アマゾンの巨大さ、大きな問題に
大きいことはいいことか? 数々の論争に巻き込まれる創造的破壊者
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2019 年 5 月 13 日 15:39
JST 更新
――筆者のクリストファー・ミムズは
WSJハイテク担当コラムニスト
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アマゾン・ドット・コムは フェイスブック 並みの問題に突き当たっている。あまりにも巨大化し、無秩序に広がった強力なビジネスを手がけているためにつまずきは避けられず、結果として製品やサービスに対する信頼、ワシントンとの友好関係、世界的な支配を達成する能力を損ない始めたのだ。
北米小売売上高の比較急成長したアマゾンだが、
ウォルマートとの差はまだ大きいSource: Kantar注:
ウォルマートの売上高は
プエルトリコを除く、アマゾンの売上高には第
三者による販売の手数料を含み、またアマゾンの2017‐18年売上高にはホールフーズを含む
(単位:10億ドル)アマゾン
ウォルマート
2012 ’13 ’14 ’15 ’16 ’17 ’18 0 50 100 150 200 250 300 350 $400
一方で、アマゾンが決して引用しない別の統計がある。同社は米国の
電子商取引の半分を占めているうえ、カンターの推計によると、米国の約半数の世帯が「アマソン・プライム」会員になり、その約半数がアマゾンで毎週買い物をする。また、アマゾンの配送インフラがいかなる競合相手も寄せつけない規模であることは言うまでもない。
アマゾンの売上高の伸びは鈍化しているとはいえ、同規模の小売企業の中で突出している。1-3月期(第1四半期)の売上高は前年同期より17%増加した。
これに対し、アマゾンが規模を通じて消費者や競争に害悪を及ぼすかどうかを新たな視点で捉える法学者や規制関係者(その典型がウォーレン議員)もいる。2017年には
イエール大学法律大学院の客員研究員リナ・カーン氏が同大の法学雑誌に「アマゾンの反トラストに関する逆説」と題した論文を発表。その主張は大きな波紋を広げている。同氏は現在、反トラスト・商業・
行政法に関する下院小委員会の顧問を務める。
アマゾンの自社貨物空輸サービス「プライムエア」 Photo: James Borchuck/Tampa Bay Times/ZUMA PRESS
カーン氏はある企業の有害な独占状態を示す唯一の尺度が不当な値上げであるとする現在の反トラスト法の枠組みを否定。反競争行為が問題化した1900年代初めに確立された独占の定義を復活すべきだと主張する。アマゾンの巨大さそのものが競争を妨げていると同氏は強調する。
ベゾスCEOは同社の小売売上高の大部分が今や、
電子商取引インフラを利用する販売業者からの手数料だと豪語している。この比較的うまみの大きいビジネスは投資家を喜ばせるかもしれないが、一方で商品検索をアマゾンのサイトで始める人が増えるというフィードバック・ループを生み出し、その結果、ますます多くのブランドや小売業者が同社のプラットフォームを(大抵は嫌々ながら)使わざるを得ない状況となっている。
「アマゾンの敷いたレールに乗らなくてはならない何千もの小売業者や独立事業者は、次第に自分たちの最大のライバルであるアマゾンへの依存を強めている」。カーン氏はこう指摘する。
生き残りをかけて
アマゾンの競合相手は当初、そのやり方を直接まねようとしたが、うまく行かなかったと前出のフォーニヤー氏は語る。だが、アマゾンが小売業界を食い尽くすほどではないとはいえ、同社に存在意義を脅かされたことで背中を押され、ライバル各社は投資に注力している。少なくともその一部は、それぞれの強みを生かした技術のてこ入れを図っている。例えば、
ウォルマートならば食料雑貨の量販店としての役割を生かすこと、ターゲットならば小型店舗に力を入れ、ネット注文品を店舗で受け取れるようにする戦略などだ。
ターゲットは2017年、3年間で70億ドルかけて店舗を改装するほか、利益の中から年間10億ドルを技術革新および新たな競争力の高いビジネスや独自の強みの発見のために投じる方針を明らかにした。
一方、アマゾンは競争だけでなく、提携関係にも前向きな姿勢を打ち出している。2018年には百貨店大手コールズのミシェル・ガスCEOが
ウォール・ストリート・ジャーナル(
WSJ)に対し、同社がアマゾンと提携し、アマゾンへの返品をコールズの店舗に持ち込むことを認めたのをうれしく思うと述べた。同CEOは「双方のビジネスにとって多くのスペースが生まれる」と述べた。
もっと小規模なライバルは、急成長のための教訓を得たいと考えている。起業家育成プログラム「Y
コンビネーター」の支援を受けて最近創業したヒンジトゥは、顧客がアマゾン型の小規模なマーケットプレースを立ち上げ、配送から決済まで処理するための支援システムを開発する予定だ。
その考え方は、
1社でアマゾンの巨大なインフラには対抗できないが、多数の小売業者が集まることにより、手頃な価格で2日以内に配達する第
三者の配送サービスを実現できるのではないかということだ。それを店頭在庫管理ソフトや、ストライプのようなオンライン決済サービスと組み合わせれば、各マーケットプレースで特色ある商品を販売し、その背後でアマゾン以外の企業が大量の処理業務をまとめて行うことができる。
アマゾンにはライバルが誰も太刀打ちできない、取っておきの切り札がある。同社が収集する膨大なデータだ。従来はロイヤル
ティープログラムが長らく顧客の習慣を知る方法だった。だがアマゾンはそのデータ収集能力によって、
フェイスブックの
マーク・ザッカーバーグCEOも驚くかもしれない宝の山を築いている。
アマゾンがターゲット広告を定着させ、フレネミー(友人を装った敵)企業が増え続けるほどに、このデータはますます存在感を高めるだろう。アマゾンがオンデマンド動画や日用品、インテリアを届けるだけでなく、同時にあなたのカルテを分析する医師が使う
クラウドサービスも提供していると分かれば、あなたはホールフーズで気軽に高級アイスクリームを買うのをためらうかもしれない。