「水素」普及へ カギ握る兵庫、発電利用の実証加速

「水素」普及へ カギ握る兵庫、発電利用の実証加速
ウエーブ兵庫

環境エネ・素材
関西
2019/4/15 7:00 日本経済新聞 電子版
兵庫県で水素を燃料に発電する実証事業が進む。水素は燃焼時に二酸化炭素(CO2)を出さないクリーンエネルギーとして期待が大きい。液化水素を海外から運ぶ海上輸送の実証も2020年度に始まる見通しだ。電気自動車(EV)の伸長で燃料電池車(FCV)に逆風が吹くなど押され気味の水素だが、発電利用が普及拡大の起爆剤になるとみて県なども注目する。
川崎重工業などが実証事業を進める水素発電所(神戸市)
川崎重工業などが実証事業を進める水素発電所(神戸市)
「水素100%になると、炎はほぼ透明になっていきます」。神戸市を中心に大規模な生産拠点を県内に構える川崎重工業の西村元彦・水素チェーン開発センター長が動画で説明するのは、同社と大林組などが市の人工島・ポートアイランドで実証している水素発電所だ。
18年4月に市街地で世界初という水素100%燃料での発電に成功。電力と熱をスポーツ施設、病院などに供給した。
水素は天然ガスに比べて燃焼温度が高く、窒素酸化物(NOx)が多く発生する。そのため燃焼器という発電設備の心臓部で水を噴射し、NOxを規制値以下に下げている。燃焼速度も速いため燃焼器の改良や燃焼方法の工夫などを各社が競っている。
川重などは19年度、燃焼効率を上げるため水を使わずにNOxを低減させる技術の開発に入る。30年に国内で大規模な水素発電所を実用化させる目標をかかげ、研究が今後、加速する見通しだ。
発電での水素利用の実用化に向けた取り組みは県南西部の高砂市でもある。
ガスタービンなど火力発電機器の国内最大手、三菱日立パワーシステムズMHPS)は天然ガスに水素を混ぜて燃やす混焼試験に着手している。こちらもすでに「技術的には水素100%燃料での発電は可能だ」(同社担当者)。既存の天然ガス燃料の火力発電所で燃焼器を取り換えるだけで水素発電に転換できる技術開発が進む。
18年1月には発電用の大型ガスタービンで水素30%の混焼試験に成功した。従来の天然ガス火力に比べて発電時のCO2排出量を1割ほど減らせるという。同社は24年にオランダで既存の天然ガス火力を水素100%燃料に切り替える事業を計画しており、高砂を中心に実証を続ける。
燃料となる水素は現在、天然ガスや石油などを改質して製造するのが主流で、その際にCO2が出てしまう。水を電気分解して水素をつくる方法が環境負荷の低さで注目を集めるものの、CO2を排出する火力発電所でつくった電力を用いればクリーンさのアピールには力強さを欠く。
川重は神戸での発電の実証事業と並行し、岩谷産業丸紅などと連携して液化水素の海上輸送に関する実証を20年度にも始める。オーストラリアで採掘した低品質で安価な石炭「褐炭」から水素を精製し、現地で液化して専用船で神戸まで運ぶ。精製時に発生したCO2はオーストラリア沖の海底下に貯留し、環境負荷の低減をめざす。
川重の神戸工場(神戸市)や播磨工場(播磨町)で、セ氏マイナス253度で液化した水素を運搬するための専用船の開発が進んでいる。液化水素の運搬船は世界に例がないという。神戸空港がある空港島では荷揚げし、貯蔵、出荷するための拠点整備も進む。発電の実証と組み合わせ、水素を燃料とする発電システムのサプライチェーンを構築する計画だ。
兵庫県や神戸市など自治体も水素の普及拡大を後押ししている。FCVの購入や水素ステーションの整備に際して補助金を創設。ただ、県などは普及のカギは「水素の大量利用を通じたコスト低減にある」とみて、発電での利用拡大に熱視線を送る。
「半世紀ほど前に天然ガスが国内に入ってきた時も発電での利用を通じてコストが下がり、普及も進んだ」と西村氏は語る。環境負荷の低減には水素の利用拡大とともに、水素の製造技術でもさらなる進化が求められそうだ。(小嶋誠治)