行から融資を受け、その資金でローンを完済。毎月の返済額は15万円から2万5千円に減った。
リバースモーゲージは自宅の土地・建物を担保に差し入れて金融機関から融資を受ける。この点は住宅ローンと同じだが、返済の仕組みが大きく異なる。住宅ローンが元本・利息を毎月返済するのに対し、リバースモーゲージは利息のみを毎月払う(図A)。
元本は生存中は返す義務がなく、死亡後、担保である自宅を売却するなどして一括返済するのが基本だ。借入金利は現在、年3%程度と超低利の住宅ローンに比べて高い。それでも借り換えに用いれば、Aさんのように月々の返済額が軽くなることが多い。
■相続敬遠の動き
リバースモーゲージは高齢社会で有効な融資法とされるが従来あまり広がらなかった。潮目が変わったのは最近。同分野でトップシェアの東京スター銀行によれば「問い合わせだけでなく利用者が増え続けている」。住宅金融支援機構では「2018年度の申請数は前年比3倍のペース」。同機構は銀行向けに保険を付けて融資する新タイプのリバースモーゲージ「リ・バース60」を展開する。
利用者が増えている理由について富士通総研の米山秀隆・主席研究員は「家を継がせる子供がいなかったり、子供が空き家化を心配して相続を敬遠したりする世帯が増えている」と分析する。家の所有や相続にこだわらないなら、自分の老後資金作りに活用したほうがよいという意識だ。
ではこのローン商品を使いこなすコツは何か。まずいくつかの誤解を解いておきたい(図B)。典型例は「契約者本人が亡くなったらその家は必ず手放すしかない」という認識だ。担保不動産の売却は返済方法の一つにすぎない。相続人が自己資金で元本を一括返済することが仕組み上可能で、家を売らずに済む。
本人が生前に繰り上げ返済する選択肢もある。実際、家を買い替える際、新居を担保にリバースモーゲージで購入資金を得た後、旧宅を売って繰り上げ返済する取引もある。「焦って安値で処分するのを避けやすい」(大手金融機関)。

本人の死後、「残された配偶者は必ず家を出なければならない」というのも誤解だ。東京スター銀の場合、条件を満たせば配偶者が契約を引き継ぐことを認める。夫の死後、妻は家に住み続けられる。リ・バース60は配偶者を連帯債務者にしておけば夫婦とも亡くなるまで住み続けられる。
リバースモーゲージ特有の制約やリスクも知っておこう。例えば家の価値が高いからといって必ず融資を受けられるわけではない。融資審査では通常、本人の年収も対象になる。収入が少ないと毎月の利息返済が滞りかねないからだ。
金利上昇に注意
リスク面で大きいのは金利上昇。世の中の金利の動きに応じて融資の適用金利を銀行が年2回見直す変動金利型の商品が主流だ。一般の住宅ローンは金利が上がっても元本と利息の割合を調整して月々の返済額を一定期間上げない仕組みがあるが、リバースモーゲージの場合は金利が上がれば利息返済額は増える。
地価の下落リスクも考慮しよう。銀行は契約時、土地を中心に担保の価値を評価し、平均6割程度を上限に融資する。融資後にもしも地価が大幅に下がれば銀行は、担保の評価額を引き下げる可能性がある。
最悪の場合、担保割れにより元本の一部返済を求められかねない。死亡後に担保を売ってなお完済できない場合、相続人に請求がいくタイプもある。住宅金融支援機構のリ・バース60は、担保評価の途中変更はしないが、融資の上限が担保評価の5割(年齢、物件性能などで例外あり)と一般的な商品より低くなる。
もしリバースモーゲージで受けられる融資額が不十分な場合、別のサービスが選択肢となる。「リースバック」と呼ぶ仕組みで、自宅を不動産会社に売却したうえで、その会社から同じ家を有料で貸してもらう。こちらのサービスも最近、市場が拡大している。
リバースモーゲージに比べて調達できる金額が多くなりやすいのが利点。約3年前から同事業を手がけるセゾンファンデックス(東京・豊島)の場合、「買い取り価格は市場流通価格の8割が目安」という。半面、「毎月の家賃はリバースモーゲージの利息よりは高くなる」。
リバースモーゲージに比べて住み続けられるか不透明な要素があることは注意点だ。住宅ジャーナリストの山本久美子氏は「リースバックは基本的に定期借家契約。賃貸中に買った会社が転売する可能性もあり、再契約できないリスクは無視できない」と話す。
自宅を活用して資金を調達する手段は多様化し始めたが、それぞれ一長一短だ(図C)。山本氏は「高額の資金を得ることと、住み続けることと、どちらがより重要かを整理して慎重に選ぶ必要がある」と助言している。(堀大介)