米の関税引き上げ、中国株式会社に折あしく

米の関税引き上げ、中国株式会社に折あしく

中小企業は中国の労働市場や経済成長の鍵を握る存在だ
中小企業は中国の労働市場や経済成長の鍵を握る存在だ Photo: aleksandar plavevski/epa-efe/rex/EPA/Shutterstock
――WSJの人気コラム「ハード・オン・ザ・ストリート」
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 中国の民間企業は昨年終盤の厳しい状況を乗り越えて、ようやく見通しが改善したと考えていた。米トランプ政権がその浮かれ気分をはかなく終わらせようとしている。
 米国は10日、中国との貿易交渉の行き詰まりを背景に、同国から輸入する2000億ドル(約22兆円)相当の製品の関税を10%から25%に引き上げた。建前はさておき、近く何らかの合意が実現する可能性は十分にある。ただその間の中国経済への影響は大きいだろう。
 中国の雇用と経済成長の鍵は民間中小企業が握っている。これら事業者は3つの理由から、悲惨な状態で昨年を締めくくった。第一に、国有大企業に比べて貿易の影響をはるかに受けやすく、輸出急減による痛手を負ったことだ。大企業の業績も悪化したが、打撃ははるかに軽微だった。
 第二に、シャドーバンキング(影の銀行)規制による資金難だ。仏銀ナティクシスによれば、昨年終盤時点で中国金融大手による中小企業向け融資は減少していた。第三に、貿易摩擦の激化などを警戒した株式相場の崩落で状況が悪化した。多くの企業経営者は株式を融資の担保としており、株主資本を失いかねない状況に陥った。
 今年初めには事業環境が上向き始めていた。輸出の新規受注の回復と同時に、中国当局は弱腰の大手金融機関に融資をせっついた。銀行当局によると、3月末には大手5行の中小事業者向け貸出残高は18年末時点より17%増加した。貿易摩擦を巡る警戒感の後退も株価回復の追い風になった。
 こうした点を踏まえると、米国の関税引き上げは中国民間部門の回復を支える2本の柱をなぎ倒す可能性がある。輸出はさらに打撃を受けるだろう。株式相場は再度低迷している。
 残るは低利融資だ。中国にはまだ金融政策を緩和する余地が多く残っている。10日は追加緩和への期待感から、上海株式相場は3%上昇した。大連市場では鉄鉱石先物も値上がりした。
 中国が再び融資を大盤振る舞いするならば、対象は資金の活用方法を知っている民間企業の方が、公共部門のインフラ整備事業より好ましいかもしれない。
 そうはいっても、貸し出された資金の大半は不動産を筆頭に、なじみの場所に行き着くだろう。米中が近く合意できなければ必ず中国の景気回復が脱線するというわけでもないが、恐らく金融緩和につながり、中国不動産市場と金融機関のリスクがまたも増大するだろう。
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