自民は本当に強いのか 楽観できない「投票力」
自民は本当に強いのか 楽観できない「投票力」 論説フェロー 芹川 洋一
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2019/6/17 2:00
日本経済新聞 電子版
衆参同日選はどうやら、ないらしい。19日には党首討論が設定されている。野党は安倍晋三内閣の不信任決議案の提出を準備している。なお波乱の芽がないわけではないが、会期どおり26日に国会が閉幕し、参院選単独の戦いとなるのだろう。
12年に一度、統一地方選と重なり自民党には鬼門の「亥(い)年」の参院選だが、衆院選をぶっつけなくても勝てると判断したようだ。たしかに世論調査をみる限り、安倍自民党は盤石だ。内閣支持率は50%を超え、政党支持率も40%を上回る。野党の弱体ぶりは、いうまでもない。
自民党として敗北をきっすることはないと踏んでいるに違いない。
そうした選挙予測に、異を唱えようというわけではないが、世論調査と選挙結果の間には、過去の経験からどうも微妙なずれがある。
そんな思いでいたとき、外務省の鈴木量博北米局長に話を聞く機会があった。
そこでどうしたか。鈴木局長によると、在米大使館の議会班がさまざまなデータをもとに、投票結果を左右した要因を分析した。その結果、新たな指標を考え出した。
そこから、どれだけの人が実際に投票したかの数字がはじき出せる。ある層を基準として比較すると、どの程度、人口の割合と投票率が投票に影響をおよぼしたかが見えてくる。それを「相対的投票力」と名づけた。
18年の下院選挙では、人種別でヒスパニックを1とすれば黒人は1.3、アジア系は0.38で、白人は何と7.59にのぼる。白人のパワーが桁違いに強いことがわかる。
年齢別は18~29歳を1として、ウエートがいちばん高いのは45~64歳の2.72。次が65歳以上の1.96、そのあと30~44歳が1.57だ。
中高齢の白人にアピールする訴えをしないことには当選がおぼつかないことが、はっきりと数字からみえてくる。
鈴木局長は「16年の大統領選挙でトランプ選対は、白人の強い投票力をしっかり考えて行動に移した。だから世論調査とは違う結果が出た」と分析している。
ひるがえって日本はどうか。相対的投票力の手法を借用し、その応用編を考えてみた。日本の場合、人種別はないので年齢別だけだ。
調査時点にずれがあるが、傾向を調べたものと理解してもらいたい。18~19歳の部分が欠落しているのは適当なデータがないためで、お許しいただきたい。
20代を1とすると、30代は1.5だが、40代と50代は2.2になり、60代は2.8、70代以上は3.5と投票力は圧倒的だ。
高齢になるほど有権者数が多いうえに投票率も高いからおのずとそうした結果になってしまう。投票率は20代が35%なのに対し、60代は70%と倍だ。シニア層の政治的な影響力が大きくなるシルバー民主主義がいわれるゆえんだ。
与党(自公)と野党(それ以外)で、それぞれの回答率の和に年代別の投票力指数をかけあわせ「実効的投票力」をはじきだしてみた。
20代は与党が2.1で、野党の0.8を圧倒する。50代までは与党に野党の倍以上の投票力がある。ところが60代は与党5.2、野党4.4と肉薄し、70歳以上も与党6.1、野党4.5とけっこう近づいてくる。
60代では「まだ決めていない」との回答者が15%いる。この層の内閣不支持の割合は支持を大きく上回る。もし不支持者が野党に投票すれば与野党はほぼ並ぶ。シニア層の実効的投票力をみる限り野党は決してあなどれない。
安倍首相は周辺に「この人たちを変えるのはむずかしい。人生の不満が政権に向いている。むしろ未来があって支持の高い若い人たちのボリュームをあげていきたい」と漏らしているらしい。